秋田大学医学部附属病院 脳神経内科 医長・講師
秋田県難病医療連絡協議会 会長
菅原 正伯
■パーキンソン病患者さんへのお願い(普段の診療でお願いしていること)
日常診療でよくある訴え;起立、歩行が困難に。動作がゆっくりに。起床動作が困難に。その時に、思うのが、それってパーキンソン病の症状だろうか、それとも…。ウェアリング-オフなのだろうか。
そこでお尋ねするのが
① 内服薬が手元に余っていませんか。内服時間は守られていますか。
食事の時間は毎日一定でしょうか。起床が遅く、朝食、昼食、夕食時間が医者が思っている時間と大きくかけ離れていることも経験します。そのようなときには管理に手間がかかるかもしれませんが、時間内服に変更しています。パーキンソン病は脳内のドパミンが欠乏している病気ですから、脳内ドパミンを一定に保ってあげる必要があります。時間内服が困難な患者さんには、貼付薬(ハルロピテープまたは、ニュープロパッチ)をおすすめします。パーキンソン病患者さんにとって内服薬、貼り薬はガソリンと同じです。朝内服した薬は徐放剤(ゆっくりと溶け出す工夫がされている薬)でない限り、昼過ぎ~夕方まではその効果が持続しません。貼り薬も毎日欠かさず貼り替えが必要です。ガス欠にならないように注意が必要です。担当医は前の診察時に出した薬を正しい時間に、正しい量服用しているものとして診察を行って、お薬の過不足を評価して、処方の変更を検討しています。不規則な内服は、お薬の過剰投与の誘因にもなります。
② 体重減少はありませんか。
パーキンソン病の方は痩せている方が多いです。体重減少は筋量の減少も意味します。筋量・筋力を維持する工夫を何かしていますか。年齢とともに衰えやすい筋肉は足の付け根の筋肉(腸腰筋)と大腿前面の筋肉(大腿四頭筋)です。この筋肉が弱くなると、何かにつかまらないと立てない、膝上に手をついて立ち上がるようになります。歩行速度の低下は、膝下後ろ側の筋肉(下腿三頭筋)に原因があることがしばしばです。そこで、仰向けに寝て膝を伸ばした状態で、片足ずつげんこつ一個分だけ踵を浮かして60秒を目標に、その姿勢を維持する。右、左交互に、毎日実施して、秒数を記録して、少しでも長くできるように継続する。椅子の背もたれ、壁に軽く手をついて立ち、膝をしっかり伸ばした状態で、かかとを5センチ程度上げて、その姿勢を30秒キープする。この2つの運動を毎日実施するようにお願いしています。年とともに衰えやすい筋肉を保つ工夫をした場合/しない場合で、3年後、5年後に差が生じるとは思いませんか。筋量・筋力低下に由来する症状には、パーキンソン病の治療薬変更の効果は得られにくいはずです。高齢者の増加に伴って、パーキンソン病患者さんは増加しています。パーキンソン病に限らず、多くの神経難病患者さんは、加齢の経過中に疾患の療養を継続することになります。そのためフレイル(虚弱)との併存患者さんが多くなります。フレイル診断の一つの項目に、握力の低下があります。参考になさってください。上に書いた毎日の運動療法(リハビリテーション)とともに大切なのが、栄養療法です。食事から摂取する栄養素は糖質、タンパク質、脂質、ビタミン・ミネラルです。筋肉を保つために必要なのはタンパク質(ボディビルダーがプロテイン飲料を飲む姿を思い出してください)です。年を重ねると、一回の食事量が減る方が多いです。主食(ごはん、パン、麺類)、野菜も大事ですが、それらでおなかがいっぱいになってしまわないようにして、タンパク質を多くとるようにしましょう。タンパク質とは、肉、魚は当然ですが、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)、卵、豆類(豆腐、油揚げ、納豆)に多く含まれます。肉、魚が苦手なら、ソーセージ、ハム、かまぼこなどの摂取も有効です。週に一度は体重を測定して、体重維持に努めてください。それでも体重が減少する患者さんには、栄養補助飲料(ラコール、エンシュアリキッドなど)を処方することもあります。食べることは多くの病気治療の基本です。食事を楽しみながら、健康維持を目指してほしいです。知識豊富な皆さんからは、タンパク質摂取はレボドパの吸収を抑制するので、よくないのではと言われる気がします。しかし、いくらお薬の効きがよくても、体を動かす筋肉を失ってしまっては、運動機能の改善は望めないのではないでしょうか。
体重減少との関連で、もう一つ。パーキンソン病は神経変性疾患で、アルツハイマー病とともに患者数の多い(有病率の高い)疾患です。高齢化に伴って癌との併存も増えます。多い疾患どうしの掛け合わせ。残念なことに、秋田県はがん死亡率全国一。がん検診をしっかり受けましょう。体重減少は嚥下機能、呼吸機能にも影響します。嚥下・呼吸機能維持のための訓練(深呼吸、腹式呼吸、ロングブレス、吹き戻しでの呼吸訓練)も誤嚥性肺炎予防に、口腔内ケアとともに重要です。
内服時間、内服量をしっかり守っていても、体重減少、筋量の減少がなくても、運動困難が増強して、特に1日の中で症状に変動がみられる場合、ウェアリング-オフに対するさらなる対応が必要になります。DBS(脳深部刺激療法)についてはみどりの風No.23(2023.1.30発行)の西川泰正先生の記事をご覧ください。また、LCIG(Lドパ持続経腸療法;デュオドーパ)については佐藤和彦様の体験発表をご覧ください。
