ターゲティングは「誰かを決める作業」ではない
前回は、ターゲットを決める前に、
市場のニーズを知ること。
競合のポジションを知ること。
自社の強みを整理すること。
この3つが必要だとお伝えしました。
では、そこからどのようにターゲットを決めるのでしょうか。
ターゲティングというと、
「30代女性」
「近所に住む人」
「観光客」
といった顧客像を決める作業だと思われがちです。
しかし、本来はもう少し手前から考える必要があります。
どの市場で、誰の、どの課題を解決するのか。
まず決めるべきなのは、人物像ではなく「戦う場所」です。
例えば、地域のお弁当屋さんを考えてみます。
同じ「お弁当」でも、誰に届けるかによって、その価値は大きく変わります。
ビジネスマンにとっては、
朝や昼の限られた時間の中で、手早く食べられることが価値になります。
ただ早いだけではありません。
内容に安心感があり、毎日の選択肢として習慣化できること。
忙しい朝や昼に、
「今日はここで買えばいい」
と思えること自体が価値になります。
つまり、ビジネスマンにとっては、
時間効率と内容への安心感が両立した便利な習慣になる可能性があります。
主婦にとっては、
手頃なサイズ感や手作り感が価値になるかもしれません。
自炊とは少し違う。
でも、外食ほど大げさではない。
家族のためではなく、自分が食べたいものを選ぶ。
少し変わった惣菜を試してみる。
買い物や用事の途中に、自分の好きなものに触れる。
お弁当屋さんが、日常の中で自分のために選べる小さな楽しみになる可能性があります。
観光客にとっては、地域らしさや店のこだわりが価値になります。
地域の食材が使われている。
その土地ならではの具材がある。
作り手の考え方が伝わる。
旅先では、
単に空腹を満たすだけではなく、
「せっかくなら、その地域らしいものを食べたい」という気持ちが生まれます。
お弁当が、地域の食や文化に手軽に触れられる体験になります。
高齢者にとっては、
せっかく買うのであれば、手が込んでいて、おいしいものを選びたいという気持ちがあるかもしれません。
健康的であること。
素材に安心できること。
自分でつくるものとは少し違うこと。
さらに地域のお店であれば、
「この店には続いてほしい」
「頑張っているから応援したい」
という気持ちも、購入する理由になる可能性があります。
高齢者にとっては、健康やおいしさだけではなく、地域のお店を応援するという意味も価値になり得ます。
ビジネスマンにとっては、習慣化できる便利さ。
主婦にとっては、自分のための小さな楽しみ。
観光客にとっては、地域らしさを味わう体験。
高齢者にとっては、健康、おいしさ、そして応援したくなる存在。
このように、商品が同じでも、顧客によって価値の意味は変わります。
だからこそ、ターゲティングでは「誰に売るか」だけでなく、
その人にとって何が価値になるのかまで考える必要があります。
ターゲットの候補が見えてきたら、感覚だけで一つに決めるべきではありません。
例えば、
市場に十分な規模があるか。
継続的な需要が見込めるか。
顧客の課題や欲求は十分に強いか。
競合に対して違いをつくれるか。
自社の強みを活かせるか。
将来的に市場を拡張できるか。
こうした複数の観点から、客観的に評価していきます。
先ほどのお弁当屋さんで考えてみます。
観光客向けの商品は、地域性や希少性によって単価を上げやすいかもしれません。
一方で、観光シーズンや曜日、天候などによって需要が変動する可能性があります。
ビジネスマンを対象にするのであれば、一回の購入単価は高くないかもしれません。
しかし、立地や営業時間が合えば、平日の朝や昼に繰り返し利用され、習慣化する可能性があります。
主婦を対象にするのであれば、日常生活の導線上に店舗があるか、
自分のために購入したくなる商品構成があるかが重要になります。
高齢者を対象にするのであれば、健康面への配慮だけでなく、
店舗との関係性や地域での信頼も重要になるでしょう。
つまり、ニーズがあることと、自社が狙うべき市場であることは同じではありません。
市場の規模や将来性だけではなく、
自社の強みとの親和性、競合との差、継続性まで含めて判断する必要があります。
狙う市場と顧客層が決まったあと、さらに顧客像を具体化していきます。
ここでペルソナ設計が登場します。
重要なのは、順番です。
最初から架空の人物をつくり、
「38歳、女性、子どもが2人、趣味は旅行」
と設定しても、それだけではマーケティングにはあまり役立ちません。
必要なのは、
どんな場面で商品を必要とするのか。
現在は何で代替しているのか。
その方法の何に不満を感じているのか。
購入前に何と比較するのか。
何が最後の決め手になるのか。
という、意思決定の解像度を高めることです。
例えば、朝に利用するビジネスマンであれば、
「コンビニよりも内容に安心感があり、注文から受け取りまで時間がかからないなら利用したい」
と考えるかもしれません。
主婦であれば、
「家ではつくらない具材のおにぎりを、一つか二つだけ自分のために買いたい」
という気持ちがあるかもしれません。
観光客であれば、
「有名なものを食べたい」というよりも、
「この地域でしか食べられないものに出会いたい」
と考えているかもしれません。
ペルソナは、人物紹介をつくるためのものではありません。
顧客がどのような状況で、何を考え、どのように意思決定するのかを理解するためのものです。
ターゲティングとペルソナは、混同されることがあります。
しかし、役割は異なります。
ターゲティングは、どの市場で、どの顧客層を狙うのかを決めることです。
ペルソナは、その顧客がどのような状況で、何を考え、どのように意思決定するのかを具体化することです。
お弁当屋さんの例で言えば、
「地域で働くビジネスマン」を選ぶことがターゲティングです。
その中から、
朝8時前に出勤し、朝食を自宅で取る時間がなく、コンビニを頻繁に利用している。
価格だけではなく、食べるものの内容も気になり始めている。
といった行動や心理まで具体化するのがペルソナ設計です。
この二つを混同すると、
人物像は細かいのに市場性がない、あるいは市場は決まっているのに伝え方が曖昧、
といった問題が起こります。
市場を選び、その中にいる顧客の意思決定を理解する。
この順番が重要です。
ターゲティングは、単に顧客を狭くするための作業ではありません。
どの市場で、誰の、どの課題や欲求に応えるのかを決める作業です。
そして、ターゲットを決めたあとには、
その人がどのような状況で、何を考え、なぜ選ぶのかを具体化していきます。
地域のお弁当屋さんであっても、
ビジネスマンにとっての価値
主婦にとっての価値
観光客にとっての価値
高齢者にとっての価値
は、それぞれ異なります。
重要なのは、年齢や性別で顧客を分類することではありません。
自社の強みと親和性があり、市場として成立する顧客を選び、
その人にとっての価値と意思決定を深く理解すること。
そこまで考えて、
初めてターゲティングとペルソナ設計が事業の意思決定に使えるようになります。