稽古帳 【技】

日々の稽古の中で目指していること、気づいたことについて記載します。

合気道は多様な捉え方があり、道場ごと、様々な取り組みがなされています。梓川道場の目指すところをご紹介できればと、思います。


20.「足に体重をのせる」について

体重移動はすべての武道、スポーツの基本かと思います。

合気道では特に、重みを有効に使います。受けがバランスを取りにくいところに自重をかけて、受けの体重すら利用して技とします。

この動きが入身です。

ただ、一瞬一息でそのポイントに入ることはむずかしい。そこでまず、足をその位置に運び、そしてその足に体重を乗せていくのです。足に体重をのせる、この動きがすなわち技です。(2024.06.04)


19.「柔道と合気道の違い」について

柔道と合気道では、間合いの取り方が異なります。肘の角度に、その特徴をみることができます。柔道では肘が90°以上に曲がります。自分の中心に相手を引き寄せることで技をかけるためです。一方、合気道では自分の中心から相手を遠ざけることを重視します。肘は90°以上に伸ばします。

その違いから、柔道の経験者が合気道の技をかけようとすると、なかなかうまくいかないことがあります。柔道の間合いに慣れているため、合気道の技をかける際には窮屈になってしまいます。

また、力の使い方も異なります。柔道では力を入れるのですが、合気道では力を出します。柔道の力強さと合気道の優雅さの違いの一因です。

このような違いを意識しながら稽古すると、合気道の理解がより深まります。柔道の経験がある方は、違いを意識することで合気道の世界をより理解しやすくなるでしょう。(2023.05.18)

 

18.「機先を制する」について

技を覚えても使えるかどうかは別です。

競技武道であれば、乱取りや自由組手の中で使うコツ、タイミングを見つけていきます。

しかし、合気道には試合はありません。どうすれば・・・

答えは明確に出ていて、機先を制すれば良いのです。そしてその方法もシンプルに伝わっているのです。

相手が動いた瞬間に前に出る。これだけ。お稽古の際、受けが来るその瞬間に前に出る。これを意識してみます。お稽古の際、いつでも。(2023.02.25)

 

17.「体を沈めると、浮く」について

シーソーという遊具は、片側が浮くと片方は沈みます。

シーソーの台は支点ですが、合気道では相手と接している点。片手取りなら握られている手首。正面打ち、横面打ちならさばいた手の内。

さあ、相手を浮かせようとしたら・・・自分は沈みます。

ちょっと、でいいのです。ちょっとでも動くと、動き続けるのが自然の法則。膝だけでなく、腰や、わきの下をすべて沈める。ほんの僅か。

すると、相手が浮きます。そこから技、です。(2022.06.09)


16.「下から上に」について

体が小さい(背の低い)人が体の大きい人を動かすためには、下から上に持ち上げるのです。

もちろん、全部持ち上げる必要はありません。

重いタンスの一つの辺を浮かせるためにはタンスの上の方を押して傾けます。ある程度、傾けると、もうタンスは勝手に倒れます。

合気道の投げ技は、腰投げや担ぎ技以外は、傾けて倒しています。下から上に押して、傾ける。これだけ、です。(2021.03.16)


15.「押さば引け、引かば押せ」について

「押さば引け、引かば押せ」とは柔道を創始した嘉納治五郎先生の言葉と言われています。相手が押してきたら引け、引いてきたら押せ、という意味です。柔道の戦い方のヒントです。

もちろん、これは大変含蓄あるお言葉です。

ただ柔道においても、これはなかなか難しいと思います。私は高校3年間は柔道部でしたが、3年間の練習では身につきませんでした。

今、合気道をお稽古する中で、ひょっとして、これは自分の体の使い方かな、と考えています。相手を引きたいときには足で床を押します。相手を押し込みたいときには反対の体側を引く。「押さば引け、引かば押せ」と、念じながらお稽古すると、また技のキレが違ってくるのです。(2020.02.22)


14.「筋肉は縮むだけ」について

筋肉は脳からの信号を受けると縮みます。すると、動きになります。

骨には必ず2つ以上の筋肉が作用していて、どちらかが縮むとどちらかが伸ばされます。

伸びるのではなく、伸ばされます。合気道の技をお稽古するとき、どの筋肉を縮めると手が伸びるのか、意識すると動きにメリハリがでます。

技は、動きは、全部、縮める筋肉で行う。縮める筋肉を意識すると、そのときに伸びる筋肉へは意識はいきません。

今までは動くことに精一杯だったと思います。これからはどこの筋肉を縮めているのか、意識してお稽古しましょう。(2020.02.19)


13.「背中合わせ」について

おそらくどちらの道場でも一番最初の技。片手取り転換。

片手を取られたらまっすぐ相手に入って、方向転換。背中合わせでくっついて、同じ方向に向き直ります。

お相撲や柔道、はたまたレスリングのようには向かい合いません。

合気道では背中合わせが大切。組みあわず、後ろから、側面から技をかけます。技をかけるときはいつも、相手の背中が見えるように。自分の体は背中で動かすように・・・。(2019.04.15)


