抗体は免疫グロブリンというタンパク質で、目的の分子(抗原)に特異的に結合します。抗体医薬品として医療現場で使用されているほか、生化学分野の研究においても、ウェスタンブロットや免疫染色といった実験系で幅広く利用されています。
抗体は、抗原側の抗体認識部位であるエピトープに結合しますが、抗体側の抗原認識部位をパラトープと呼びます。本研究室では、パラトープに着目し、抗原への結合のみを喪失させた「パラトープ改変抗体」の作製に成功しました。
パラトープ改変抗体は改変前の抗体と比較して、アミノ酸の差異はわずか数アミノ酸(全体の1%以下)であり、抗原への結合能以外の物理的な性質はほとんど等しいと考えられます。パラトープ改変抗体を活用し、抗原への結合を正しく評価できるコントロール抗体としての活用のほか、精度の高い免疫沈降法、ELISA法などの測定法の開発に取り組んでいます。
新規腫瘍マーカータンパク質TMEM180の機能解析
大腸がんは死亡率、罹患率とも上位のがんであり、治療標的となる新規腫瘍マーカーの探索が望まれています。国立がん研究センターの松村保広博士らのグループは、真に大腸がん細胞で高発現するタンパク質分子としてTMEM180を発見しました。TMEM180に対するモノクローナル抗体の開発、ヒト化抗体への改変に成功し(Yasunaga et al., 2019)、現在国立がん研究センター発ベンチャー株式会社凜研究所が中心となり、大腸がんの新規治療薬として国立がん研究センター東病院で第一相臨床試験がスタートしています。
一方、TMEM180/MFSD13Aは機能未知膜タンパク質であり、2023年現在でもTMEM180タンパク質に関する報告は我々のグループ以外からはありません。これまでに、TMEM180が低酸素環境下で発現亢進すること(Yasunaga et al., 2019)、TMEM180が12回膜貫通型トポロジーを有すること(Anzai and Matsumura., 2019、右図)、TMEM180が細胞内代謝を通して大腸がん細胞株SW480の増殖に寄与すること(Anzai et al., 2022)を明らかにしてきました。引き続き、TMEM180が細胞内でどのように機能しているのか、またその意義について解明していきたいと考えています。
二重特異性抗体や武装化抗体の開発
タンパク質を鍵分子とした、バイオセンサーや分析ツールの開発
我々の研究は、以下の研究費のサポートにより行われています。ご支援に感謝申し上げます。
文部科学省科学研究費補助金
令和3-4年度 若手研究「大腸がん細胞の増殖に寄与する新奇膜タンパク質TMEM180の分子機能解明」研究代表者
平成31-令和3年度 若手研究「大腸がん細胞で高発現する新奇オーファントランスポーターTMEM180の機能解明」研究代表者
公的研究費
令和2-3年度 AMED ACT-M「抗不溶性フィブリン抗体・薬物複合体の開発」研究分担者(研究代表者 吉松賢太郎 博士 株式会社凜研究所)
平成28-29年度 AMED 次世代がん「質量顕微鏡を駆使した難治がん間質関連抗体・抗がん剤複合体の開発」研究分担者(研究代表者 眞鍋史乃 博士 理化学研究所)
民間財団助成金
令和6年度 公益財団法人鉄鋼環境基金 第45回環境助成研究
2024年度 公益財団法人クリタ水・環境科学振興財団 研究助成
令和5-6年度 公益財団法人精密測定技術振興財団 助成金
令和5年度 公益財団法人群馬大学科学技術振興会 研究費助成
令和4-5年度 公益財団法人精密測定技術振興財団 助成金
令和4-5年度 公益財団法人ホクト生物科学振興財団 研究奨励金
令和2年度 一般財団法人向科学技術振興財団 研究助成
平成25年度 公益財団法人日本科学協会 笹川科学研究助成
機関内競争的資金
令和7年度 高専-長岡技科大 共同研究助成
令和6年度 群馬工業高等専門学校 教育・研究支援経費(研究支援B)
令和6年度 高専-長岡技科大 共同研究助成
令和5年度 群馬工業高等専門学校 教育・研究支援経費(研究支援B)
平成31年度 国立がん研究センター 研究開発費(シーズ選定課題)