生体には消化管が食餌成分を認識し、下垂体を初めとする種々の内分泌腺に情報を伝達する精巧なシグナル伝達機構が存在する(GI tract-endocrine axis)。離乳期の仔動物においては、食餌が液状のミルクから固形物へ変化する時期であり、消化管は顕著な物理的・化学的変化にさらされる。同時に、これらの変化に対応するための消化管機能や摂取する食餌成分の変化に対応した内分泌機能の変化が生じる。このような離乳期の複雑な消化管-下垂体機能調節系の変化は、GH分泌機能調節系に顕著に認められ、たとえば仔動物へのミルク給与はGH分泌を有意に増大するが、成獣での固形物の摂取は分泌を有意に低減することを明らかにした。
離乳前後のこのような変化は、栄養の水準が変化しても変わることがない。また、ストレスと密接に関係しているホルモンであるACTHの分泌を刺激する因子は、反芻動物の場合バソプレッシンであり、ACTHのみならずGH分泌を刺激する効果を示すことも明らかにした。
家畜の体内で脂質蓄積、糖脂質代謝と内分泌ネットワークに重要な役割をするアディポカイン(Adipokine)とヘパトカイン(Hepatokine)について生体内で調節機構を明らかにし、黒毛和種牛と乳牛の栄養管理(健全性の向上)への新たな方向性を示す。
反芻動物のルーメンは、ヒトやマウスなどの単胃動物と異なり、飼料の発酵に重要な役割を果たしている器官である。特に、仔牛の離乳前後における適切な栄養・飼養管理によるルーメン発達を促すことは重要であり、丈夫なルーメンづくりとは、その容積とともに筋肉層と上皮層(第一胃乳頭・絨毛)の両方を発育させることである。しかしながら、哺乳期と離乳後にルーメン絨毛(上皮層)の分化・形成のプロセスに関する詳細な機構は明らかにされてない。特に、反芻動物のルーメン(特にルーメン上皮組織)発達に関わる関連遺伝子の解析や外因的な因子による制御機構については殆ど研究がなされていない。 そこで、本研究は次世代シーケンサーを用いてウシのルーメン絨毛組織の形成・発達に関連する候補遺伝子を選別し、多様な飼養条件(エピジェネティクス制御)で得られたウシのルーメン絨毛組織において遺伝子の機能と解析を行うものである。これらの研究成果は反芻動物のルーメン絨毛組織の形成、増殖と成長に関する新しい科学的な知見を提供し、反芻動物のルーメン機能の発達が適切に促され、その後の健全な成長と生産性の向上に寄与することができる。