何となく「感覚が鋭い。」とか「あの人は感覚が優れている。」とか使ったりしますが感覚と知覚と認知で意味の違いを確認してみたいと思います。
私たちが何かを感じたり、考えたりするときには、大きく分けて感覚、知覚、認知という3つのステップを踏んでいます。
これは情報を受け取る最初のステップです。
イメージ: 相手があなたに触れてきた、という物理的な力が、あなたの皮膚にある「センサー(感覚受容器)」にぶつかるイメージです。
何が起こるか: センサーがその「触れられた」という物理的な刺激(圧力や振動など)を「電気信号(神経インパルス)」に変換して、脳へ向けて送り出す作業です。
例: 「ピリッ」と、何かが触れたという生の情報が送られる。
これは脳が信号を解釈するステップです。
イメージ: 脳が受け取った電気信号を、「これは誰が、どこを、どういう強さで触ったのか?」と組み立て直す作業です。
何が起こるか: 感覚から送られてきたバラバラの信号を、意味のある情報として整理し、「あ、左肩を軽く押されたな」と認識します。
感覚の「慣れ」(順応)について
感覚には「順応(じゅんのう)」という不思議な仕組みがあります。
順応とは: ずっと同じ刺激が続くと、センサーが「もういいや」と反応を弱めてしまうことです。いわゆる「慣れ」です。
例: ずっと同じ場所を触られていると、最初は分かったのに、だんだん感じなくなってきますよね。これが順応です。
ポイント: 物理的な刺激の強さや方向が変わると、センサーはすぐに反応を再開します。
例: ずっと軽く押されていたのに、急に強く押されたり、引かれたりすると、「押してきたな!」とハッキリ分かりますよね。これは順応がリセットされたからです。
これは一番高度な頭の使い方です。
イメージ: 知覚で得た情報(「左肩を軽く押された」)を、過去の経験や知識と照らし合わせて、これからどうするか考えるステップです。
何が起こるか: 思考したり、記憶を引っ張り出したりして、次の行動を計画します。
柔術での例:
1回目(初めての技):型の形とコツを教わる
感覚: 接触の物理的な刺激をキャッチ。
知覚: 「手首を押えられた」と認識。
認知: 「初めての型だ」→ 型の流れを説明されその通りに行う。
2回目(同じ技):
感覚: 接触の物理的な刺激をキャッチ。
知覚: 「手首を押えられた」と認識。
認知: 「前に教わった型だ」と記憶と照合。「手順とコツを思い出しながら掛けよう」と計画(意思決定)する。
相手に触れられた情報が、「ただの物理的な接触」から「どう対処すべきか」という行動計画に変わるまでには、感覚 → 知覚 → 認知という、脳の連携プレーが必要なんです!
さて柔術の中で感覚→知覚→認知を踏まえて上達していくにはどのように稽古をしていけば良いでしょうか。
まず感覚を鋭敏にすることが大切です。
知覚から認知へ同じ型を繰り返し行う中で適切に崩し→極められるよう経験を積み重ねます。
量は確実に必要ですが質が伴わないと上達しにくいです。
質を高く、量をこなす!
