2023年 第3回公開研究会
「教学マネジメント体制構築に向けたミドルマネジャー教員の役割と課題」
「教学マネジメント体制構築に向けたミドルマネジャー教員の役割と課題」
教学マネジメント体制を構築する上で、ミドルマネージャー教員の役割はますます高まっています。学位プログラムの現場の責任者である学部長・学科長をはじめとして、学長補佐やセンター長、さらにはプログラム主任など、様々なミドルマネジャー教員は、「質の高い学位プログラム(カリキュラム)の設計や導入」「学修成果・教育成果の可視化」「全学共通教養教育の再構築」などに関して、ミドル・リーダーシップを発揮することが求められています。
では、ミドルマネージャー教員にはどのような資質能力が求められるでしょうか? ミドルマネージャー教員を取り巻く状況にはどのような課題があるでしょうか? さらに、「ミドルマネージャー教員の育成」はどうすればよいのでしょうか?
今回の大学リーダーシップ公開研究会では、以上のテーマに関して、トップマネジメントからの提言やミドルマネジメント経験者等の実践報告を行います。そのうえで、参加者のみなさんとともにワークショップを行います。ミドルマネージャー教員に関する課題や解決策についてともに考えます。
開催日時:2023年2月26日(日) 13:00-16:30(12:30より受付開始)
開催場所:株式会社内田洋行 東京 ユビキタス協創広場 CANVAS(東京都中央区新川2-4-7)
https://www.uchida.co.jp/company/showroom/canvas/tokyo/index.html
プログラム
12:30- 受付開始
13:00- 第1部 講演・報告
基調講演 :大森 昭生(共愛学園前橋国際大学 学長)「教学マネジメント・学位プログラムの質保証の観点から求められるミドルマネージャー教員の役割と課題」
特別講演:榊原暢久(芝浦工業大学 教育イノベーション推進センター 教授)「ミドルマネジャー教員としての実践とミドルマネージャー教員の育成支援について」
実践報告:
成田 秀夫(山梨学院大学 学習・教育開発センター長)「共通教育の設計と導入―共通教育センターの立場からいかにすすめるか―」
吉村 充功(日本文理大学 教育推進センター長・学長室長 )「地域連携教育プログラムの設計と導入ー全学方針と専門教育をいかにすり合わせるか-」
山本 啓一(北陸大学 経済経営学部 教授)「カリキュラム改革の設計と導入―DP達成に向けたスリムなカリキュラムをいかに導入するか―」
14:45- 第二部
ワークショップ「ミドルマネージャー教員のリーダーシップ育成と課題」
シェア、質疑応答等
報告
第3回公開研究会「ミドルマネージャーの役割」には、25校以上の大学・民間企業50名にご参加いただきました。
大森学長は、教学マネジメントを推進する上でミドル教員が鍵であると主張し、ミドル教員に対しては「ビジョナリーであること=大学のビジョンを共有していること」「学習者であること」「責任感・判断力・提案力を持つこと」の3つが提示されました。
まず、教学マネジメントの理念や学習者本位の教育への転換の重要性、学習成果の可視化について説明したうえで、特に、ミドル教員の役割として、学生の成長にコミットすることの重要性を強調し、トップのビジョンと現場の実態をつなぐ存在としてのミドル教員の重要性を指摘されました。
ミドル教員に関しては、「ミドル教員は単に教員を動かすだけでなく、学生の成長にコミットすることが最も重要です。学位プログラムの責任者として、全ての学生をディプロマポリシーにたどり着かせる道筋を作ることがミドル教員の使命です」と述べられています。
また、学修成果の可視化については、「学生自身が自らの成長を認識し、エビデンスとともに説明できることが重要であり、大学による教育成果の可視化とは区別して考える必要がある」と指摘し、ミドル教員がこのプロセスをどのように支援すべきかについて問題提起を行いました。
榊原教授は、芝浦工業大学で手掛けられた新任教職員研修プログラムの構築や学習成果の可視化への取り組みなどの事例を紹介されました。その中で、ミドル教員の育成支援として、研修プログラム重要性や他大学との連携の効果について言及し、ミドル層が大学全体の教学マネジメントを支える基盤となることを強調されました。
特に、芝浦工業大学で実施している30時間の新任教職員研修プログラムの内容や効果について、「このプログラムを通じて、教員間の横のつながりが生まれ、教学マネジメントに関する共通言語が形成された」と述べ、ミドル教員の育成における組織的アプローチの重要性が強調されました。
学修成果の可視化への取り組みとして、MDPの詳細化やカリキュラムツリーの精査、ポートフォリオの活用などについて具体的に説明し、「これらの取り組みを通じて、ミドル教員が学生の学習成果を把握し、適切な支援を行うことが可能になった」と述べました。
ミドル教員としてFD・SDプログラムを仕掛け、カリキュラムを手掛け、さらにはミドル教員研修も実施した経験の中で、「他大学の状況を知ること」の重要性を訴えました。
(1).山本 啓一(北陸大学 経済経営学部 教授)「カリキュラム改革の設計と導入―DP達成に向けたスリムなカリキュラムをいかに導入するか―」
