東京医科歯科大学 難治疾患研究所

病態生理化学分野

大学院医歯学総合研究科   脂質生物学分野

News& Topics

・ Biochemical Society Meeting "The PI3K-AKT-mTOR-PTEN pathway: a new era in basic research and clinical translation"  

2023 Sept 13-15, Barcelona, Spain    プログラム・招待講演

・ 8th World Congress on CANCER RESEARCH AND THERAPY  

2023 Jul 19-20, Frankfurt, Germany    プログラム・招待講演

・ EMBO Workshop "Inositol lipids: Signaling platforms for organizing cellular architecture and physiology"  

・ FASEB Conference "The Protein Phosphatases Conference" 

研 究 紹 介

「脂質」に着目した医学・生命科学研究

   生物を形作り、その活動を支える物質は大きく三つの階層に位置付けることができます。情報の流れの上位から、遺伝子-タンパク質-代謝物質です。代謝物質は生物の在り様(表現型)を直接制御する位置にあります。遺伝子、タンパク質の影響を受けて量的、質的に変動し、また、食事や薬物の摂取、腸内細菌のような共生生物によってもたらされ、生物内外の環境から影響をうけています。

   「脂質」は水に難溶の代謝物質の総称で、膜形成による細胞の区画化、エネルギーの貯蔵、細胞内外のシグナル伝達に利用されています。遺伝子やタンパク質と比較すると解析手法が一般化されていないことなどもあり、脂質は研究が遅れている生体分子群ということができます。それだけに、新しい生命原理の提示や、疾患の克服に役立つ知見が多く眠っている研究対象であると考えています。実際に、質量分析技術の向上によって、最近になって新規生理活性脂質の同定も相次いでいます。私たちの研究室でも、がん、神経疾患、炎症疾患などで変動する新規構造を持つ脂質を同定しており、生成酵素、分解酵素の同定、生理機能と作用機序の解析を進めています。

病態生理化学/脂質生物学研究の4原則

      脂質と病態形成の関係を見出し、提示する基礎研究を進めるうえで私たちは、

「病態生理化学/脂質生物学研究の4原則」を提唱しています。

コッホの原則(Koch's postulates)の脂質研究バージョンです。

     ①    ヒトのある病態で変化する特定の脂質を見出すこと

     ②    その脂質の代謝酵素を同定すること

     ③    その代謝酵素を実験動物で欠損/発現させて同じ病気を起こすこと

     ④    その病態で ① と同じ脂質の変化を見いだすこと

    代謝酵素に代えて脂質が作用する標的タンパク質を当てはめたバリエーションもあります。

    このような基本的な考え方に則って、以下の多種多様な疾患の病態解明と、その理解に基づいた医療応用課題にチャレンジしています。

・新規リン脂質およびその代謝酵素の同定

・がんの発生と悪性化に関わるリン脂質の同定

・大脳基底核神経変性に関わるリン脂質の同定

・肺炎、大腸炎、肝炎の病態形成に関わるリン脂質の同定

・リン脂質による標的タンパク質活性化機構の解明(MD simulation、proteomics)

・脂質プロファイルによるリンパ腫の層別化

・脂質プロファイルによるがん(乳がん、膵臓がん、リンパ腫等)の分子標的薬感受性予測法の確立

ホスホイノシタイド(PIPs)と疾患

   私たちの研究室ではホスホイノシタイド(イノシトールリン脂質群/PIPs)と呼ばれる微量リン脂質群に着目しています。約40 種類のホスホイノシタイド代謝酵素(キナーゼやホスファターゼ)の遺伝子改変マウスを作製し、がん、炎症性疾患、神経変性疾患をはじめとする難治疾患の病態研究に利用しています。また、ホスホイノシタイドの質量分析技術を新たに開発し、病態モデルマウスやヒト疾患サンプルに適用することで、代謝酵素遺伝子の異常や生活習慣による病態発現機構を、脂質分子レベルの変化で理解することに取組んでいます。これらによって、脂質による生体調節機構の理解を深め、難治疾患の治療標的の提示や、薬剤感受性予測マーカー、疾患層別化マーカーなどの開発を目指しています。

研究領域の背景、用語集等

    私たちの研究領域の背景、用語集などを随時アップしています。内部学生向け備忘録として作成しています。

・ PI3キナーゼ/PTENの異常と病態