常用閉塞方式・保安装置について
常用閉塞方式・保安装置について
東上線の常用閉塞方式は下記の通りです。
・池袋~小川町(10両ツーマン区間):自動閉塞式(~2015年)/ATSによる→車内信号閉塞式/ATCによる(2015年~現在)
・小川町~寄居、越生線(8000型4両ワンマン区間):自動閉塞式/ATSによる
現在の東上線池袋~小川町は、2015年1月の8000系10両編成の引退直後から、3区間に分け段階的にATC(T-DATC)による車内信号閉塞化が進められ、
2015年9月26日の池袋~和光市間への導入をもって、池袋~小川町間のATCによる車内信号閉塞化が完了しています。
公開データは全線ATS自動閉塞時代の2015年以前をモチーフとしており、高橋うさお様制作のメトロ総合プラグイン・東武ATS機能を組み込んでおります。
そのため、運転には東武ATSシステムの理解が必須となります。東武ATS機能の理解なくして、当方制作シミュレーターでの正しい運転は出来ません。
東武ATSシステムなどに関しては、高橋うさお様のサイト「東武ATS試験線 運転操作ガイダンス」を熟読・理解していただければ一切問題ありませんが、念のため当サイトでも解説いたします。
素晴らしいプラグインを開発された高橋様には大変恐縮ですが、こちらで感謝申し上げます。
なお、当路線データのATC化、およびそれに伴う新システム(TASC、ホームドア設置・連動等)の導入を行う予定はありません。
=東上線池袋口8000系10両編成の、Bve上での引退予定はありません。2005年頃(8000系未修繕車現役最末期ごろ)の再現構想はあります。
保安装置:東武ATSについて
正式名称:TSP型ATS(東武型多情報変周式、関数制御式自動列車停止装置)
昭和42年、運輸省(当時)からの通達により整備が行われ、大きな改良なく現在でも東上線池袋~小川町間以外の東武各線で使用されています。
東武線の路線・車両事情を鑑み、パターン式の連続照査が採用されました。長らく「ATS-S」等の保安装置しか導入されず、停止信号冒進による死傷事故を幾度となく引き起こしてきた国鉄/JRなどと比べ、安全性に優れた保安装置と言えるでしょう。
本ATS導入時の基本的な考え方は以下の通りです。
ー電気車の科学1967-10(電気車研究会編) 東武型多情報変周・関数制御式 自動列車停止装置(TSP型ATS)概説ー より抜粋(国立国会図書館所蔵)
(イ)停止信号の手前に列車を停止せしめる。
(ロ)列車の運転能率を現在より低下させない。
(ハ)不正な運転が行われたときにのみ動作する。
(二)速度制限に連続性を持たせる。
(ホ)貨物列車に対しても適用可能である。
(へ)入換信号機に対しても適用できる。
(ト)設備・非設備区間の切替えを要さない。
(チ)確認操作は原則として不要とする。
(リ)本線・東上線・都営地下6号線と共用可能である。
(ヌ)現有設備に対し、大巾な改良を要さない。
(ル)運輸省が示した、自動列車停止装置の構造基準に適合する。
信号による速度制限・ATS速度照査について
東上線における、信号による速度制限は以下の通りです。全車共通です。
進行現示(G)=100キロ(105キロを超えるとATS動作)
減速現示(YG)=75キロ
注意現示(Y)=55キロ(照査あり)
警戒現示(YY)=25キロ(照査あり)
停止現示(R)=0キロ(照査あり)
※東上線の最高速度は100キロで、加えて各種別/区間ごとに最高速度が定められています。
ATC化により最高速度が105キロから100キロに下がったといわれることがありますが、それは誤りで、もともと100キロです。
【参考】東上線に於ける標準的な信号現示パターンは下記のとおり
R→YY→G
R→Y→G
R→YY→YG→G
R→Y→YG→G
R→YY→Y→G
R→YY→Y→YG→G
東武では、1、3のようにG→YY25キロ、YG75キロ→YY25キロといった現示パターンが、
停車場手前などで多く見られます。
「この現示パターンは本当か?」という声をよく耳にしますが、東武では、特筆するまでもない、至極普通の現示パターンです。
自列車と先行列車の退避関係をよく確認し、場内進路未開通時にはどのような現示パターンを自列車が受けるのか、各停車場ごとによく理解の上運転してください。
東武ATSでは上記の信号現示のうち、注意・警戒・停止現示に対して、パターン式の速度照査が行われます。
当方制作の東上線公開区間における、基本的な速度照査パターンの概要図を以下に示します。
東武ATSでは、1つの信号機に対してP1・P2の2つの地上子が設置されています[注1]。
各区間でのパターン挙動の説明は以下の通りです。
照査パターンを超過すると、直ちに力行回路が遮断され、非常制動が動作し、照査速度以下に減速します。超過しないように、各パターンにおいて余裕のある手動の制動手配を執ってください。
