私たち夫婦はファミリーとして、国際協力への従事を中心に過ごしたインド・コルカタでの生活、農家として石垣の段々畑で果樹園芸をしてきた愛媛県での生活を経て、2017年の春にここ、山梨県早川町に移住。これまでは常に子育てがそばにありました。
早川町では保育所が遠方であったこともあり、生まれてからずっと家庭とともに、集落で地元の皆さんに温かく見守られ育った末娘が小学校に進学して学校で過ごす時間が長くなった分、手が離れた感があったことや、専従してきた非営利団体の地域づくり・まちつくりへの取り組みにも一定の成果が得られたと納得できたことをきっかけに、早川町での生活の中で重要な意味を持ち始めていたツリークライミング、石積み、山暮らしから得られる手作り品の生産にもっと力を入れ、山の自然や、暮らしの文化に基づいた、地域の皆さんに学び、培ってきた知見を活かしていくことを、エコロジカルなビジネスとして仕立て直し、これらの価値をもっと広げていきたいと考え、個人事業主として歩み始めることにしました。少しずつですが、職人的な事業体を目指していきたいと思っています。
この小さな事業体の名称である「Atelier moo」は〝ウミウシ〟にちなんだもので、「海」において「牛」を見出した日本人の想像力と、自分の細胞内に取り込んだ葉緑体によって、光合成で生成された糖などをエネルギーとして利用するチドリミドリガイ(ウミウシの一種)の生き様に感心し、その歩みを自分たちもと考えたことによります。
石積みや樹木管理といった実作業をおこなうフィールドでは「だんご」と呼んでもらっています。
一番キャリアの長い石積みは、愛媛県のリアス式海岸に面した石垣の段々畑の地域で農業をしていたときに身に着けました。2018年頃から石積み講習会の講師を依頼されるようになり、石積みワークショップを通じて石積みの技術を伝える活動も続けており、2024年からは一般社団法人石積み学校が主催する石積み甲子園の審査員を務めています。
ツリークライミングの技術を応用したロープワークを駆使した樹木管理は、ツリークライミング®ジャパン公認のMRSファシリテーターの資格を会得したことをきっかけに、ツリークライミング®体験会に利用する樹木の手入れのためにアーボリカルチャーの講習を受け始め、樹木管理をおこなう日本のアーボリストの仕事を手伝いながら技術を身に着けてきました。愛媛で果樹園芸のために勉強していた植物生理学の知識も生かされています。ツリークライミングに関してはMRSインストラクターとして、ツリークライミング®の資格認定講習会も開催しています。こうしたキャリアにより、「ジャイアントセコイアの森保護活動2025」のメンバー入りが認められ、樹高頂点が85mともなるジャイアントセコイアの樹域内で活動する経験ができました。
愛媛で世話になった人に「使い勝手のいい男でいろよ」とよく言われました。いまもその教えを大切に、相談から目を背けることはしないと心がけています。好きな線画(ペン画)でイラストレーションを提供することも。手作り品製造では、山からの取り入れや薪での煮詰め作業など、これまで培った田舎暮らしのスキルを活かして、主に屋外での業務を担っています。
国際協力NGOと共にインドやアフリカに行き来していた学生時代からの20代は、多くの出会いに恵まれ、そして考えさせられることの連続の日々。インド・コルカタでの在外公館勤務を経て、暮らしの拠点は家族で日本の農村地域へと移りました。
愛媛の海端暮らしの8年間も、そして現在も続く山梨の標高800mでの山暮らしでも、毎日を刺激あふれるものにしてくれているのは、志の途切れない家族としての生業と子どもたちとの時間。特に、家を拠点にずっと続いてきた子どもたちとのお散歩生活は、私たち家族をそれぞれの地域と強く結びつけてきました。
Atelier moo の特産品生産は、ここ山梨県の奈良田集落で幼少期を過ごした次女・三女との、そんなお散歩生活から生まれたもの。愛着のあるものばかりです。山の探検、川で水遊び、鹿やトンビを観察して、集落のおじいちゃんおばあちゃんから季節の手仕事を学び、そしてたわいものない会話の中から、たくさんのヒントをもらえます。探し求めていきついたものではないけれど、妙にしっくりくる、私たちの子育て・自分育ての時間を過ごしてきています。
JICA使節団や海外の大学からの調査など、早川町への国外からの来客があれば通訳も担当したり、各国の仲間と連携しながら在宅での翻訳プロジェクトを受けたりと、毎日の素朴な四季の変化と家族の成長を楽しむ暮らしの中で、心はいつも世界に開きつつ、家族としての試みを誇らしく続けていきます。