大学生活、心から本気になって向き合い続けていること
―学生団体によるコーヒーのフェアトレードの実現-

国際学部国際地域学科3年

望月ひかり

1. 「フェアトレード」との出会い

 

私は、学生団体「フェアトレード・ドリップパックプロジェクト」(通称ドリプロ)で活動しています。この団体は、ラオス産100%のコーヒーをフェアトレードで扱い、製品開発から販売までを学生が主体となって手がけている学生団体です。私はもともと「生産者と消費者を繋ぐ役割」に興味がありました。また、小学校の頃から困っている人を助けることができる国際協力に関わる活動をしたいとも漠然と思っていました。しかし、その頃は「困っている人=アフリカなどで飢餓に苦しんだり、紛争に巻き込まれている人」といった大雑把なイメージをもっているにすぎなかったため、何から着手すべきかわからないまま、「謎の正義感」だけでそう思っていました。そのような自分の認識のどこかがおかしいと感じてはいましたが、それを言語化できずに過ごしていました。

そんな中、中学校2年生の時に「フェアトレード」という言葉を知りました。調べてみると「生産者と対等な取引をすること」とわかりました。もしかすると、「フェアトレード」をキーワードにすれば、これまで自分には手に届かないと思っていた「国際協力」に関わる活動に近づくことができるかもしれないと思い、フェアトレードについての本を読んだり、講座に通ってみたり、実際に行っている人に話を聞きに行ったりと、積極的に勉強しました

高校時代のこうした学びをとおして、私が当初感じていた自分自身の「謎の正義感」に対するモヤモヤとした疑問の正体が次第にクリアになりはじめました。自分は、何によってモヤモヤを感じてしまっているのか、現実はどうなのか、そしてその現実のなかで生産者の方はどう生きているのか、自分自身の目と耳で知りたい・・学びたいと強く感じるようになり、主体的に活動したいと考えるようになりました。そして、大学に入学すると同時に学生団体「ドリプロ」に参加するようになったのです。

 

2. 生産者と消費者の「真のwin-win」を目指して

 

ドリプロは、2011年から活動を開始し、今年で13年目の団体です。全国から学生が集まっており、現在は10人ほどで動いています。インカレの学生団体なので、東洋大学生以外のメンバーもいます。ドリプロには理念があります。「生産者と消費者の真のwin-win」です。きっと今これを読んだ方は「win-winなんて聞き飽きた」と思ったかもしれません。正直私も怪しい言葉だと感じることも少なくありません。だからこそ、ドリプロは「真の」という部分を真剣に追求しています。そして、ラオスコーヒーが消費者の手元に届くまでの全過程において「現場で顔を合わせること」を13年間続けてきました。そのなかで生産者の抱える課題にともに向き合おうとしています。

また、「学生がラオスの農園とあなたを繋ぐ」ということをミッションとして掲げ、コーヒー農家の人びと、輸入業者の方、焙煎工場の方が私たちに届けてくださったコーヒーを製品化し、お客様に繋げ、その売り上げを現場に合った方法でコーヒー農家の人びとに還元するという方法で協働支援を行っています。

 

3. 活動内容

 

年間の活動としては、「販売イベントへの参加」や「ワークショップの開催」「オンラインサイト・卸販売」です。「販売イベント」では、マルシェのような場でラオスコーヒーの販売を1カ月に2回、多くて4回行っています。「ワークショップ」は、2時間ほどお客様としっかり向き合って参加型でラオスのことやフェアトレードについて学び合う場を開催し、学生が自主企画して2か月に1回ほどのペースで行っています。「オンラインサイト・卸販売」は、ECサイトからラオスコーヒーと触れ合う場をつくるなど、レストランやエシカルショップ等のご協力も得ながら交流や学びを重視した活動をおこなっています。


