稽古帳 【体】

日々の稽古の中で目指していること、気づいたことについて記載します。

合気道は多様な捉え方があり、道場ごと、様々な取り組みがなされています。梓川道場の目指すところをご紹介できればと、思います。 


18.「足腰の合気道」について

「脱力」とか「気の力」「呼吸力」等々、合気道には筋力に頼らないで強くなれるという、どこか神秘的なところがあります。

もちろん、そんな領域があるかもしれません。まだ、私が知らない世界があるかもしれないのです。

ただ18歳大学生から取り組んで30年以上になりますが、神秘的な体験は、ありません。

素晴らしいな、と思う技は、肩の力が抜けて、姿勢がいい。そして、足と腰で移動し、技をかける。足と腰を使うのが神秘的に対する回答、合気道かとも思います。ただ、合気道を長年、一生懸命修行されてこられた方の中には膝を悪くしている方が多い印象も。膝への負担の少ない体さばきが工夫のしどころか、とも。(2024.06.03)


17.「ひざでつま先をおさえる」について

足裏のどこで立つか、2本足歩行の人間にとっては興味のあるポイント。

拇指球やくるぶしの真下、というお話も興味深いところです。

ただし合気道では、相手もいますし、自分の体にだけ感覚を向けるわけにはいかず、あれこれ考えることもできません。

ひとつの感覚ですが、軽く(本当に軽く)膝を曲げ、その膝で真下のつま先をおさえる感覚で立つこと、歩くことを気にしたら良いかと思います。居着くことなく、浮くように立ちたいのですが、おさえる気持ちになると逆に浮くような感覚も生まれます。(2020.10.21)


16.「てきぱきと動く」について

合気道をはじめるきっかけとして、合気道修行者の動きがてきぱきしていて格好いい、という理由もあると思います。

動きが速い、というのではなく、姿勢良く、無理なく無駄なく動いているふうに見えます。

もちろん、理由はあります。合気道の技は動き出しが最重要なのです。静摩擦は動摩擦に比べて大きいのは法則で、動き出しが一番抵抗がある。

動き出しは脱力と筋肉の収縮で行います。いわゆる「固い稽古」を多くすると嫌でも意識されます。この動き方で日常の動きでおこなうと、力みのないてきぱきとなるのです。(2020.08.15)


15.「腕の骨は2本」について

合気道では準備体操で手首を曲げます。1から3教、そして小手返し。

これはもちろん、お稽古の際に手首を傷めないようにストレッチをしておく、という意味があります。

でも、もうひとつ、前腕部(手首から肘の間)にある2本の骨を動きやすくする狙いもあるのです。2本の骨が自由に動けば体の動きを自由に伝えることが出来ます。

手首を制して相手を制することと同時に、手首の動きで自分の体の動きをつくることも合気道の特徴のひとつです。(2020.01.31)


14.「脱力はハンマーを振るように」について

合気道では「力を抜け」「柔らかく」「流れるように」と、とかく言われます。

が、くにゃっとなったり、ダラッとなったり、「そうではなくて!」という結果になり、なかなか伝えることができません。

ハンマーを振り上げたその時、力が抜けます。それによってハンマーがさらに微妙に倒れ、スナップが効きます。このときの力の抜け方が、合気道の求める脱力に近いのでは、と考えており、お稽古の際には、そうお伝えしております。

この脱力を体感し、かつ鍛える鍛錬として木剣の素振りがあります。振り上げた刹那、脱力して体全体のスナップを効かせて振り下ろすのです。途切れない動きが理想です。といっても必ず発生する運動の方向切替の変換点は、脱力によるスナップの小さな円運動を発生させることで消すことができます。(2019.10.25)


13.「自転車のサドルの高さのように」について

中学2年になる下の子は身長は高いのですが慎重派で、通学の自転車のサドルは一番低い高さ。

中学入学以来、どんなに言っても、サドルを上げようとはせず、足が大きく曲がって、いかにも疲れそうな体勢で3kmの通学路を通い続けました。

でも、今月、2年生になったのをきっかけに(なかば無理やり)、サドルを3cmくらい、上げました。そしたら「自転車が軽くなった」とか、「ずっと立ち漕ぎしている気分」と・・・感動。

間合いの大切さを改めて感じたひとコマでした。距離感一つで力の感じ方は変わってくるのだ、と。(2019.04.19)


