本研究会顧問の安藤 譲二 先生が2024年11月26日にご逝去されたと伺い、大変に残念です。先生のご逝去を悼み、謹んでご冥福をお祈り申し上げます。
安藤先生は、1973年(昭和48年)に北海道大学医学部医学科卒業後、北海道大学医学部第一内科、その後、循環器内科を経て、1983年(昭和58年)に北海道大学電子科学研究所(旧応用電気研究所)助手、その後、講師を経て、1991年(平成3年)に東京大学医学部寄付講座脈管病態生理学 客員助教授に就任されました。その後、1997年(平成9年)に東京大学医学系研究科 医用生体工学 助教授を経て、1999年(平成11年)に教授に就任されました。2009年(平成21年)からは獨協医科大学医学部 生体医工学研究室 特任教授としてご活躍でした。
安藤先生のご専門は、血管のバイオメカニクス(生体力学)研究で、血流により発生する力学的刺激である剪断応力が血管細胞に及ぼす影響について、流体力学的に設計した流れ負荷装置と培養細胞を使って遺伝子発現や情報伝達の面から分子細胞生物学的に解析する研究や血流因子の作用や血流依存性に発生する粥状動脈硬化の分子機構に関する研究などを展開されました。これらに関して膨大な論文・学会発表をされておられます。
私が安藤先生に初めてお目に掛かったのは、2004年(平成16年)11月22日でした。当時、私は浜松医科大学放射線科に勤務しており、第二生理学の浦野哲盟教授が招請された演者が安藤先生でした。学内で、大学院特別講義として「血管系のメカノバイオロジー」の講演会があるとのことで、同僚の竹原康雄先生と出席しました。この講演会に出席した経緯ですが、次のようなものです。私の大学卒業 1984年当時は、今後数年以内にMR装置という大変に興味深い画像診断装置が日常臨床に導入されると言う時期で、MR装置に興味が沸き、私は放射線科に入局しました。その後、MR技術の中でもMRA、特に脳動脈瘤の検出に興味を持ちました。さらに、臨床を経験すると、脳動脈瘤を発見するのみでは、患者に利益がない場合もあることを知り(治療に伴うリスク、動脈瘤を持っていると自覚した患者の心理的不安は解消できない)、脳動脈瘤の発生、増大、破裂を画像から推定できることが必要と思いました。その頃、脳動脈瘤の計算流体力学解析(CFD)が行われ始め、血流動態が脳動脈瘤の発生・成長・破裂に関与すると言う論文が出始めていたと思います。。同様のことがMRIでできないかと考えはじめ、様々な試みを行っておりました。その一方、その当時の浜松医大のMR装置のメーカーであったGE社の関係者の皆さんには、「3D cine phase contrast MRIはできませんか?」といつもリクエストしていました。「私が現役の間に、この技術はできないだろうなあ!」と思っていた時もありました。ある日、スタンフォード大学のMarkl 先生が 4D Flow MRIを開発されたと言う大変に嬉しい情報がGE関係者からあり、2004年5月の京都で開催されたISMRM開催時に竹原先生とスタンフォード大学関係者、GE関係者とお会いし、皆様のご理解の下、浜松医大で4D Flow MRIが使用できるようになりました。その後、竹原先生とは、毎週1回朝7時頃から、「血液のレオロジーと血流(菅原 基晃・前田 信治 著、コロナ社)」」を読んで勉強していた時期だったと思います。私は脳動脈瘤、竹原先生は腹部大動脈瘤の発生・増大に関する血流に大変に興味があった時期です。
当日の安藤先生のご講演は、先生ご自身が開発された流体力学的に設計した流れ負荷装置と培養細胞を使って、血流により発生する力学的刺激である剪断応力が血管細胞に及ぼす影響を遺伝子発現や情報伝達の面から調べると言う内容であり、大変に感銘を受けました。4D Flow MRIで剪断応力を正確に求めることができれば、同様のことが分かるはずだと・・・。ご講演後に、安藤先生ともお話し、我々の勉強のために、ご講演のスライドをお借りできることになりました。大変にありがたいことでした。
その後、本研究会の前身となるスタディグループの皆様とともに4D FLOW研究会を立ち上げ、早期から、安藤先生に顧問ご就任をお願いしておりました。2018年9月の第46回日本磁気共鳴医学会大会のシンポジウム2「Can 4D-Flow Make a Clinical Breakthrough?」では4D FLOW研究会の会員が中心となり、2時間10分のシンポジウムが開催されました。座長は竹原先生と杉村 和朗 先生で、安藤先生、私を含め、10演題の発表がありました。安藤先生は、「内皮細胞の血流応答異常が血管病変を招く」と言う演題名でご講演されています。私は、安藤先生にお願いし、その時の先生のスライドの一部を送っていただき、その後の関連する発表で使用させて頂いています。
また、最近では、MRMSの編集委員もされておられる竹原先生が4D Flow MRIの特集号で安藤先生に寄稿をお願いし、「Joji Ando J, Yamamoto K. Hemodynamic Forces, Endothelial Mechanotransduction, and Vascular Diseases. Magn Reson Med Sci 2022; 21; 258–266」を執筆して頂いています。
4D Flow MRIの研究にとり、安藤先生は重要な研究者です。先生がお亡くなりになり、大変に残念です。安藤先生を思い返しますと、ふくよかなお顔立ち、大きな優しい眼が印象的です。今後も天国から我々の活動を見守り続けて頂きたいと願っております。合掌。
聖隷浜松病院 放射線科 礒田治夫