上達するにはこの方法が一番ちかく(知覚だけに)なるかもしれません😅
感覚における順応についてもう少し掘り下げてみましょう。
順応とは同じ刺激を継続的に受け続けた場合に、その刺激に対する感覚の感受性が次第に低下する現象です。これは、感覚器の受容器や感覚神経細胞が、持続的な刺激に反応し続けて疲労したり、応答性を調整したりすることによって起こります。
この順応は、私たちの注意を環境の変化や新しい刺激に向けることを可能にする、重要な機能を持っています。
絶えず存在する刺激にいちいち反応していると、脳が過負荷になってしまうため、感覚順応によって不必要な情報を「慣れ」として処理し、重要な変化に集中できるようにしています。
嗅覚: 強い匂いの中にいると、最初はきつく感じても、時間が経つにつれてその匂いを感じにくくなります(例:香水、不快な臭い)。
温覚: お風呂に入ったとき、最初は熱いと感じても、しばらくするとその温度に慣れて「ちょうど良い」と感じるようになります。
視覚:暗順応: 明るい場所から急に暗い場所(映画館など)に入ると、最初は何も見えませんが、時間が経つと徐々に物が見えるようになる現象です。
明順応: 暗い場所から急に明るい場所に出たときに、まぶしさに耐えられず、その後すぐに明るさに慣れる現象です。
触覚: 新しい服や時計を身につけたとき、最初は違和感があっても、すぐにその感覚に慣れて意識しなくなります。
馴化は繰り返される大きな音(花火など)に驚かなくなるというように感覚、知覚はされても行動や反応レベルでの変化になります。
順応しない感覚として痛覚は、生体にとって危険な刺激の情報を伝える重要な感覚であるため、原則として順応しないか、順応が非常に遅いとされています。これにより、危険な状態が持続していることを常に認識できるようになっています。
八光流の当身は、特定の急所に対し、一点集中型の鋭い打撃や圧迫を加えることが多い印象です。痛み刺激は2種類あり、速く伝わるAδ線維とゆっくり伝わるC線維があります。受容体はどちらも自由神経終末です。
Aδ線維は伝導速度が速く、鋭く、局所がはっきりした痛みを瞬時に脳へ伝達します。当身の瞬時の激痛はこのAδ線維による伝達が主である可能性があります。有髄なので飛び跳ねるように伝わり伝達速度が速い神経線維です。
一方C線維は伝導速度が遅く、鈍く、ジンジンとした持続性の痛みを伝えます。後に残らない当身は、組織破壊を伴うようなC線維を強く活性化する刺激を避け、あるいはC線維の活性化が持続しないような性質の刺激(瞬間的な高強度刺激)である可能性があります。
鋭い痛みの後ジンジンする場合はAδの後にC線維からの刺激伝達が2次、3次ニューロンを介して脳へ伝わり知覚認知されているということになります。
ライトタッチ効果とは、身体を支えられないほどの非常に軽い力(通常1ニュートン未満、指先で軽く触れる程度)で安定した外部の対象物(壁や手すりなど)に触れるだけで、立位姿勢の動揺が顕著に減少し、姿勢が安定化する現象のことです。
これは、触覚からの微細なフィードバック情報が姿勢制御に関わる脳の領域に伝わり、姿勢を調整するためのセンサーとして機能することで生じると考えられています。
身体を支えるほどの力は必要なく、ごく軽く触れるだけ立っている時の体の揺れ(姿勢動揺量)が大幅に減少します。特に、閉眼で効果が大きくなることが示されています。
指先から得られる触覚情報(接触面の硬さ、動きなど)が姿勢を自動的に補正、軽く触れるという繊細な動作の精度を維持しようとすることで、姿勢の安定性が向上することが考えられます。
また、近年では、外部の固定物だけでなく、人間同士が軽く触れ合う(対人ライトタッチ)ことでも姿勢の安定化や、互いの姿勢動揺の同調現象が起こることが研究されています。
さて柔の稽古でライトタッチ効果はどのように活用されている、或いは活用できそうでしょうか。
ライトタッチ効果の核は、触覚が姿勢を安定させるための高感度なセンサーとして機能することです。柔術では、暴漢役は思い切り掴みかかるのですがこちらは相手の体の一部に軽く触れている、あるいはごくわずかな力で相手の手を持つ、握るこの「軽い接触」は、相手の動きや重心の微細な変化を察知するためのセンサーとして機能し、自分のバランスを調整したり、次の攻撃を予測したりするのに役立ちます。
ライトタッチ効果が最大限に発揮されるのは、身体に力を入れすぎていない、リラックスした状態です。柔術の巧いヒトは無駄な力を抜いてリラックスしながらも、良い姿勢を保ちバランスを維持しているように見えます。これは、無駄な筋緊張を避け、必要な所に、必要な時だけ瞬時に力を出す技術が優れているためです。過度な力で相手を掴むと、全身の筋緊張が高まり、自分のバランス調整能力を抑制してしまう可能性があります。また、あいての動きや重心の変化の感知が出来なくなります。
閉眼でA4用紙を両手で持っていた時にハエが一匹紙の上にとまったとして、思い切り紙を掴んでいるとハエがとまったことに気づきにくいですが、ふわっと持っていると感知出来やすくなります。「柔」ですからね。もちろん「やわらかく」持つことは必須ですね。