蛋白質の構造は,細胞の中で様々な大きさと形の分子シャペロンによって守られております。中でも「シャペロニン」と呼ばれる分子シャペロンの一群は特に特徴的な形、そして働きを発揮し、ごく一部の細菌を除いたあらゆる生物においてシャペロニンは存在し、蛋白質の形を守ります。それ故シャペロニンは生命が誕生して間もない頃に進化した「分子シャペロンの原型」の一つ、と呼べるかもしれません。
シャペロニンの作用のユニークさは「守る対象の蛋白質を自分の中で隔離して保護する」という点にあります。
シャペロニンの構造の中には大きな空洞(図中のグリーンの場所)があり、このCentral Cavityという空洞の中にシャペロニンは蛋白質を一時的に避難させます。
隔離された蛋白質は他の分子に邪魔されることなく,自分の構造を回復させるチャンスが与えられます。一定時間を経て空洞は開き、構造を回復させた蛋白質は離れていきます。
ATPの結合と加水分解が信号となり、この空洞は開閉され、次々と形を崩した蛋白質の保護に動きます。
シャペロニンの空洞を形成する蛋白質(図では「GroEL」と呼ばれる大腸菌のシャペロニンが表示)はドメインと呼ばれる3つの「塊」によって形作られております。そのドメインの中で、とりわけ「頂上ドメイン」という部位は重要で、空洞に隔離されるべき蛋白質を認識してその空洞の中へと導く働きを持ちます。頂上ドメインはひきこむ蛋白質分子の「疎水性;水を嫌い、油を好む分子の性質を頼りに認識して結合します。
シャペロニンの頂上ドメインは本体より切り離しても安定に水中で存在する事ができます。更に、このドメインは分子の疎水性を認識する能力は維持されています。
そこで、シャペロニンの頂上ドメインを利用して「蛋白質が変性し、機能を失ったり,アミロイド線維のような沈殿を形成するのを防ぐ事ができるのではないか?」と着想をし、その利用を目指しております。
期待通り、シャペロニンから取り出した頂上ドメインは家族性パーキンソン病との関連が疑われている「αシヌクレイン」というヒトの蛋白質がアミロイドを形成するのを防ぐことができました。この能力は試験管の中でも,実際の細胞の中でも発揮されることを確認しており、抗体、とまでは行かないまでも,アミロイド線維が細胞の中で蓄積することを防ぐ製剤になるポテンシャルを持っております。
現在、我々の研究グループではシャペロニンの頂上ドメインをどの様に医薬品として使うことができるか,あれこれアイデアを絞り出している最中です。新薬開発が実現することを期待しています。