写真:ラオスでコーヒー生産に携わっている方とワークショップを行った時の様子

 また、中心となる活動として、毎年10日間、スタディーツアーとしてラオスのコーヒー農家の人びとに実際に会いに行きます。そこではコーヒーの生育状況を自分たちの目で観察したり、収穫を体験したり、家計調査として売上げや毎月の支出についてお話しをうかがったり、コーヒーに対する想いを語って頂いたりします。そして、一日ホームステイをして実際の暮らしを体験します。この「現場に実際に行く」という点は国際地域学科の「現場主義」と通じるものがあると考えます。大学の「国際協力論/国際開発援助論」の講義や「国際地域学研修」をとおして、現場の視点から考えることの重要性を学んできました。どんなに本や動画で学んで理解したつもりになっていても、いざ実際に現場に行ってみると感じることや見えてくるものが格段に違います。実際にラオスに足を運んだからこそ得られた「五感の学び」はその後も私の思考に大きな影響を与え続けています。 

写真(左上):農家さんがコーヒーチェリーをひと粒ずつ手摘みしている様子

写真(右上):コーヒーチェリーの果肉を機械で除去し次の発酵過程に繋げる準備をしている様子

写真(左上):発酵させた豆を平らに広げ、天日干し乾燥させている様子

写真(右下):車が道にはまって動かなくなってしまった様子。ラオスでは整備が整っていない道では雨のあとに人が車を押している場面が度々見られる

写真:コーヒーの生産過程(乾燥)を見学しながら生産者の方のお話を聞いている様子

写真:ラオスのコーヒー生産地周辺の様子

ラオスから帰国した後は、輸入業者の方や日本のお客様に向けて報告会を実施します。私たちが見たり聞いたりしてわかったこと等を聞いて頂き、ディスカッションをします。そして次回の渡航までのアクション・プランをたてて実行していきます。これまでに実行した「アクション」は、焙煎工場の見学、新しい製品(ブレンド)の開発、製品のパッケージなどの「魅せ方」の考案などがあります。また、現地で農家の方が、農園にトイレがないことに不便を感じていたため、これを解決するためのアクションを起こしました。こうした日々の活動のベースとして、メンバー同士が顔を合わせて議論できる対面のミーティングを定期的に行っています。(※コロナ期間は2週間に1回zoomでのミーティングでした。)

写真:ドリプロの支援者の方々にスタディーツアーの報告会を行っている様子

4. ラオスへの訪問をきっかけにうまれた決意

 

現在の私は「ドリプロ」に所属して3年目です。1年目の自分よりもはるかに誠心誠意この活動に向き合えていると感じています。入りたての頃は、言われたことをただこなしているだけの「待ち」の姿勢でした。行動したとしても、活かせないことばかりをして空回りしていました。自分の無力さを感じ、活動において自分を見失うことがとても多かったです。やりたいことがあってこの団体に入ったのにも関わらず、それが上手くできない現実を受け止める力や、やり通そうという信念、行動力が欠けていたのだと思います。

2年目になり、副代表という役職を与えていただき、このままでは団体に何も貢献することができない存在になってしまうという焦りから、「フェアトレード」を根本から学びなおしました。また、コロナが落ち着いたこともあり、現地に渡航できたことが私に大きな変化をもたらしました。農家の方々が私たちと接してくださった時の真摯な姿勢やコーヒーについて語ってくださる時の目の輝き、丁寧に手入れされた農園の様子、淹れてくださったコーヒーの格別な味と香り・・・これら全てにこれまでの自分自身の活動姿勢が重なるようになりました。私は、自分がやってきたことに自信をもてるようになりました。現在は13期の代表を務めています。

 

5. 自分の将来について考えていること

 

こうした活動を続けてきて、私は大好きな自分の地元・静岡で記者になりたいと考えるようになりました。静岡のメディアに就職し、自分の足でさまざまな現場を訪れて取材をおこない、情報を収集し、それを届けるということを仕事にしたいという目標をもっています。また、その情報により、地元に良い循環をうみだし、いわゆる“地域発展”に貢献したいと考えています。現場に足を運ぶことの重要性と各方面を繋ぐことのやりがいに気づけたのは紛れもなくドリプロのおかげです。

私にとって「夢」と「目標」の感覚は違います。夢は、世界がこうなったらいいな・・・というその姿で、目標は、そのような世界に近づけるために自分が成し遂げたいと思うさまざまなことです。記者という仕事に対しては夢も目標ももっています。その夢や目標を叶えるためにも、今のこの時間はどの瞬間も大切だと感じています。胸を張ってこれを頑張っていると言えるように、自分を信じられるように、現在の私はドリプロの活動に本気で向き合い続けています。