コロナ禍が与えた挑戦と希望

―留学の断念、カメラ、自分のルーツを探る旅へ―

 

国際学部国際地域学科 4年 今村智哉

(学年は2021年記事掲載時点の情報)

1年生のときに学科の海外英語実習でマレーシアに渡航したことをきっかけに、東南アジアの魅力にとりつかれた私は、1-2年生の頃は、長期休みには必ずバックパックで旅にでかけていました。

海外英語実習(マレーシア・ペナン島)

人びとの暮らしに触れたベトナム・ハノイの旧市街

バンコク(ワット・アルン)で衝撃を受けた荘厳な夕暮れ

特に大学2年の夏のマレー半島縦断の旅は刺激に満ちていました。飛行機を使わず、列車で移動することで、それぞれの地域に生きる人びとの「生の暮らし」を五感すべてで感じることができました。この経験は自分自身の世界観をとてつもなく大きく広げる経験となりました。基本的にはひとり旅でしたが、自分と同様に低予算で旅をする同じRDSの仲間たちとさまざまな国のさまざまな街角で出会い、経験と情報を共有し、エネルギーをもらいました。

バンコクにて偶然遭遇したRDSの仲間たちとの朝食

バンコク、フアラン・ポーン駅で

現地の人びとと列車を待った

27時間を過ごした寝台列車車内

バンコクのフアラン・ポーン駅では、大勢の現地の人びとと列車を待っていると、突然皆が起立して国歌を斉唱しはじめました。駅のホールに響きわたるその声を聞きながら、言いようのない高揚感を味わいました。ガイドブックには書いていない旅の魅力。私は、訪れた地域で自分のなかに湧き上がった感情や、その場所で自分が何を考え、どのような人と出会ったかなどを写真として記録するようになりました。旅では、現地の人びとだけでなく、様々な国出身の旅人とも出会うことができました。自分が撮影した写真と彼らが撮影した写真を共有することで、彼らと自分の共通の思いを確認できたり、自分が得られなかった情報や感情に気づいたりすることができました。なかでも旅の途中で出会い夜行バスでマレーシアからシンガポールまでをともに旅をしたアルジェリア人のメロ君とは、まったく異なるバックグラウンドを生きる者どうし、「生涯の友」と言えるような関係をつくることができました。 

マレーシアから旅をともにしたアルジェリア人のメロ君(シンガポールにて)

マレー半島縦断後に訪れたフィリピン・ボホール島

2020年、3年になる春休みに世界が一変しました。新型コロナウィルスの感染拡大によって世界的に国境が封鎖される事態となり、これまで気軽に訪れていた東南アジアをはじめとする海外への道が全て閉ざされてしまいました。なにより、予定していたアメリカへの交換留学が中止となり、思い描いていた夢の全て崩れ去ってしまいました。大学に通うことさえできないなか、自分の大学生活はこれからどうなるのかまったく予測がたたず、目の前が真っ暗になりました。


私は、1-2年生のあいだにつくりあげた人々とのつながりや、写真というツールをつかって培った、自分自身の世界の見方を発信するスキルを無駄にすることは絶対にしたくないと強く思いました。そして、今できることは何かと自問自答を繰り返した結果、写真や動画の撮影と編集を専門的に学ぶことに決め、自粛期間中に独学で身につけました。そして、身につけたスキルを試したいと考えた私は、自分自身で写真撮影の仕事を獲得することを目標にしました。


夜明け前にカメラをもって家を出て、東京の町を撮って帰宅し、オンライン授業を受けるという日々を過ごしました。SNSを利用して独自に自分の写真の広報を行ううちに、私の撮影スキルを評価してくださる多くの方に出会うことができ、仕事として写真や動画を撮ることができるようになりました。何もないところから自力で何かを生み出すことができたという喜びは大きく、自己成長を感じることができました。このスキルと自信をもとに、その後、学生ベンチャー企業でインターンシップを行うこともできました。

学生ベンチャーでの活動では、新潟県柏崎市のまちづくりに関わった

コロナで静まりかえった東京の日常を切り取った

(左:築地場外市場 右:上野駅)

コロナ禍できわだった東京の「孤独感」や「無機質さ」

(左:渋谷センター街 右:銀座)

現在は「在日コリアンのライフヒストリー」をテーマに卒論研究をおこなっています。コロナ以前は、留学予定だったアメリカで先住民族の研究をしたいと考えていましたが、留学を断念した後に、私の祖父が韓国人ということもあり、「在日コリアン」というもっとも身近なテーマに視点をうつしました。祖母や父、親戚の人びととあらためて向き合い、「ライフヒストリー」の聞き取りを始めました。これは、自分のルーツをさぐる壮大な旅になると感じています。また、通常の文字によるエスノグラフィーに加えて、料理をする祖母の姿などを映像として記録することで、文字では表現しきれない世界観を伝えられると考え、映像人類学という領域についても研究し、卒論でも映像資料を用いたいと考えています。 

自宅の各扉に飾られている韓国装飾品

身近な場所にも自分のルーツを示すものが沢山あったことに気づいた

1-2年生のあいだに授業内外で海外とのつながりを多くもてた事により、一つの物事に対しても多角的な視点から考えるということを身につけることができました。また、私が所属しているゼミでは「マイノリティ」をテーマに研究を行なっていますが、ゼミのメンバーは自分を含め海外と日本のハーフや日系三世など多様性に富んでおり、様々な視点からの意見を共有できる空間になっています。また、私だけでなく多くの仲間が留学を断念し、コロナによる絶望と不安をともに経験しました。仲間の存在が刺激になり、コロナ禍で何ができるのか、自ら考え、行動を起こす力を培うことができました。この力は、就活や卒論研究に生かすことができましたが、それだけにとどまらず、これから生涯にわたって私の原動力になると感じています。

中村ゼミの3年生と4年生