区間①(第1パターン発生)
通常速度で走行中の列車は、この先の信号の注意現示を認め、①区間のP2地上子(信号機の約180m~210m手前[注1])を通過します。
P2地上子を通過すると、次のP1地上子(基本的に信号機の30m手前)までに95/85キロ[注2]から60キロへ降下する第1パターンが発生します。
パターンが発生すると速度計には60のランプが灯ります[注3]。
万一この速度降下パターンを超過すると、直ちに力行回路が遮断され、60キロ以下になるまで非常制動がかかります。
警戒信号の場合も同様のパターンが発生します。
区間②(第1パターン持続)
区間①のP1地上子を60キロ以下の速度で通過し、区間②に進入し、注意現示信号機(制限55キロ)を通過します。
区間②では60キロの第1パターンが維持されたままとなります。
警戒信号の場合も同様、60キロパターンが維持されます。
区間③(第2パターン発生)
区間②を走行中、運転手はこの先の停止現示を認め、区間③に進入します。
区間③でP2地上子を通過すると、60キロから15キロへの第2パターンが発生します。
パターンが発生すると速度計には15のランプが灯ります[注3]。
万一この速度降下パターンを超過すると、直ちに力行回路が遮断され、15キロ以下になるまで非常制動がかかります。
P1地上子の約40m手前付近で降下パターンは15キロへ到達するので、余裕のあるブレーキングを心がけて下さい。
停止現示による停止の場合、その信号機の外方50mを標準とする位置に停車して下さい。
なお区間③(第2パターン発生時)でのP1地上子は、停止現示を示している信号機が絶対信号機か許容(閉塞)信号機であるかによって機能が異なります。
①停車場にかかわる絶対(場内・出発)信号機の場合:P1地上子を通過と同時に即時停止動作。停止後の運転再開には復帰扱いが必要です。
※即時停止動作後、ATS復帰扱い/運転再開には指令への報告が必要です。またATS復帰扱い後も、15キロのフラットパターンが持続し、次のYY現示以上に対する信号用地上子を通過するまで解消されません。
②許容(閉塞)信号機の場合:即時停止無し。15キロのフラットパターン持続。停止現示から現示上昇した際のパターンの上昇・消去する機能のみを担う。
東武ATSは地上子のみを用いた保安装置ですので、発生したパターンの解消には、信号用地上子(P2/P1/P1-2/P1-3...)の通過が必須となりますので、この点特段気を付けて下さい[注4]。先の信号機の現示が上昇したとしても、YY現示以上に対する信号用地上子を踏まない限り、当然ながらパターンは持続します。
[注1]:
東上線では全線に渡り、1つの信号機に対する地上子は、信号機の種類にかかわらず基本はP1・P2の2つのみです。但し、ごく一部の信号機に対してはP3地上子が設けられていました(例:下板橋下り出発、成増~和光市下り第7閉塞、鶴瀬下り出発相当閉塞など)。P3地上子はP2地上子のさらに信号機の外方(信号機手前220m~400m付近)に設置され、該信号機が注意・警戒現示の際に95 /85キロの照査を行い、95 /85キロのパターンを持続したまま上図のP2区間に進入し、以降は上述の通りです。設置基準は不明です。
また、地上子の配置は現実に即した設置としており、すべての地上子はGoogle Earthを用いて位置測定のうえ設置しております。図にも「標準○m」と記載している通り、当該閉塞位置の勾配や区間最高速度等が考慮されて設置されているため、場所により配置が少々異なります。
[注2]:
照査開始速度は、車両の制動力に応じて95~85キロの範囲で決められております。BVEでの照査開始速度は、車両を問わず90キロです。
[注3]:
一部の車両(T-DATC対応運転台車両)では60および15ランプの点灯ではなく、青色の逆三角(▼)が速度計の60、15キロの位置に点灯します。
[注4]:
P1-2/P1-3...地上子は、P2~P1間に設置されている地上子で、現示上昇時、発生しているパターンの解消のみを担い、信号制御に直接の関連はありません。
設置箇所は、列車間隔が詰まりやすい一部の第一閉塞/場内/場内相当信号機-110m付近(P1とP2の間)、ホーム中程(かつて運行されていた6・8両編成の停止位置+約5m先→兼MPP照査解消)のみであり、かなり限定されていました。
駅誤通過防止ATS(MPP)による速度照査について
東武ATSには駅誤通過防止を目的としたATSがあり、東上線では専用地上子(MPP地上子)を用いた速度照査が行われていました。
このATSは信号機用ATSと同様にパターン式の速度照査が行われますが、信号機用とは独立して機能しており、地上子も青色に塗られて区別されていました(詳しくは後述[地上子の種類を参照])。