12.「受けは肩を前」について

受けを取るときは肩を前、です。一番大事な頭は肩が後ろにあると前に倒れません。

といっても、一教や四方投げなど、肩を前に出される技も受けなくてはなりません。そんなときは胸を後ろにします。凹ませるのです。肩の位置はそのままで自分の体の中では前にでます。

ことさら、きれいに、優雅に受けを取る必要はないのです。ただし、肩が前に出て、相手の力を丸く流してその力で動けば(動かされれば)、無理のない動き、受けに見えます。

そんな体の使い方もお稽古の意味の一つかと思います。(2019.02.09)


11.「手首をかえすこと」について

手首をかえすと、体と手のつながりを感じやすくなります。

技はすべて、手首をかえしてかけます。

ただし、上腕部の筋肉を使ってかえしてはいけません。かえって力が入って力が止まってしまいます。

自然に手首がかえる、動きを身につけます。矛盾するようですが、きっかけとして意図的に手首を上腕の筋肉で手首をかえすことは良いと思います。身につけば無意識になりますから。(2019.01.18)


10.「畳を叩くこと」について

受けを取るときには畳を手のひらでパシッと叩きます。

このとき、腕力で叩いてはいません。身体の遠心力で手が振られている、という感じのはず、です。

なぜ、叩くのかという疑問もあります。もちろん、安全に「お稽古」するため、です。お稽古ではないとき、アスファルトや石ころ地面でパシッと叩きたくはないですから・・・

畳を叩くのは身体づくり、と考えています。サンドバックを思い切って撃ったり、古タイヤを叩いたり、そうやって体を作るのと同じかと。腕力ではない身体から出る力の出し方を知る、鍛える。バン!ではなくパシッ!!が大切なのです。短く鋭い大きな力をお腹の中から出す。この力の出し方で体の使い方で、技をかけるのです。(2018.10.20)


09.「ひじは体の後ろ」について

正座をするとき、手は身体の近くの太ももの上に載せます。

その時、ひじは体側か、やや後ろになります。前にはきません。

立つときも、ひじは後ろ、です。肩が後ろに掛かる感じになり、上下に強い姿勢ができます。一教運動でも帯の下、丹田の前の手を上げていきます。ここから技がはじまります。

手を前に出すときはひじが後ろから体側、そして前の中心になるように「身体を」動かします。腰から腕を動かす、のです。学校でも、姿勢良く!、まっすぐ!!、背骨を伸ばせ!!(どうやって・・・!?)、など、無茶を言わず、ひじを後ろ、って教えてあげて欲しいな、と思うのです。(2018.09.25)


08.「道着が着崩れない動き」について

武道では「道着」を着ます。剣道、柔道、空手道、弓道、そして合気道。

上着は前で重ね合わせますので、襟は体の前で交差されます。

よく、腕はどこからはじまりますか?そう肩ではなく、鎖骨の内側のポチッとした骨のところですね!というワークがありますが、「道着」は襟がそこからさらに対角線状に反対側の腰まで導きます。腕の始まりは反対側の腰!なのです。道着は、それを無意識に体に伝えてくれるのです。

腰から腕を動かせば、道着は着崩れしません。「道着」は自分の動きが正しいかどうかの指針を与えてくれます。(2018.04.21)


07.「体力つくりのためのお稽古、受け」について

本部指導員の方からうかがいました。とある、高名な指導者の方が体調が優れなかったので病院に行ったら「運動不足ですね。」と。

もちろん、その方は每日御指導をされているにもかかわらず、です。そう、合気道は「力」を使わないことが目標であり、極めた方にとって、每日、指導していても、「運動」にはなっていないのです。

むろん、我々がそんな心配はしなくてもお稽古は運動になります、未熟なので。でも、積極的に体力をつけたいために、別に走り込みや筋トレをするのももったいない気もします。

合気道は仕手と受けを交代にお稽古しますが、受けのときには、適度に抵抗します。それが仕手の上達につながります。力がぶつかったら、「そうではないかも」と抵抗してあげます。当然、怪我のないように。受けは全身の力をバランスよく使い、体力が向上する、良質の「運動」ではないか、と思います。(2018.04.16)


06.「ふわっとした腕」について

高段者の方の手首(前腕)はふわっと柔らかいことが多く感じます。

木剣の素振りでは固くパンパンになるばかりです。受けのときに力いっぱいつかんでも、実践的な筋トレのような効果は期待できますが、ふわっ、ギュッという腕にはなりそうにありません。

