課題演習(2020年度通年)
科目の目的・到達目標
この課題演習は、「コンセプト」を軸として、マーケティング戦略の審美眼を養うことを目的としています。顧客価値に基づいてマーケティング戦略を解釈するための「ものの見方」を身につけることを目標とします。
授業の概要
〔テーマ〕コンセプトで考えるマーケティング戦略
コンセプトとは、企業が顧客に提供する本質的な顧客価値の定義のことです。
企業はいったい何を売っているのか?一見、あたりまえな問いのようですが、多くの人が頻繁に間違える問いです。だからこそコンセプトを考え抜くことは企業に根本的な差別化をもたらします。マーケティングの世界は、コンセプトをめぐる成功や失敗の事例に事欠きません。いくつか例を挙げてみましょう。
メガネとは何か?普通に考えれば目が悪い人のための視力矯正のツールのことです。しかしJINSを展開するジェイアイエヌという企業は、「目が悪くない人」もターゲットとして、ディスプレイのブルーライトを遮断するメガネや、花粉をカットするメガネを作りヒットさせています。この成功が「メガネ」のコンセプトを再定義することによるものであることは明らかです。
腕時計で文字通り世界を制覇したセイコーは、時計の価値は「高い精度」にあると考えて技術革新に励んだ結果、80年代半ばまでは世界一の腕時計メーカーとして君臨しましたが、今では見る影もありません。「宝飾品としての時計」という新たなコンセプトの登場を見逃してしまったためです。
サービス業の好例はスターバックスです。彼らがそのコンセプトを「美味しいコーヒーを売ること」としていたならば、他のコーヒーチェーンの倍近い設備投資の店舗を作って回転率の悪いカフェを運営することはなかったでしょう。スターバックスは「第3の場所」というコンセプトに基づいて、カフェでの滞在経験を売っているのです。このことは他のコーヒーチェーンとの明確な差別化の源泉となりました。
このように、企業が自社の製品・サービスのコンセプトをどのように定義するかは、マーケターの思考パターンを決めてしまい、マーケティングの成否に大きく影響します。
・誰に、何を、どうやって売るのか?
・提供物をどのようなものと見なすのか?
・個々の企業をどんな市場もしくは業界に属していると見なすのか?
なんだか抽象的ですが、考える価値のある興味深い問いばかりです。この課題演習では「コンセプト」を軸としてこれらの問題を考え、マーケティング戦略の審美眼を養っていきたいと考えています。
授業計画
次のプロセスを繰り返します。
第1に、本を深く読みこんで、コンセプトを言語化するトレーニングを行います。第2に、現実の企業のマーケティング問題を扱った「ケース」を用いて、マーケティング戦略の提案と討論を行います。
このプロセスをだいたい3週間で1サイクルとして繰り返すことによって、複数の企業のマーケティング戦略事例を深く知るだけでなく、その読み解き方を理解してもらうつもりです。
テキスト・参考文献等
【テキスト】
沼上幹 (2008)、『わかりやすいマーケティング戦略(新版)』、有斐閣。
最初にこの本を用いてマーケティング戦略の基本を学習します。
【これまでに読んだ本】
2番目に輪読する本は受講生のニーズに基づいて決めます。参考までにこれまでの課題演習で読んだ本を挙げておきます。
Ariely, Dan (2008), Predictably Irrational: The Hidden Forces that Shape Our Decisions, Harper Collins, 熊谷淳子訳 (2013)、『予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』、早川書房。
Christensen, Clayton M. (2000), The Innovator's Dilemma: The Revolutionary Book That Will Change the Way You Do Business, Harvard Business School Press, 伊豆原弓訳 (2001)、『イノベ-ションのジレンマ ― 技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (増補改訂版)』、翔泳社。
Kotler, Philip and Kevin Lane Keller (2007), Marketing Management: A Framework for Marketing Management, third edition, 恩蔵直人監修・月谷真紀訳 (2008)、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編(第3版)』、ピアソン・エデュケーション。
楠木建 (2010)、『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』、東洋経済新報社。
三品和広 (2011)、『どうする日本企業』、東洋経済新報社。
三品和広・三品ゼミ (2011)、『総合スーパーの興亡』、東洋経済新報社。
三品和広・三品ゼミ (2013)、『リ・インベンション―概念(コンセプト)のブレークスルーをどう生み出すか』、東洋経済新報社。
三品和広+センサー研究会 (2016)、『モノ造りでもインターネットでも勝てない日本が、再び世界を驚かせる方法』、東洋経済新報社。
沼上幹 (2016)、『ゼロからの経営戦略』、ミネルヴァ書房。
小倉昌男 (1999)、『経営学』、日経BP社。
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社。
スケジュール
4月23日 (木):ガイダンス
4月30日 (木):沼上第1章「マーケティング・ミックス」
5月7日 (木):ケース・ディスカッション「カシオGショック」
5月14日 (木):沼上第2章「ターゲット市場の選定」(1)
5月21日 (木):沼上第2章「ターゲット市場の選定」 (2)
5月28日 (木):ケース・ディスカッション「ドトール/スターバックス」
6月4日 (木):沼上第3 章「製品ライフサイクル」(1)
6月11日 (木):沼上第3 章「製品ライフサイクル」(2)
6月18日 (木):沼上本第4 章「市場地位別のマーケティング戦略」
6月25日 (木):沼上本第5 章「業界の構造分析」
7月2日 (木):沼上本第6 章「全社戦略」
7月9日 (木):沼上本第7 章「事業とドメインの定義」、終章
9月24日 (木)『論文の教室』第1章
10月1日 (木) 『論文の教室』第2章
10月8日 (木) 『論文の教室』第3章
10月15日 (木) 『論文の教室』第4章
10月22日 (木) 『論文の教室』第5章
10月29日 (木) 『論文の教室』第6章
11月5日 (木) 『論文の教室』第7章
11月12日 (木) 『論文の教室』第8章
11月19日 (木) 『論文の教室』第9章
11月26日 (木)
12月3日 (木)
12月10日 (木)
12月17日 (木)
1月14日 (木)