12.「座り技の意味」について

合気道の特徴のひとつとして座り技、があります。

文字通り、正座で技をかけるのですが、膝が擦れて痛くなったり、思い通りに動けなくて切なくなるお稽古です。

このお稽古をする意味のひとつに丹田からの力を感じること、があると思います。丹田の考え方のひとつが大腰筋だとすると、大腰筋の拮抗筋であるハムストリングが強制的に縮む、正座は大腰筋を伸ばすのに理想的な体勢。

座り技の時は、特に、大腰筋の伸び、丹田からの力の出力を感じたいものです。正座ができるのは日本人の、江戸以降とも言われますが、特権。既得権益はフルに活用して技の妙味を味わいたいものです。(2018.11.11)


11.「固い技と流しの技」について

固い技と、流しの技、と区別されるときあります。

しっかりと手を掴まれる、道着を掴まれる、そんな体勢からはじまる。受けも必死で頑張る。これが固い技。動きの中で技をかける。受けも力の流れを感じて、流れに体を任せる。そんな流しの技。固体、流体、気体、などと呼ばれたり、楷書、行書、草書などに例えられることも。同じ技が全く違って見える瞬間です。

もちろん、正誤はないと思います。私は、弓で矢を射る、に例えると、止まった的を射るのと動く的を射るのと、そして、馬に乗って的を射るのでは狙いに違う注意点がある、ことと同意のように思います。

弓の引き方、矢のつがい方は同じです。体の使い方も同じ。前を緩めて背面を張リ、そっとリリースして放つ。的が動いていれば、動きに合わせて前を狙う。それだけ、です。固い技で流れを感じ、流しの技で体勢を修正する。そんなお稽古をしたいものです。(2018.09.03)


10.「ちょっとでいい、ちょっとがいい」について

手首の返し、腰のキレ(腰を入れる)、重心を移動する等、型を技にするためのヒント、コツ、秘訣はたくさんあります。

型を覚えた次には、これら注意点を、ひとつひとつ意識しなくてもできるまで、稽古を繰り返します。

でも、そんな注意点をご指導いただくと「そればっかり」意識して、かえってうまくいかないものです。

秘訣はちょっと、でいいのです。いえ、ちょっと、が、いいのです。手を伸ばした最後にちょっと手首を返す。ちょっと腰をきって崩しはじめる。最初から手首を盛大に返して窮屈になったり、腰を回して不安定になったりしたら本末転倒。秘訣は調味料、スパイスのようなもの。これがないと味がしませんが、多すぎてはいけません。(2018.07.01)


09.「杖の型」について

当道場では、一般部の方には8ヵ杖、13の杖、31の杖の型を修練いただいております。

まずは、形を覚える。大人になると何かまとまって覚える機会は少なく、覚えることが楽しみでもあります。

動きを覚えてからが、「技」です。体重移動、手首の返し、肘の向き、残心と、気をつけながら窮屈な動きをなぞりながら、無理なく、最小の動きを目指します。

相手との相対的な動きが多い合気道において、自分の動きを自覚しながらジックリと取り組める貴重な機会です。(2018.05.18)


08.「合気道の技って実戦では?」について

「合気道の技は、使えますか?」と、聞かれたときには「いいえ、効きません。合気道の技は安全です。」と答えます。

しっかり型のとおり技をかければ、相手を怪我させることなく、思い切ってお稽古を進めることができます。お稽古のたびに怪我をしていたら社会生活を営むことが困難になります。

しかし、型を崩したり、受けが型通りに動かなかったとき、一転、技は危険になります。四方投げでは相手の手を肩に付けてから投げないと肘を痛めます。入り身投げでは受けが最後まで頑張っていると、頭から落ちます。

正しく稽古することは、安全に稽古することでもあり、安全であれば精一杯、思い切って技をかけあうことができます。合気道の技は「安全」なのです。


07.「素振り」について

一般的には木刀(ぼくとう)、私は木剣(ぼくけん)と教わりましたが(以下、木剣とさせていただきます)、これは基本の鍛錬には欠かせません。

素振りの方法も、様々です。木剣の背が自分の背骨にピタッとつくまで振りかぶる方法や、木剣が視界から消えた刹那に振り下ろす方法。

これは決して腕の筋トレではありません。肩甲骨と腰の鍛錬です。木剣はふわっと軽く小指から3本の指で包む。振りかぶったときには肩甲骨が後ろに。左腰と肩甲骨が引き合って、そして振り下ろすときは肩甲骨が降りて、右腰と近づく。腰が落ちて自由になっていれば体は上下しません。多少、前後には振れますが・・・

斬るのは仮想の誰か、ではありません。自分です。自分の怠ける心、弱い心、舞い上がる心、誰かを軽んじる心、恐れる心、もう嫌だ!!という心を、斬ります。どんなに斬っても大丈夫です。毎日ドンドン出てきます。合気道は禊です。素振りは心身の禊なのです。


