人間の精神的活動(心のはたらき)は、目や耳で直接的に観測することができません。そのため、人々の関心を引き付けやすい研究テーマでありながら、研究対象として難しいのです。扱いが難しいわけですから、人間の精神的活動(心のはたらき)を適切に測定したり、解析したり、解釈したりすることは、極めて高度な専門技術ということになります。
人間の行動(反応)に関しても同様です。行動(反応)は機器を用いて観測・記録できますが、それらのデータから適切な解釈を導くためには、やはり高度な専門技術が必要です。
ところが我々は自分自身が人間なので、自らの経験に基づき、あたかも人間一般の精神的活動(心のはたらき)や行動(反応)を、よく理解しているような錯覚に陥りがちです。少数の事例から学ぶことはもちろん多いですが、一般的傾向を理解する上では、バイアスの少ないデータを得る測定技術や、適切な解析技術、専門知識に基づく慎重な解釈など、トレーニングによりようやく獲得可能な専門技術が必須になります。これらの専門的技術には、プログラミング技術や統計解析技術なども含まれます。
例えば、アンケートを実施しさえすれば「心理」を測定したことになるわけではありません。頭皮に電極を装着しさえすれば「脳波」を測定でき、「集中力」や「無意識」を測定したことになるわけではありません。適切な測定法に基づかない心理学的データに対して統計分析を適用しても、何かの知見が得られるわけではありません。
このように、人間の精神的活動(心のはたらき)/行動(反応)の研究は難しいものであるにもかかわらず、社会では非常に単純化されて理解されることがあります。例えば、「お手軽に性格を診断できるツール」が流行ったり、消費者に対して有益な効果があるかどうかが適切に検証されず製品が開発されたり制度が設計されたり、偏見を助長しかねない言説が流布されたりすることがあります。
人間の精神的活動(心のはたらき)/行動(反応)の専門家になることは、学術的貢献にとどまらず、実社会でニーズの高い専門技術を修得することにつながります。実際に教員も、過去にメーカーの製品開発や、行政が実施する市民アンケートなどに協力してきました。
もちろん行動にせよ精神的活動(心のはたらき)にせよ、多岐に及ぶうえメカニズムは非常に複雑なので、一人がこれらを知り尽くした専門家になることは困難です。実務上は、学生時代に学習した事柄だけでは対応できないことも多いでしょう。しかし、「対応できない」と判断できること自体もまた、専門性の表れです。そして自分の手に余ると判断できたならば、適切な専門家を探すことや、その専門家とコミュニケーションすること、協力を仰ぐこともできるでしょう。これらもすべて、専門性に裏打ちされた能力です。
本学の建学の精神は『理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する』ことです。人間の精神的活動(心のはたらき)/行動(反応)について専門知を獲得することは、まさにこのポリシーに合致すると考えています。
研究室に所属する学生は、研究を通じて、
人間の行動や(脳内の)情報処理特性についての体系的な知識
よく統制された実験系の計画方法
計画した実験を実現するためのプログラミング技術
実験制御のため:Python / HTML / JavaScript
統計解析のため:Python / R / Stan
信頼性や妥当性の高いデータ(主観/行動/生理反応)の測定方法
測定したデータを適切に分析するための、データサイエンス/統計学の知識や、解析技術
解析結果を踏まえた論理的なディスカッション能力
プレゼンテーション能力
研究倫理
などを習得した人材として社会で活躍してほしいと思います(ただし研究テーマによって、上記のうちどの技術を重点的に習得するかは異なります)。
これらの能力がいかに重要であるかは、以下の記事(大学院で心理学のトレーニングを積んだのち、データサイエンティストとして就職した、友人のインタビュー)をぜひ一読してください。
これらの観点に関連し、かつ教員が指導可能なテーマであれば歓迎します。
教員はこれまで主に安全性(safety)に関連する研究に注力してきましたが、今後は生産性(productivity)や快適性(comfort)に関する研究も着手したいと考えています。
特に、美術や演劇を鑑賞することが好きなので、これらの芸術と関連する人間の行動や精神的活動(心のはたらき)を研究していきたいと考えています(これらは快適性に関連するテーマと考えています)。
教員の業績については、こちらのページなどを参照してください。また、過去に指導した卒業研究のテーマは、こちらのページなどを参照してください。
認知科学・心理学の基本的な知識や研究法、統計学やプログラミングなどの習得を目指します。2026年度以降は、4年生が3年生を指導することで、4年生自身の理解を深めつつ、配属されたばかりの3年生との縦のつながりを作ったり、知識や技術の伝導を行ったりします(もちろん教員は監督します)。
また並行して、ソイチャレ(アイディアソン)へ参加します。
ソイチャレ(アイディアソン)発表会
3年生を2グループにわけ、それぞれのグループで認知科学的研究を行い、年度末の情報処理学会(学生セッション)で発表を目指します。認知科学の研究を一通り体験することが目的なので、テーマは卒論とは無関係です(もちろん、卒論につなげてもよい)。
※3年生で学会発表可能なのか?と思うかもしれませんが、2025年3月には、前職で指導していた静岡理工科大学の学部1年生が情報処理学会(学生セッション)で立派な発表を行いました。
卒業研究+就活 or 大学院進学を見据えた勉強
配属された3年生を交えて、歓迎会
年に2回、全国の大学と合同で、認知科学・データサイエンスの勉強会を開催しています。開催地次第ではありますが、なるべく参加・発表し、最先端の知見を獲得するとともに、ネットワークを広げてほしいと思います。
卒論発表会や修論発表会に参加し、その後に慰労会
各種研究会や学会への参加を推奨・支援します