やはり、お稽古前の1教、2教、3教、小手返しをしっかりおこなうことが大切か、と。手首周辺の筋の伸縮を大きくすると、ふわっと、した感じになります。

準備運動には合気道の基本がギュッと詰まっています。手首の運動もしかり、です。毎回、少しでも前回のお稽古よりも伸びるように、伸びるように、念じながら、しっかりひねりましょう。


05.「受身」について

合気道のテキストで飛び受身について記載されているものは、まだ、目にしたことはありません。

自分自身、受身の基本は全て前回り受身かと思っております。ただし、入り身投げや、諸手取りの呼吸法のときなど、顔が前を向けないときには顔は後ろを向いた前回り受け身、それは、言い換えれば後ろ回り受け身ですが。四方投げや小手返しなどに対しても自分の体をさばくことができれば前回りで、間に合わなかったら後ろ回りです。

自分から、倒れないよう、相手に最後まで導いていただけるよう、出来る限りついていく。それができるのが前回り受け身かと思います。

まずは怪我をしないよう、後ろ受身で自分から倒れることが出来たら、次は、前回り受け身で相手についていくことができれば、と。

04.「胸を張る」について

しっかり胸を張って、というのも、やはりよく耳にします。

合気道の場合には、胸を張っている状態は上下に強く、胸を落としている状態は前後に強い、ということから、技によって、相手によってどちらかの状態を選択することとなります。

気をつけたいのは、胸を張ることと、腰を反ることは別だということ。胸を張って、と言われると、はい、って腰を反らす。腰を反らしては腰痛の原因となりますし、上半身と下半身が一緒に動きません。

胸の状態は結果であって、意識としては肩甲骨を近づける、または肩甲骨を広げる、という方が良いかもしれません。お稽古のときは、肩を前、とか肩を後ろとか伝えさせていただいていますが。

03.「膝行」について

正座から、膝を支点にして腰をきって進むのが膝行です。

冬の寒さの厳しい信州、松本では凍った道路を歩く機会が多くあります。ここでは足を後ろに蹴って進んではいけません。転びます。足を置いたら腰をきって次の足を上から置きにいきます。まさに膝行です。この移動方法は軸が常に地面に対して垂直です。斜めになると、転びます。踏ん張れません。滑るので。

合気会の本部道場では、畳の上に布がひいてあります。「柔道場」で、踏ん張りの効く柔道畳でお稽古するのに慣れていると、ここでは転びます。体の軸を常に畳と垂直にしておくことが要求されます。

柔道畳しかない道場でお稽古する場合は、足袋を履く等の工夫で、動きを確認することが出来ます。むろん、滑り止めのついていないものです。普通の靴下でも良いと思います。冬場のお稽古は、素足を布で覆って暖を取りつつ、姿勢を確認することが一石二鳥か、とも思います。

02.「脇を締める」について

脇を締める、とはいろいろな場面でよく耳にする言葉です。

体の状態を伝える言語としては一般的ですが、合気道の場合、脇に力が入ってしまう、脇が固まってしまう、という副作用があります。妙に力が入ってしまうと、動きが固くなり、怪我もしやすくなります。

私は、これに換えて、肘を地面に向ける、という言葉で伝えています。最近は肘を下に向ける、の方が多いかもしれません。肩を縦に使う、ということもあります。いずれにしても、そこに気を向けると、脇は自然に締まってきます。肘が下に向いていれば重心を沈めるときに邪魔になりません。一教で押さえるときも肘が下を向いていれば体全体の力が相手にかかります。

腕力に頼らない、と言いながらも、腕力は使いやすいので、ついつい頼ってしまいます。有能な腕力が体の中で浮かないようにしてあげるだけで、体全体が一つになります。

01.「正座によるリセット」について

合気道では先生が見本の技をしているときには、正座して見取ります。

正しい正座は無駄な力がはいっておらず、かつ、頭をまっすぐ、背骨が支えている形です。この形が正しい、姿勢なのです。この姿勢で、技をかけ、そして受けます。といっても、無駄な力が入ったり、軸がズレたり、最初からなかなかそうはいきません。

合気道のお稽古のシステムとして、技と技の間に、姿勢を正しくリセットする仕組みが隠されているのです。

見取りのときは、正しく正座をして、姿勢をリセットして次の技に備えましょう。