Research

研究内容

個別量子の観測および制御、開放量子系の制御を研究テーマとして、冷却原子気体を用いた実験を行っています。

冷却原子気体とパルスレーザーを組み合わせた新しい量子シミュレータおよび量子コンピュータ

2019年4月~現在 @ 分子科学研究所 大森研究室

冷却原子気体とパルスレーザーを組み合わせた新しい量子シミュレータおよび量子コンピュータの研究・開発を行っています。具体的には主に、冷却原子気体を単一原子レベルで個別に捕捉・制御できる「光ピンセット配列」と呼ばれる原子トラップ手法を用いてルビジウム原子を捕捉し、それらの原子をリュードベリ状態と呼ばれる励起状態へとパルスレーザーにより励起することで、原子間に相互作用を誘起させ、そのダイナミクスを個別原子レベルで制御・観測しています。通常の冷却原子実験では主に連続波レーザー(Continuous Wave: CWレーザー)を用いるのに対して、我々はパルスレーザーを用いることでピコ秒~ナノ秒スケールの超高速ダイナミクスを誘起・制御・観測しています。この手法を用いて、これまで実現されてきた速度と比べて2桁高速であるナノ秒スケールの超高速原子間相互作用を2原子間に誘起することに成功しました [Y. Chew et al., Nature Photonics 16, 724 (2022)]。

光格子中の冷却原子を用いた開放量子多体系の制御

2014年4月~2019年3月 @ 京都大学高橋研究室

現実的な量子系を考える際、環境との相互作用により生じる散逸の影響は不可避であり、その影響を理解することは量子多体状態の制御において基本的な課題です。このような開放量子多体系の研究は、理論的に精力的な研究が進められているのに対して、散逸を自由に導入できる高い制御性を有した実験系を構築する難しさから、極めて限定的な例でしか実現されていませんでした。

 我々が行った研究では、原子同士の非弾性衝突の強さを光によって制御することで、環境との相互作用を自由に制御する手法を確立し、これを用いて散逸が量子多体現象へ与える影響を観測しました [T. Tomita et al., Science Advances 3 e1701513 (2017)]。特に、量子多体現象の中でも劇的に物性の質的変化が生じる量子相転移に関して、周囲の環境との相互作用によって生じる散逸が与える影響を系統的に調べ、光格子中に導入された冷却ボース原子系において観測されるモット絶縁体-超流動相転移の振舞いが、散逸によって質的に変化することを明らかにしました。具体的には、光格子中の各格子点に原子が局在しているモット絶縁体が、散逸を印加することによって安定化する現象を観測しました。この現象は、量子系への測定(環境との相互作用)によって系のダイナミクスが抑制される量子ゼノ効果によって理解されます。

 この系における量子シミュレーションの結果をベンチマークとして利用することにより、開放量子多体系の理論が大きく発展すると期待されるほか、この実験において導入した制御可能な散逸は量子状態制御の新たな手法として利用することが可能であると期待されます。


 開放量子系に関する研究についてのプレスリリースです(2017年12月25日)。

プレスリリース「見られていると絶縁体が安定化する ー観測による量子多体状態の制御技術を確立ー」

Art of Illusionという3Dグラフィックソフトで描きました。

梱包用スポンジと丸ピンで作りました。