妊娠期、乳幼児期から老年期までのライフステージに合わせた食生活を考慮し,特にω3系脂肪酸の役割とその有用性について評価する.

脂質は,人間の生命維持に欠かせない三大栄養素の1つで,最も効率の良いエネルギー源である. 生体内では,飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸が,主にエネルギー源として蓄えられ利用され,多価不飽和脂肪酸のω6系とω3系の両脂肪酸は,成長・生殖生理,中枢神経系の働きなど主に生体内を調節している. しかし,生体内には,飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸から多価不飽和脂肪酸を合成する酵素がなく,体外より摂取しなければならない. なかでも,ω3系脂肪酸は,しそ油やアマニ油,魚油や水系動植物に特有の脂肪酸であるため,日常の食生活で接する機会は限られており,意識して摂取する必要がある. 

【多価不飽和脂肪酸,必須脂肪酸】

ω6系脂肪酸は必須脂肪酸であっても,様々な食材に多く含まれているため,不足を心配する必要はありませんが,ω3系脂肪酸は意識し魚介類やエゴマ油,アマニ油を摂取しないと,生体内のω6 / ω3が上昇して,慢性的なω3系脂肪酸不足状態となり,さまざまな臓器の機能低下が憂慮されます.

ω3系脂肪酸のDHAは,神経系組織に高濃度蓄積しており,脳や視覚機能に対して有効であることが多数報告されています. 例えば,DHAは,脳内ではリン脂質の形で高濃度に蓄積されており(1),記憶・学習などの脳機能と脳内DHA濃度に正の相関があることが示されています(2-5).近年では,キレ易さや打たれ弱さなど情動に関する脳高次機能のメカニズムとω3系脂肪酸に注目が集まり研究が展開しつつあります(6-9)

DHAは神経系機能に必須の脂肪酸ですが,成熟個体におけるDHAの脳組織への取込み速度は,血液や肝臓などに比べて緩慢で,十分な蓄積量に達するまでには長期間を必要とします(10). 脳組織への十分なDHA蓄積には,脳組織の脂質吸収が最も高まる胎児や乳幼児期が重要な期間となります(11-13). 胎児,乳幼児期は,栄養源を母体に依存しており,また,脂質の代謝の酵素活性も低いため,胎盤や母乳を介した十分量の直接的なARAやDHAの供給が必要です(14-16)

Reference:(1)~(16)