私からお伝えしたいのは、発症から15年以上経過したパーキンソン病患者さんではオフがあることが多く、その多くの方々は離職後で在宅療養中です。ご紹介したい書籍があります。オン・オフのある暮らし ―パーキンソン病をしなやかに生きる― 単行本 あとうだとしこ (著), おかだよしこ (著), きたむらともこ (著)。朝起床して、家族の弁当、朝食の準備をする、決まった時間までに身支度をして出勤する、といった生活ではなく、1日の時間を自由に使えるのであれば、調子の悪い時間は横になって休んでいただいて(睡眠、休息はパーキンソン病症状を改善する)、オン時にやりたいことをこなすという風にする方法もあります。私はオフ時間を減らすためにCOMT阻害薬、貼付薬を使用することが多いのですが、その中での経験をご紹介します。これまではCOMT阻害薬(エンタカポン)とレボドパ・カルビドパ水和物の合剤(スタレボ)を1日に3-5回内服していただくことが多かったのですが、それでもオフがあってお困りの患者さんに対して、エンタカポンからオピカポンへの切り替えを行って、全例とは言えませんが、オフ時間の減少が得られることを経験しました。薬の特性である3-OMD(3-O-methyldopa)の産生抑制効果が関係しているものと考えています。一方の貼付薬に関しては、ニュープロパッチは1日13.5mg~36mgで、ハルロピテープは24mg~48mg(最大容量は64mg)で使用することが多いです。皮膚症状の少なさ、取り扱いのしやすさでは、ハルロピテープが好まれることが多いです。しかし、用量が多くなると少なからず精神症状(幻覚、妄想)が生じることを経験します。内服薬が多い、嚥下困難がある、または認知機能低下などの理由によって服薬管理が困難な場合に貼付薬を使用しますが、幻覚、妄想などの精神症状に気付いたときは、処方医への報告が必要です。
パーキンソン病の非運動症状についても少しだけ。パーキンソン病の患者さんの多くは、複数の医療機関で処方を受けておられる方が多いです。パーキンソン病の非運動症状には、便秘、睡眠障害、疲労感、浮腫、尿意頻回、疼痛などがあります。一般内科のかかりつけや整形外科との併診患者さんが多いです。パーキンソン病患者さんは他疾患の患者さんと比べて、お薬の種類、内服錠数が多いことが明らかになっています。服薬アドヒアランスの低下が、薬効減弱、さらなる処方薬の増加につながっていることも考えられます。ですので、より効果の期待できる薬剤を、十分量使用することが大切です。パーキンソン病に関連する症状管理に必要な薬は、脳神経内科医から処方を受けることをおすすめします。かかりつけ医には、そのような希望を申し出てみるといいでしょう。持続する脚の浮腫があり、心不全や低栄養、腎機能障害、深部静脈血栓症などを疑って検査を進めたものの、原因が特定できず、結果として、ドパミン受容体作動薬の変更で浮腫が改善した例も少なからず経験しました。その一方で、心不全を疑ってBNPを測定してみると、数値の上昇があるものの、心臓の超音波検査では心臓の収縮力(駆出率)は保たれている患者さんに遭遇します。最近はこのような慢性心不全をHFpEF(心臓の収縮機能が保たれた心不全)と呼んでいます。高血圧治療薬の変更・調節で症状(息切れ、倦怠感、浮腫)の改善が得られます。尿意頻回、疼痛、睡眠障害に対する有効性が示されているパーキンソン病治療薬もあります。少ない薬剤で問題症状を管理できるように、かかりつけ医との連携を強化する必要があると感じています。
■高齢発症パーキンソン病患者さん診療での気付き
長期に療養継続している患者さんの診療について述べてきましたが、それとは別に高齢発症のパーキンソン病患者さんも増加しています。パーキンソン病患者さんの診療で気を付けてきたことは、患者さんの今だけではなく、長期予後(5年後、10年後)を考えて治療薬の選択、運動指導、栄養指導を行ってきました。しかし、70歳以上で発症したパーキンソン病患者さんの10年後を考えるよりも、今なにでお困りなのか、どの症状を改善したいのかをよくうかがって、今お困りの症状をできるだけとってさしあげることが大事だと考えるようになりました。治療目標、ゴール設定を患者さんとともに考えることが大切です(協同意思決定)。ふるえ(振戦)が目立つパーキンソン病患者さんは、振戦がないパーキンソン病患者さんと比較して、症状進行がゆっくりなことが多く、振戦自体は安静時に多く、動作を奪うことは少ないため、積極的な治療対象とはしないこともありました(内服薬が多数の患者さんでは、内服アドヒアランスにも考慮して)が、安静時振戦でお困りなのであれば、ゾニサミドを使用しています。フレイル対策の重要性は言うまでもありません。積極的に介護保険を活用することをおすすめして、運動習慣維持を図ります。
■秋田県難病ガイドブックのご紹介
秋田県 健康福祉部 保健・疾病対策課とともに秋田県難病診療ネットワークで、秋田県難病ガイドブックを作成しました。秋田県、難病、ガイドブックで検索していただくと、ダウンロード可能なサイトに到達できますので、ぜひご覧いただき、ご活用ください。難病申請なさっている方も、そうでない方も介護保険を活用して、フレイル予防を図るようにお願いいたします。介護保険活用の利点として、主治医、ご家族以外に患者さんをみて、様子をうかがってくれる人が増えることから、家族の介護負担を減らして、より正しい病状評価、日常生活での問題点の抽出に基づいて、それに対する解決策を計画しやすくなることがあげられます。
■今後の難病対策・支援事業
パーキンソン病に限らず、難病療養支援として、災害対策(個別支援計画作成)、難病患者在宅レスパイト事業予算化などを、秋田県、難病医療連携コーディネーター、難病医療ネットワーク、秋田県難病団体連絡協議会とともに進めていきます。