国際学部 国際地域学科 4年  宮本 航平

ファッションへの興味とアイヌ文様

 私は「先住民族アートの今-阿寒湖アイヌの新たな取り組みに着目して-」というテーマで卒論研究をおこなっています。近年、アイヌ民族の文化には多くの注目があつまり文化振興活動が活発化しています。アイヌの文化を丁寧に描いた漫画「ゴールデンカムイ」は大ヒットしてアニメ化もされましたし、またファッション業界でも大手ブランドとのコラボなど、アイヌ文化、とくに民族の文様は注目を集めています。私はもともとファッションが大好きで、民族衣装にも強くひかれていました。国内外のさまざまなデザイナーのコレクションなどを見るのが好きですが、そのなかで、ハイブランドが民族衣装の文様を無断で使用し「文化の盗用」と騒がれることもあることがとても気になっていました。たとえば、ルイヴィトンは、2012年に「マサイ・ライン」というマサイの民族衣装の赤いチェック柄を利用したデザインを発表しましたが、これに対してマサイの人びとから抗議の声があがっていることをゼミで学びました。

 そこで私は2019年10月に、「アイヌ文様の使用権、所有権をめぐり何が起きているか」ということを現地に行って直接調査したいと考え、単身でフィールドワークに向かいました。場所は釧路空港からバスで約1時間の阿寒湖のほとりの阿寒湖アイヌコタンです。コタンは、24の民芸品店と飲食店からなるアイヌ民族の集落です。

写真:アイヌの衣装・文様

写真:阿寒湖アイヌコタン

写真:阿寒湖アイヌコタン

フィールドワークの挫折と成功

 行けば、どうにかなるだろう!と思って向かいましたが、簡単ではありませんでした。直接現地の人々にインタビューを行い、情報を得ると言っても、生まれて初めてのフィールドワークです。友人や知人もおらず、全て一人でゼロからのスタートでした。学生という身分もあり、初めは、インタビューどころかお話することさえ難しい状態でした。甘かったな、と思いました。

 コタンのある店の方に、「本気で知りたいのなら、ある程度の知識をもって質問したほうがいい」とアドバイスを頂きました。その通りだと深く反省しました。宿に帰って、アイヌの歴史や文様の意味などをもう一度しっかりと勉強しなおし、その知識をふまえたうえで、質問したいことを整理し、質問文をつくりました。その後は、断られても諦めずに何度も、何度も粘り強く訪問しました。その結果、ついに、アイヌ民族文化保存会会長の松田健治さんという、もっともお話しを伺いたかった方にインタビューをさせていただくことができました。

 健治さんに、あらかじめいくつかピックアップしておいたアイヌ文様が使われているブランドの洋服の写真を見せ、意見を伺ってみました。彼は、「アイヌは200年間『和人』の差別を受けてきた」「アイヌ文様は家紋のような重要な意味を持つ」「大切なシンボルが勝手に使われるのは腹立たしい」と語ってくださいました。

写真:松田健治さんと私

松田健治さんを基点に人脈を広げることができ、その後はコタンの多くの方々にお話しをうかがうことが出来ました。彫刻、刺繍、アイヌ料理、アイヌ文様の入った木彫りのスマホケースやサングラス、アイヌ文様を使った銀細工のアクセサリー、デジタルアートとアイヌ古式舞踊を融合させた舞台の演出、アイヌの歴史の語り部など、さまざまなアイヌ文化を発信している魅力的な方々との素晴らしい出会いがありました。

 多くの方々からお話を聞いて学んだことは、「アイヌ民族として文化の保護、歴史を大切に守っていきたい」という考えの方もいれば、「時代に応じた新しいアイヌ文化をどんどん創造していきたい」という事を重要視する方もいるということでした。

 外部者である私は「アイヌの人びとの歴史と文化に対するリスペクトをもちつつ、彼らと共に現代のアイヌ文化を新たに創造し発信していきたい」と強く感じました。


写真:アイヌの彫刻(藤戸竹喜作)

写真:アイヌ文様をあしらったサングラス、スマホケースなど

写真:「民芸喫茶 ポロンノ」でいただいたアイヌ料理

写真:アイヌ文様を使用した銀細工は下倉洋之さんの作

写真:湖畔のホテルで語り部としてアイヌの歴史を語る千家盛雄さんにとてもお世話になった。

写真:デジタルアートとアイヌ古式舞踊を融合させた舞台「ロストカムイ」。ポスター(左)はヨシダナギさんが撮影したもの。

舞台のプロデューサーの床州生さんにもお話を伺えた。「ロストカムイ」鑑賞後は役者の方々と記念撮影(右)

フィールドワークを通して学んだこと

 フィールドワークを通して学んだことはふたつあります。ひとつ目は「体感することの大切さ」です。ネットには書いてない「リアル」。現地では阿寒湖の雄大な大自然を肌で感じました。そして、その自然とともにある生活、その自然の素材を使った衣装や彫刻、考え方、歴史、アイヌとしてのプライド、すべてがかっこよく一体感をもって感じられ、これこそが文化の理解だと感じました。

 もうひとつは、人間関係構築の困難さと楽しさです。初めは学生ということもありまったく相手にされませんでした。冷たくあしらわれ、めげそうになりました。まず、相手について調べられることはしっかり調べ、知識を蓄えた上で、資料なども活用しながら、自分の知りたいことを質問しました。断られても何度も訪問しました。この結果、松田健治さんには、「熱心さが伝わった」と言って頂くことができ、最終的に、健治さんのお店、「番屋」の店番と居候までさせていただきました。これはゼミの担当教員も驚かせる結果でした。

写真:松田健治さんの店「北国の味・ばんや」で、店番後にご馳走になったカレーライス

最後に

 阿寒湖アイヌコタンでのフィールドワークは、私にとって非常に刺激的で有意義な経験となりました。この経験をきっかけに、将来はファッションを仕事にしたいという意志を確固たるものにできました。卒業後は、ファッション業界で伝統技術・文化と新素材など革新的な新しいものを融合させたものづくりを手がけたいと考えています。そしていつの日が、アイヌの人びとと一緒に何かをつくることに挑戦したいと考えています。