このATSはあくまでも、種別誤認等による駅の完全なる通過事故を防ぐためのものであり、停車駅でのオーバーランを防ぐものではありませんので、注意してください。
設置目的は上記のとおりであり、通常運転時にこの照査パターンを気にする必要は一切ありません。この照査にかかるようでは、非常制動無しで列車は所定位置に停車できないものと思われます。
以下に駅誤通過防止ATS(MPP)による速度照査パターン概念図を示します。
駅誤通過防止用ATSでは、停止位置の手前に2つの地上子MPP2・MPP1と呼ばれる青色の地上子が配置されています[注1]。
ただし、出発信号機が常に停止現示を示している(R定位)の停車場(例:中板橋/成増/志木などの副本線)や、終端部駅(例:池袋)などには設置されていません。
各区間でのパターン挙動の説明を以下に記します。
区間①(第1パターン発生)
通常速度で走行中の列車は、停車駅に接近し駅の手前にあるMPP2地上子(基本的に停止位置-約281m)を通過します。
MPP2地上子を通過すると、ホーム中ほどに設置されたMPP1地上子(基本的に停止位置-111m)までに95/85キロ[注1]から60キロへ降下する第1パターンが発生します。
パターンが発生すると速度計には60のランプが灯ります[注2]。
万一この速度降下パターンを超過すると、非常制動がかかり、列車は停止します。運転再開には復帰扱いが必要です。
区間②(第2パターン発生)
MPP1地上子を通過で60キロへの降下パターンが完了し、それと同時に次の60キロから15キロへ降下する第2パターンへ移行します。
15キロへの降下パターンが発生すると速度計には15のランプが灯ります[注2]。
万一この速度降下パターンを超過すると、非常制動がかかり、列車は停止します。運転再開には復帰扱いが必要です。
15キロ以下へのパターンはありません。
この誤通過防止パターンは所定停止位置停車、ドアの開閉~出発後、停止位置の数メートル先に必ず設けられている、出発(出発相当)信号機のP1/P1-2/P1-3地上子を通過すると消去されます。
[注1]:
照査開始速度は、車両の制動力に応じて85~95キロの範囲で決められております。BVEでの照査開始速度は、車両を問わず90キロです。
[注2]:
一部の車両(T-DATC対応運転台車両)では60および15ランプの点灯ではなく、青色の逆三角(▼)が速度計の60、15キロの位置に点灯します。
MPP地上子の配置も現実に即した設置としており、すべての地上子はGoogle Earthを用いて位置測定のうえ設置しております。図にも「基本○m」と記載している通り、一部の駅では異なる配置となっている駅があります。
上述した信号現示に対するATS速度照査と、MPP速度照査の両方が発生している場合には、照査パターン速度の低い方が優先されます。
現実に即した地上子配置にしているため、プラグインの都合により実際の動作とは異なります。特に最新版メトロ総合プラグイン搭載車両では、MPP2の照査パターンにおいて、実際よりも若干厳しいMPP照査が行われます。東武流の余裕のある制動を心がけて運転すれば、支障ありません。
※A7様にて制作・公開いただいている50000系列で運転の際は、末尾に「_oldats」がついているファイルの車両パス指定を推奨いたします。
※本装置については、文献が見つからなかったため推定動作になります。信号用照査パターンを応用しているものと考えられます。
急曲線・終端部における速度照査ATSについて
一部の急曲線・分岐部、過走余裕のない終端部などには、速度照査用のATSが設置されている箇所があります。
急曲線における速度照査ATSは、西日本旅客鉄道の福知山線脱線事故を受け、平成18年に改正された省令に対応するため、東武各線で急速に設置が進められました。
ただし東上線ではATC化を見据えていたこともあってか、設置箇所は省令改正による設置義務となった?上り線北坂戸~坂戸の曲線部(区間制限90→45キロ制限、▲45キロ)のみであり、その他分岐・曲線部での速度照査はありません。
過走余裕の無い終端部での速照ATS設置箇所は複数ありますが、公開区間設置箇所は川越市場内のみです。
任意の速度で照査が可能な、タイマー回路を用いた典型的な「点照査」です。
地上子が2基一対で設置されています。進行方向手前のものは緑色に塗られ、「速照」の文字記載があります。奥の白い制御地上子は、通常の無地のものです。
進行方向手前の緑の地上子(検知用地上子)を通過すると同時にタイマー回路が動作し、タイマーの動作時間と、奥の白い地上子(制御地上子)を通過する時間とを比較照査し、通過時間が1秒を下回った場合にATS0情報が与えられ、列車は非常ブレーキにより停止させられます。そのため、速度超過時のATS動作箇所は、奥の白い制御地上子通過時となります。
