シャンティ国際ボランティア会 絵本を届ける運動

―「かわいそう」から生まれる一方的な「支援」を越えて―

国際地域学科国際地域専攻3年 加瀬日向子

【インターンシップ先の基本情報】

1.名称:公益社団法人 シャンティ国際ボランティア会                                  

2.所在地:〒160-0015 東京都新宿区大京町 31 慈母会館 

3.組織概要:1981年設立。「共に生き、共に学ぶ」ことのできる平和(シャンティ)な社会を目指すことを使命とし、子どもたちが環境に左右されることなく安心して学べる機会創出を行う。

4.期間:2022年8月9日~2022年9月20日 (全12日間)

5.履修科目:地域社会実習(海外)Ⅲ

 

(1)シャンティ国際ボランティア会

シャンティ国際ボランティア会は、カンボジア、ラオス、ビルマ難民キャンプ、アフガニスタン、ミャンマー、ネパール、タイ、そして日本の8つの地域で40年以上にわたり、教育文化支援事業を実施している。本に触れる文化づくり、教育の質の向上を目標とし、「学ぶための本や教材」、「学びを届ける人」、「安心して学べる場所」、「学びと出会うための活動」の拡充に取り組んでいる。今回、私はインターンシップで、こうした取り組みのひとつである、絵本を届ける運動に関わる機会に恵まれた。人見知りが強かった幼い頃、本の世界が安らぎの場所であった私にとっては、とても魅力的な事業内容だった。

絵本を届ける運動の主な流れは、次の通りだ。「翻訳絵本づくり→海外へ発送→海外事務所に到着→子どもたちの手元へ」 そして、届けられるこの絵本は、ボランティアの方が絵本に翻訳シールを貼り製作される。その中で私は、翻訳絵本を海外へ発送するまでの業務に携わった。

シャンティの2021年の年次報告書によると、2021年末までの活動として主に4つの実績が挙げられている。1つ目の「学ぶための本や活動」では、届けた絵本が362,717冊、図書館利用者は延べ1,623万人。2つ目の「学びを届ける人」では、研修参加者は42,384人。3つ目の「安心して学べる場所」では、学校建設が429校、図書館・図書室設置が1,016館・室に及ぶ。4つ目は、「緊急人道支援」であり、これまで海外51回・国内30回行ってきた。

こうしたこれまでの実績を数字で確認することで、40年という長い支援の歴史の重みを感じ、自分もそれをつなぐ一員になることに喜びを感じることができた。


(2)私が担当した業務

私が担当した業務は2つある。ひとつめは、海外発送までの業務で、ボランティアの方がつけた翻訳シールが適切かつ綺麗に貼られているかをチェックし、その絵本を整理するとともに、ボランティアのから届いた思いのこもったお手紙をPCに入力して保存する作業である。もうひとつは、選書準備で、2024年にラオスとビルマ難民キャンプへ送る絵本を新しく決めるための準備作業である。まず絵本の表紙から背表紙まですべてをスキャンし、日本語を書き取ってその日本語に対応する英訳を作成し、日本語と英語の対比表を作成した。

 

1.海外発送までの業務

以下のような業務を通し、全体の流れを体系的に理解する。

・絵本チェック

返本されてきた絵本に、翻訳シールが適切かつ綺麗に貼られているか確認

・返本作業

個人・企業のボランティアの方が作成した翻訳絵本を整理

・お手紙入力

返本の際などに頂いたボランティアからのお手紙を、PC内に入力

 

2.選書準備

2024年にラオスとビルマ難民キャンプへ送る絵本を新しく決めるために、準備作業として以下の3つの業務を行った。

    スキャン

絵本を表紙から背表紙までスキャン

    日本語起こし

次の英訳と対比させるような表を作成し、ページごとに文字起こし

    英訳 

必要に応じて調べつつ、英訳

 

(3)インターンシップの成果

選書準備は私がもっとも苦労し、そしてもっとも大きな学びを得た部分であった。事前に担当の方に作業計画をチェックしていただいたが、時間不足が大きな課題であった。一概に絵本 1 冊といっても、そのページ数や文字数に大きな差があったことが、時間予測を難しくさせた。スキャン、日本語起こし、英訳、すべての作業に時間がかかった。

そこで効率よく進めるために、2つの工夫を取った。ひとつはインターン生同士での丁寧な引継ぎ、もうひとつは気づきの共有である。今回は2人のインターン生でこの業務を担当していたため、これらを通して事前に疑問点を解消し、自分たちに合う方法を探しながら業務を進めることができ、結果的に時間不足という課題もかなり解消できた。

(4)3つ自己目標とその達成度

私は、事前に以下の3つの目標を設定してインターンシップに臨んだ。

    <コミュニケーション能力の向上>

職員のとの認識のずれを極力小さくし、業務を円滑に行うこと

    <業務に対して強い責任感をもつ> 

業務の意味を理解し、やり切る覚悟で取り組むこと

    <業務を他者化することなく向き合い続ける> 

支援に関わるすべての業務に関わる人びと、とくに受け取り手の立場を想像すること

 

目標①の達成度は、90%だ。業務の説明を受けた後、疑問点は作業に入る前に消化することや、インターン生同士の引継ぎを怠ることはなかった。そして、なにか質問する際には話すことを整理して、結論から簡潔に話すこと意識した。

目標②の達成度は、80%だ。実際に選書準備を期間内に終えることはできなかったが、業務の意味を考え効率を意識した行動はとれていたのではないかと評価する。

目標③の達成度は、70%だ。「他者化することなく」とは、ひとつひとつの業務に意味を見出しながら、どのようにこの支援が成り立っているのかへの理解を深めること。そして、絵本を贈る業務のすべてのプロセスに関わるさまざまな人びとと、それを受け取る人びとの気持ちを想像しようと努めながら業務に携わることであった。今回は現地の子どもたちの様子をHPなどでイメージしていたため、実際に絵本が届くその先を体感として認識することができたと思う。また、支援者の方からの温かいお手紙を読み、作業されている姿を見る機会があったことで、この支援の輪を実感することができた。

(5)最後に

今回、どのように支援が回っているのかを実務を通して理解することができた。個人的には、ただその仕組みを知ることに加えて、本気で携わっている方々の向き合い方を目で視て、お話を伺い、その環境で考え行動することで、より立体的な学びを得ることができた。そしてこの視点は、2年生の秋学期に参加した、観光開発について学ぶゼミにおいて獲得した視点であった。今後も支援の構造を自分なりに捉えようとすることを意識し続けたい。

 全体を通して、職員・支援者の方々の絵本の丁寧な扱い方、参加するにあたっての考えが記されたお手紙など一つ一つが印象深かった。「この絵本が届いて、こどもたちが心から喜んでくれるかどうか」といった、そこに確かにあったぬくもりのある支援を多くの場面で感じ取ることができた。それはまるで、支援物資というよりプレゼントを用意しているようにも思えた。この経験は、ただ「かわいそうだから」から生まれる一方的な「支援」に対し疑問を持ち、自分なりにその構造を掴もうと調べてみることに繋がった。大変有意義で貴重な機会となった。