06.「ちょっと困る程度」について

一番いじわるな受けは、技が掛かる前から勝手に倒れる受けです。相手を上達させたくない場合、こうします。

まだ信頼関係がない相手と組んだときも、怪我をしないように、決められる前に自分から動きます。怪我をしないのが、受身ですから。

良い受けは、仕手がちょこっと困る程度に抵抗します。仕手が初学の方の場合は、受けから動いて導かせていただく。これも大切です。しかし、形を覚えてきたかな、ってときには、ちょこっと、抵抗します。仕手の姿勢が正しければ、すっ、と崩されます。どこか違うときには、踏ん張れます。

お互いに上達して、信頼関係も構築できたとき、全力で抵抗して、スキあらば返し技をかけて、手足が届けば当身を入れる。そんなお稽古ができる相手がいる方は幸せかと思います。


05.「表技と裏技」について

表は入身で、裏は転換です。

表技のときは入身で技に入り、裏技のときには転換してから技に入ります。

ただし、入り身と転換の動きは同じです。90°で止めたときが入り身で、180°動いたときが転換です。最近、一緒に稽古させていただいた方からは30°の入身という考え方も教えていただきました。 大切なことは自分が向きを変えることです。そして、できれば、ですが、風見鶏のように、風の力で 向きを変えたいのです。風の力、お稽古の中では相手(受け)の力です。高精度の風向計のように、 敏感に力の向きを感じ、動き(動かされ)ます。

「人」という字を反転すると「入」。入身転換。攻撃に対して、転じて技に入る。災い転じて技と為す。 その技が「福」になれば、本物かな、と。 

04.「攻撃技」について

突きや正面打ち、横面打ちは、しっかり、正しく攻撃してくれないと、さばく稽古もできません。

ただし、小学生・中学生にこの方法を伝えることには、いつも抵抗があります。もちろん、戦わなくては身を守れない場面もあるかもしれませんが、多くの場合、手を出してしまったら社会的に負けです。まだ、自分をコントロールすることが難しい子供たちに、体重をのせた突きや引き落とす正面打ちを教えてしまって、万が一、感情とともに出てしまったら・・・、と懸念するのです。

武とは戈を止めると書く、とはよく言われますが、止めるべき戈がなければ、止める以前の問題です。戈を研いで、鍛えて、そしてしっかり止めることを覚える。攻撃技のお稽古のときにはいつにもまして、こんなことをお話します。

強いものを持っていれば、自信になって、余裕ができて、止めることができる。そんなことを願って、お稽古しています。そして、できれば、一生、使うことの無いよう、祈っております。

03.「斬るように」について

斬るように! 合気道のお稽古の中では、これもよく聞く、言葉です。

実際、木刀(木剣とも、言います)の素振りは合気道の一人稽古の中では重要視されます。日本刀は叩きつけて殴るものではなく、当てたらスライドして斬る、ものです。相手に自分をぶつけていったら、等しいエネルギーが自分に返ってきます。作用・反作用の法則、などと教わったことを思い出します。

といっても、相手とまったく平行に動いていては伝えることは出来ません。時々、ですが、平行線を保った方が勝ちなときもお仕事の上ではありますが、これは余談。イメージは日本刀にわずかに付けられている反り。反りの軌跡で、斬るように動くのです。

手を掴まれても、相手を導くときも、日本刀の反りの軌跡で動きます。真っ直ぐ行くと、ぶつかります。斬るように、です。

02.「かかとで立つ」について

合気道は「かかとで立つ」と御指導いただいたことがありました。

合気道の技は、正しく決まると手応えなく、スパッと決まります。それが一番わかるのは技をかけている自分自身。それまでは、この「スパッと」決まるのが何故か分からず、とにかく稽古を重ねたら「スパッと」率が上がるだろうと思っていました。

ところが、かかとで立つようにしてから、劇的に正しく決まることが多くなりました。かかとの上に立つと、骨なりに立つことができる。そのため、まっすぐな重心を使うことができるようになるのです。移動はつま先立ちよりも重くなりそうですが、腰をゆるめて落とすと、脚が自由になって、膝行の要領で滑るように移動できます。

その後、くるぶしの下に体重をかけるのが良い、ということも聞き、「かかとで浮く」気持ちで立てるようになったらまた、次のステージに進めるような気がしています。

01.「相手によって動き方が変わる」について

合気道は受けと仕手でお稽古します。受けが自分より大きいか小さいか、重いか軽いか、によって動きが変わります。技の掛け方は相手によって変わるのです。

一人で型を練り上げる、例えば太極拳の套路 、のようなものは自分との対話です。これはこれで良さがあり、真の相手が自分である点、本来の武道らしくもあります。

合気道には相手があり、誰が相手でも同じように動いてはもったいないのです。相手は自分の鏡であり、自分を浮き出してくれます。相手と自分の気を合わせる、それが合気であり、合気道を志すものが集まれば、本来、みな、気を合わせあうので、和気あいあいの図となるのです。

気を合わせるけど、競わない、ただひたすらに自分を鍛える、これが稽古かと思います。