運転再開にはATS復帰扱いが必要です。
多くの場合、地上子の手前に照査速度を示す「ATS10」といった表示や緑色の照査速度標識がありますが、一部ではない場所もあるようです(川越市下り中線=10キロ照査点)。
2点タイマー式速度照査の最大の欠点とされるのが、連続的な速度照査機能を有していないことです。つまり、この速度照査地点を超えてしまえば、制限速度以上へ再加速できてしまうという点です。この欠点を補うため、依然ATSである東武本線などでは、新型の東武ATS(T-ATS-P)の開発が進められているようです。
踏切防護ATSについて(再現なし)
東武線全線において、自動踏切支障報知装置(俗にいう障検)が整備されている全ての踏切には、踏切防護ATSが連動設置されています。
このATSは、踏切の支障を検知すると、踏切の所在する区間の列車最高速度により算出された位置(=非常制動距離+空走距離以上の距離)に設置されたATS地上子に0情報を送り、非常ブレーキを動作させ、当該踏切の手前に列車を停止させるものです。
停止し復帰扱い後は15キロのフラットパターンが発生し、解除にはその先にある解除用地上子(前方信号機より一情報上位の情報を伝送する)の通過が必要です。但し、踏切前方300m以内に信号機がある場合、設置省略です。※東上線公開区間に、踏切防護パターンの解除地上子の設置箇所はありません。
なお、駅構内踏切の場合、本地上子ではなく、既設の場内・出発信号機を停止現示させ、P2、P1地上子に第1・第2パターン情報を伝送し、列車を停止させます。
手動押釦式踏切支障報知装置は東武鉄道における全ての踏切に設置されており、自動踏切支障報知装置設置踏切(=踏切防護ATS設置あり)では、手動押釦動作時に発光信号動作に加えて、本ATSが同様に作動します。
※公開データでは障検動作および踏切防護ATSの動作再現は行いません。
地上子の種類に関して
当方制作・公開区間に設置されている地上子を、上述したATS地上子を含めて以下の図に記します。
以下、上図地上子の説明です。
①信号用地上子:上述した信号用の地上子です。P1~P3まで外見上の差異はありません。
②駅誤通過防止用地上子(MPP):上述した駅誤通過防止用ATS(MPP)地上子です。信号用地上子とは独立して機能します。青色に塗られています。
③踏切防護用地上子:上述した踏切防護用地上子です。信号用地上子とは独立して機能します。タイガーの印があります。
④信号・駅誤通過防止用地上子:①+②の機能を持ちます。青色の斜線があります。
⑤信号・踏切防護用地上子:①+③の機能を持ちます。タイガーの印とATS/RC(=Railroad Cross)の記載があります。
⑥速度照査用地上子:上述した速度照査用ATS地上子です。進行方向手前の緑の地上子が検知用地上子、奥の白い地上子が制御地上子です。ATS動作点は奥の白い制御地上子通過時となります。「ATS10」標識は、該箇所の速度照査が10キロであることを示します。
運転の際に特段の注意が必要になるのは、②③の地上子です。
仮に信号に対する照査パターンを受けて走行している時、先の信号機の現示が上昇した後に、②、③の地上子を通過としても信号に対する照査パターンは解消されません。②、③の地上子は信号機とは独立して機能しているためです。信号現示上昇後に信号用速度照査パターンを解消して加速するためには、①、④、⑤の信号制御に関連のある地上子の通過が必要です。
実際には、これらの地上子を高速で走行中に見分けることは困難であるため、おおよその位置から信号機用の地上子を推定しかつパターンにひっかけることのない余裕のある運転が求められます。地上子においても軌間にあるため汚れてしまったり、踏切防護を示すタイガーの印が剥がれていたりするものも多く、この地上子の見分けはあまり重要視されていなかったようです。 そして何より、パターンすれすれをつくような運転は、東武では行いません。余裕を持った制動を常に意識して下さい。前述の東武ATS導入時の基本的な考え方「(ハ)不正な運転が行われたときにのみ動作する。」が大前提です。
踏切防護地上子動作の再現はありません。
参考文献 国立国会図書館所蔵
電気車の科学20(10)234
信号保安22(10)
鉄道と電気技術 1995.7 、2011.4
以上が基本的な、当路線データを正しく運転するために必要となる東武ATSについての説明となります。
なお、ATS時代に実際に行われていたような東上線の現実的な運転をするためには、上記システムの基本をよく理解したうえで、
当方ブログでのより詳細なATS関連の説明、東武流運転スタイルなどへの理解が必要となります。
よろしければこちらもご確認ください(準備中)→当方ブログ