課題演習 (2018)
科目の目的・到達目標
この課題演習は、「コンセプト」を軸として、マーケティング戦略の審美眼を養うことを目的としています。顧客価値に基づいてマーケティング戦略を解釈するための「ものの見方」を身につけることを目標とします。
授業の概要
〔テーマ〕
コンセプトで考えるマーケティング戦略
コンセプトとは、企業が顧客に提供する本質的な顧客価値の定義のことです。
企業はいったい何を売っているのか?一見、当たり前な問いのようですが多くの人が頻繁に間違える問いであり、だからこそコンセプトを考え抜くことは企業に根本的な差別化をもたらします。マーケティングの世界は、コンセプトをめぐる成功や失敗の事例に事欠きません。いくつか挙げてみましょう。
任天堂のゲーム機Wiiは、きわめてよく考えられたコンセプトを持っています。携帯ゲーム機が普及し、据え置き型ゲーム機の需要が頭打ちになる中で、Wiiは「家庭内でのユーザーを増やす」ことを目的として、家族の誰からも敵視されず、従来のゲーム・ソフトにとらわれないインタラクティブ・エンターテイメントとして開発されました。その動画処理などの性能はソニーのPS3に比べると大きく劣るものだったにもかかわらず、据え置き型ゲーム機として成功した背景にはその卓越したコンセプトがあるのです。
コンセプトはビジネスの進化にも影響します。携帯電話のコンセプトを文字通り「持って歩ける電話」とするのであれば、現在のように通話以外の機能の方がより多く使われるようなデバイスとしては進化しなかったはずです。「人が肌身離さず持ち歩くデバイス」と定義することによって、機能の拡張が進んだのです。
一方、腕時計で文字通り世界を制覇したセイコーは、時計の価値は「高い精度」にあると考えて技術革新に励んだ結果、80年代半ばまでは世界一の腕時計メーカーとして君臨しましたが、今では見る影もありません。「宝飾品としての時計」という新たなコンセプトの登場を見逃してしまったためです。
サービス業の好例はスターバックスです。彼らがそのコンセプトを「美味しいコーヒーを売ること」としていたならば、他のコーヒーチェーンの倍近い設備投資の店舗を作って回転率の悪いカフェを運営することはなかったでしょう。スターバックスは「第3の場所」というコンセプトに基づいて、カフェでの滞在経験を売っているのです。このことは他のコーヒーチェーンとの明確な差別化の源泉となりました。
これらの例で明らかなように、企業が自社の製品・サービスのコンセプトをどのように定義するかは、マーケターの思考パターンを決めてしまい、マーケティングの成否に大きく影響します。
・誰に、何を、どうやって売るのか?
・提供物をどのようなものと見なすのか?
・個々の企業をどんな市場もしくは業界に属していると見なすのか?
なんだか抽象的で哲学的ですが、考える価値のある興味深い問いばかりです。
この課題演習では「コンセプト」を軸としてこれらの問題を考え、マーケティング戦略の審美眼を養っていきたいと考えています。
授業計画
次のプロセスを繰り返します。
第1に、本を深く読みこんで、コンセプトを言語化するトレーニングを行います。第2に、現実の企業のマーケティング問題を扱った「ケース」を用いて、マーケティング戦略の提案と討論を行います。
このプロセスをだいたい3週間で1サイクルとして繰り返すことによって、複数の企業のマーケティング戦略事例を深く知るだけでなく、その読み解き方を理解してもらうつもりです。
テキスト・参考文献等
三宅秀道 (2012)、『新しい市場のつくりかた』、東洋経済新報社。
沼上幹 (2008)、『わかりやすいマーケティング戦略(新版)』、有斐閣。
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社。
スケジュール
4/2(月)10:00-18:00
エクセル講習
第1回:4/16
ガイダンス
第2回:4/23
Grit
第3回:4/30
マーケティング・ミックスの発表 (1)
第4回:5/7
マーケティング・ミックスの発表 (2)
第5回:5/14
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第1章「崩れ去る内輪の論理」。
第6回:5/21
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第1章「捨て去れぬ栄光、迫る崩壊」。
第7回:5/28
ケース:エスビー食品
第8回:6/4
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第2章「僕らは未来を諦めてはいない」。
第9回:6/11
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第3章「消費者はもう騙されない」。
第10回:6/18
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第3章「消費者はもう騙されない」。
第11回:6/25
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第4章「僕らは未来を諦めてはいない」。
第12回:7/2
ケース:アイロボット
第13回:7/9
杉原淳一・染原睦美 (2017)、『誰がアパレルを殺すのか』、日経BP社、第4章「僕らは未来を諦めてはいない」。
第14回:7/16
沼上幹 (2016)、「イノベーションをめぐる諸問題」、『ゼロからの経営戦略』、第6章、ミネルヴァ書房。
第15回:7/23
Christensen, Clayton M., Michael E. Raynor, and Rory McDonald (2015), "What is Disruptive Innovation?" Harvard Business Review, Vol. 93, No. 12 (December), pp. 44-53.有賀裕子訳 (2016)、「破壊的イノベーション理論:発展の軌跡」、『ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー』、41 (9)、pp.27-38.
第16回:9/24
ケース 「スターバックスコーヒー/ドトール」 (1)
第17回:10/1
ケース 「スターバックスコーヒー/ドトール」 (2)
第18回:10/8
Kotler, Philip and Kevin Lane Keller (2007), Marketing Management: A Framework for Marketing Management, third edition, 恩蔵直人監修・月谷真紀訳 (2008)、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント基本編(第3版)』、ピアソン・エデュケーション。第1章「21世紀のマーケティングの定義」。
第19回:10/15
Kotler and Keller (2007), 第2章「マーケティング戦略とマーケティング計画の立案と実行」。(1)
第20回:10/22
Kotler and Keller (2007), 第2章「マーケティング戦略とマーケティング計画の立案と実行」。(2)
第21回:10/29
Kotler and Keller (2007), 第4章「顧客価値、顧客満足、顧客ロイヤルティの創造」。
第22回:11/5
Kotler and Keller (2007), 第5章「消費者市場の分析」。
第23回:11/12
Kotler and Keller (2007), 第7章「市場セグメントとターゲットの明確化」。(1)
第24回:11/19
Kotler and Keller (2007), 第7章「市場セグメントとターゲットの明確化」。(2)
第25回:11/26
Kotler and Keller (2007), 第8章「ブランド・エクイティの創出」。
第26回:12/3
Kotler and Keller (2007), 第9章「ポジショニングの設定と競争への対処」。
第27回:12/10
Kotler and Keller (2007), 第10章「製品戦略の立案とライフサイクルを通じてのマーケティング」。
第28回:12/17
Kotler and Keller (2007), 第11章「サービスの設計とマネジメント」。
第29回:1/7
Kotler and Keller (2007), 第12章「価格設定戦略と価格プログラムの策定」。
第30回:1/21
Kotler and Keller (2007), 第13章「バリュー・ネットワークおよびチャネルの設計と管理」。