Workshop

ワークショップ「干潟を聞く」

槙原 泰介+吉濱 翔(サウンド・アーティスト)

フィールドレコーディングを元にした表現や映画音楽制作などでご活躍されているサウンド・アーティスト、吉濱 翔(よしはま・しょう)さんをお招きし、干潟でどんな音がしているのかみんなで聞いてみる・録音してみる・再生してみるという参加型のワークショップを開催いたしました。

"今では多くの人がいつも持っているスマートフォン。スマートフォンの録音機能を使ったフィールドレコーディングを参加者のみなさんと一緒に木更津の干潟にて試みます。通常、フィールドレコーディングはイヤホンやヘッドフォンなどで音を確認しながらおこなうため、どうしても単独でのレコーディングになってしまいがちです。また、専門的な高価な機材を用意する必要もあります。ここではそのような当たり前のことを少し疑ってみることにしました。いつも持ち歩いているスマートフォンを使い、一人ではなく複数人で、全員が同じ環境で同じ時刻に録音をしてみたいと考えています。"  吉濱 翔(サウンド・アーティスト)

日程:2024年11月3日(日・祝)
時間:12:30~17:30
開催場所:きさらづみらいラボ・盤洲干潟・きさてらす
参加方法:事前予約制(定員15名、1200円)https://peatix.com/event/4150735

今日の録音方法を説明する吉濱 翔さん。

車で小櫃川河口へ。干潟の道案内役でもある槙原は川が削った土砂の堆積でできた地形である干潟のことを少し説明し、ここに残る開発計画の痕跡などについて話しました。湿地の入口まではのどかな田園風景が広がります。このあたりの稲刈りは8月末ごろと早く、いくつかの田には二番穂が色付いていました

湿地帯に入っていきます。じっとしていると穴から顔を出すチゴガニの観察エリアでまずは録音の練習。

そしていよいよ干潟へ。吉濱さんと槙原で相談した結果、参加者それぞれに番号を付与し、その順番に並んで録音することにしました。これが再生の時のスマホの並び順にもなります。それから録音に限ら音に集中して欲しいため、干潟エリアでは今日は極力互いに話すことを控えたいという指示をしました。

列や円弧状、自由な場所、合計4つのポイントで5分づつスマホの時計を見ながら一斉に録音。録音だけでも聞こえてくる音に発見があります。

吉濱さんアイデアの簡易風防。これのおかげでかなり風のボコボコ音が軽減されていたことを実感しました

この日は中潮。干潮時刻から2時間半ほど経っていたため、水際に立ったつもりが、5分間の録音の間あっという間に満ちていきます

吉濱さんの指示を聞く参加者。

屋外で5分じっとするのは簡単なようでなかなか長いです。その間に風、虫や鳥、飛行機、その間に多くのものが変化することに気付きます

約2時間の干潟散策後、再生する会場へ。録音時に並んだ順番で並べられたスマートフォンたち。

再生を終えてみんなで少し話し、参加者の方からは次のようなコメントもいただきました


参加者A「再生した音を録音した全員が一緒に聞くという体験が面白い。聞いているのは音と認識される前の未分節な状態の何かではないか?」


参加者B「耳栓をして寝るときに聞こえるような気がする音ではない音と同じようなものが、今回の再生音の中から聞こえた。」

参加者C「聞いている音は間違いなく自分で録音したもののはずなのに、同時再生することでそれが自分のものである感覚は無くなって、しかも再生した音も複数の音の同時再生であるから、自分が立っていた場の再現ですら無くなっている。」

吉濱さんは今回で干潟は2回目、槙原への質問も。

吉濱さん「何度もこれまで干潟に通っている槙原さんにはこの度の再生がどう聞こえましたか?」

槙原「干潟にはたくさんの植物、生物、自然の力が発生していますので、結構耳に勢いよく入ってくるというか、周りからの音の圧が強く感じられますが、なんだかこうしてスマホで聞くと、染み入る音に感じる・・うまく説明できないですが、先ほどの参加者が言われたような耳栓をしているときに聞こえる音なのかそうでないのかみたいな谷の音(音のカーブを手振りで示す)のような感じがするといったらいいでしょうか…。」

実は耳で聞いているより、もっと音に立体感が出てくるのではないかと想像していたのですが、実際スマホは再生や録音可能な音域が狭いこともあるのか、低音がカットされて、風景が圧縮されている感じ。点でできた彫刻のようなものを少し可変させたような音かとおもいきや、限りなくフラットに近い薄い膜のような音で…しかし多くの参加者が気づいていたように、旅客機の音などは、鈴虫がだんだん大群となって鳴き始めるように13台のスマホの上を左右に滑りながら大きな音となっていく。それは自然の力で迫ってくる夕立ちの地面のようにも感じられたり。(…でもやっぱりしばらく聞いていると飛行機の音に戻ったり。)普段、音というのは映像(イメージ)とリンクしていて、例えば飛行機の音を聞いた時は見上げ飛行機の姿が思い浮かぶ。でも今回の再生で聞こえた飛行機の音には見上げの飛行機の姿ではなく、誰かの背中が見えてきてしまったりするような。録音→再生の音が強く結びついていたイメージ(風景)との回路に組み換えを発生させ、風景を錯綜させることに面白さを感じました。

また、私たちが録音という語から思い浮かべることと今回の実行の順序が逆になっている気もしました。例えばバンドの演奏を録音したものは事後的に生まれた副産物的音源になる。しかし今回の吉濱さんのWSは再生を考えてみんなで演奏者になろうとする。演奏者は当日まではっきりしないし、立ち位置も定まっていない。そんな中で決めたことは録音時間とタイミング。誰も予想ができていなかった亡霊のような何者か(バンドなのか一人の演奏者なのか)を作っていく作業。それは録音に関係する最低限のルールと環境の動きに添うことによって既存のものごとにバイアスをかけて未知の答えを導くという非常にコンセプチュアルアートに近い作り方だと感じました。

非常に豊かな体験ができたWSだったので、また異なる季節にも行えればと考えています。吉濱さん、参加者の皆さん、ありがとうございました。


Photo: Kanata Nagate

Text: Taisuke Makihara