山本は、学部長は教員の代表であると同時に、学生の責任者であり、カリキュラムの責任者でもあることを指摘し、この3つの役割をバランスよく果たすことが、効果的な教学マネジメントにつながると述べ、ミドル教員特に学部長の役割について強調しました。
(2)吉村 充功(日本文理大学 教育推進センター長・学長室長 )「地域連携教育プログラムの設計と導入ー全学方針と専門教育をいかにすり合わせるか-」
吉村は全学組織のミドルマネージャーとしての経験について報告し、トップと現場の思いのすれ違いを調整する役割の重要性を強調しました。「ミドル教員は、トップのビジョンと現場の実態をつなぐ重要な存在であり、時にはトップと現場で異なる言葉を使いながら、双方の意思疎通を図ることが求められる」と述べ、ミドル教員のコミュニケーション能力の重要性を指摘しました。
(3)成田 秀夫(山梨学院大学 学習・教育開発センター長)「共通教育の設計と導入―共通教育センターの立場からいかにすすめるか―」
成田は教養教育の観点から報告を行い、ミドル教員が専門教育と教養教育をつなぐ役割を担うことの重要性を指摘しました。成田氏は、「教養教育と専門教育の有機的な連携が、学生の総合的な成長につながるが、ミドル教員はこの連携を促進する重要な役割を担っている」と述べ、教育プログラム全体を俯瞰する視点の重要性を強調しました。
参加者が8つのグループに分かれ、「教学マネジメント・学位プログラムの体制構築におけるミドル教員の役割」「ミドル教員に求められる資質能力」「教学マネジメントのミドル教員の育成」という3つのテーマについて活発な議論を行いました。各グループからは、ミドル教員の選出方法や育成プログラムの内容、大学の組織文化や学問分野の特性を考慮したマネジメントの重要性など、多岐にわたる意見が出され、参加者間で活発な意見交換が行われました。
研究会を通じて、教学マネジメントにおけるミドル教員の重要性が再確認され、その役割や育成方法について多様な視点から意見が交わされました。特に、ミドル教員に求められる資質として、大学のビジョンに基づいた共感性や調整力、コミュニケーション能力の重要性が指摘されました。
一方で、ミドル教員の定義や範囲、選出方法、育成プログラムの内容など、さらなる検討が必要な課題も明らかになりました。特に、大学の規模や特性によってミドル教員の役割が異なる可能性があることや、教員のキャリアパスの中でミドル教員としての経験をどのように位置づけるかなど、今後の研究や実践において深めるべき論点も浮かび上がりました。
アンケートより
1. 研修の有効性
参加者からは特に以下の点が評価されています:
ミドルの役割と責任の明確化
実践的な課題解決アプローチの共有
学部長等の具体的な職務像の提示
多様なアプローチの可能性への気づき
特に注目すべきは、「学部長はトラブルシューターの役割が大きいと認識していたが、それは役割の一部に過ぎない」という気づきが得られたように、ミドル層の役割についての認識が大きく深まった点です。
2. ミドル教員に求められる資質・能力
アンケートからは以下のような要素が浮かび上がっています:
危機意識とアンテナ力
コミュニケーション能力
変革への対応力
ビジョンの構築と共有能力
合意形成のスキル
問題解決能力
特徴的なのは、「健全な鈍感力」という指摘にみられるように、組織運営における心理的なバランス感覚の重要性が認識されている点です。
3. 研修ニーズ
今後求められる研修として:
新任学部長向けの実践的研修
具体的な事例に基づく掘り下げた議論
ミドル予備軍の育成プログラム
組織開発・大学改革のケーススタディ
文科行政の基礎知識
特に、就任前の体系的な学びの機会の必要性が強く認識されています。
本研究会の特徴的な成果は以下の3点に集約できます:
第一に、これまで十分に注目されてこなかった大学組織におけるミドルマネジメントの重要性を明確化し、その役割と責任を具体的に提示したことです。特に、学部長等の役職が「受動的就任」であることが多い現状において、体系的な学びの機会を提供した意義は大きいと思われます。
第二に、グループ討議等を通じて実践的な課題解決の方法が共有されたこと。参加者間の対話を通じて、多様なアプローチの可能性が示され、それぞれの文脈に応じた解決策を考える機会となったことです。
第三に、ミドル層の育成に向けた具体的な示唆が得られたこと。特に、「学部長の教科書」への期待に象徴されるように、体系的な学びの必要性と、そのための具体的なコンテンツへの示唆が得られています。
今後の課題としては、就任前の体系的な研修機会の創出や、より具体的な事例に基づく学びの場の提供が求められています。また、トップマネジメントとミドルマネジメントの連携や、教職協働の実質化など、組織全体の効果的な運営に向けた視点も重要となっています。
備考
キャンセルやその他お問い合わせにつきましては、北陸大山本(ke-yamamoto@hokuriku-u.ac.jp)または事務局の佛教大学水谷(toshimiz@bukkyo-u.ac.jp) までご連絡ください。
本研究はJSPS科研費 基盤研究(C)の助成を受けたものです(「教学マネジメントにおける学部長等のミドルリーダーシップ研究」(代表:山本啓一))