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研究内容

ロボティクス・大規模計測・データサイエンスを活用した、生命科学研究の新たな姿の実現を目指して研究開発を行っています。

現在の研究トピック一覧

1. オミクス解析ハイスループット実験・データ駆動型科学による微生物育種法の開発

微生物を用いたバイオ燃料や化成品原料などの物質生産は、持続可能な社会創成の要請を受けて注目が高まっています。この際には生成物の蓄積による毒性などに対して耐性を有する菌株の育種が必要になります。私はこれまで、生物が持つ進化する能力を利用して、微生物の育種や制御についての研究を行ってきました。

私は大学院博士後期課程で、実験室進化という手法を用いた研究を開始しました。実験室進化とは、変異と淘汰という生物の持つ進化能を利用して、その環境に対する進化を実験室内で起こさせるものです(右図)。次世代シーケンサーをはじめとするオミクス計測技術により、その進化過程で生じた変異や細胞内の状態の変化を解析可能です。もしその環境に対して適応するために必要な理学的メカニズムが不明であったとしても、生物自身にそれを実現させ、その原因をオミクス計測により解明できる強力な手法として注目を集めています(e.g. 文献[1-1], [1-2], [1-3])。

一方で、実験室進化には長い実験期間を要する点、実験者従事者に高い負荷がかかる点により、その実験実施が研究遂行上のボトルネックとなっていました。そこで理化学研究所において、こうした実験室進化のための微生物継代培養を全自動かつハイスループットで行うことができる自動化システムの開発を行いました(文献[1-4], 右動画)。これにより、人的リソース問題の解消のみならず、様々な条件下での実験データから法則性などを見出すデータ駆動型研究へと発展させることができるようになりました。

全自動化システムによるハイスループット培養と多条件での実験室進化、オミクス解析を用いることにより、これまで (i) ストレス耐性大腸菌の育種(e.g. 文献[1-5], [1-6], [1-7])(ii) 薬剤耐性菌の出現機構の解析(e.g. 文献[1-8], [1-9])(iii) 増殖連動型物質生産菌の生産能の向上(e.g. 文献[1-10], [1-11])などの成果を挙げることができました。こうした知見は、有用微生物の合理的な育種や薬剤耐性菌の出現抑制手法の開発などに活用することができます

近年のAI技術の発展や計算機リソースの拡充は目覚ましく、画像解析や高分子構造予測などの分野で既にその威力を発揮しています。その一方、たとえば微生物の培養プロセスやストレス応答などは、数千以上の遺伝子からなる細胞そのものの挙動、さらには外部環境との相互作用といった複雑な要素を含んでいます。こうした複雑な問題に対してAIの長所を発揮させるためのデータ取得が課題となっています。これまで行ってきたデータ駆動型アプローチを実験的基盤とし、AI技術と有機的に組み合わせることによるAI駆動型研究に取り組もうとしています

2. ロボット等による実験室自動化の高度化

新型コロナウイルス感染症の流行は、我が国を含む世界各国の生活・経済活動などに大きな影響を及ぼしました。大学等における学術研究も例外ではなく、コロナ新時代に向けた体制構築が求められています。期せずしてコロナ禍は、研究開発現場での遠隔化・自動化に脚光を浴びせることとなりました。しかしながら、その確立には数多くの課題が存在します。自動化システムの運用にはまだ数多くの人間の介入、たとえば消耗品の補充や使用後の片付け、トラブル対応などが必要ですし、自動化プラットフォームに接続可能なバイオ実験機器は多くありません。そこで産総研では、製造業などを支えているアーム型ロボットやその周辺技術を活用した独自の実験自動化システムの実装を進めています。

産総研発ベンチャーであるロボティック・バイオロジー・インスティチュート社(リンク)が開発したLabDroidまほろは、双腕型のバイオ実験用ヒューマノイドです。ヒトが用いるものと同じ実験器具(遠心機やボルテックスミキサーなど)をそのまま利用することができ、さらに傾けたり回転させたりという複雑な動きを実行可能です。これまでの実験自動化の経験を活かし、まほろを用いた研究プロジェクトに参画しています。現在、動物細胞培養やオミクス実験の自動化(e.g. 文献[2-1])、ハイスループット分注機との連携による自動実験の高度化右図などの研究を進めています(進行中の研究プロジェクト[2-1], [2-2])。

3. 安価に実装できるボトムアップ自動化とその普及

ラボラトリーオートメーションはデータ駆動型・AI駆動型科学のためのキーテクノロジーですが、その多くは高価な機器や特注品を必要とし、多くの研究者に広く普及しているとは言い難い状況でした。一方で、近年では低価格帯の半自動分注機や、STEM教育用に開発された安価なロボット、IoTデバイスが登場しています。そこでこれらを積極的に導入した安価な実験自動化システムを実装し、それらをオープンソース・オープンプラットフォームとして公開することにより、多くの研究者が利用可能な形で共有しようとしています(右図)。教育用ロボットやIoTデバイスを用いた自作装置の作例はweb上にしばしば公開されているものの、その数はまだ少なく、バイオ系研究者にとっては敷居が高いと言わざるを得ません。こうした自作装置の作例は、いわば「合成生物学におけるパーツ」にほかならず、そのラインナップの充実は分野人口の拡大と相互に連環しています。利益追求をモチベーションとしないアカデミア研究が主導してオープンソース化を進めることが現状を打破する突破口だと考えています。

そこで現在、ボトムアップ自動化のPoCとしてタンパク質分子進化工学を題材とした研究を進めています。マイクロプレートの搬送機能を持たない半自動分注機と教育用多関節ロボット(e.g. 右動画)などを組み合わせて、従来のライフサイエンス用自動化装置よりも安価な実験の自動化を目指しています(文献[3-1] 進行中の研究プロジェクト[3-1])。

Web_DIYRobotics.mp4

4. ウェット系人材によるバイオインフォマティクス技術の利活用と普及

分析技術の高度化と計算機性能の向上に伴い、膨大な生命情報から有用情報を抽出するための手段であるバイオインフォマティクス解析の重要性が増しています。しかしながら、このバイオインフォマティクス解析は、高度な専門知識を要し、さらにターゲットや目的によって多種多様の方法論が存在することから、初学者にとっては敷居が高いと言わざるをえません。またそうした状況に対し、適切な教育やサポート体制の提供は不十分であることが多く、各研究者が独力で個別問題に取り組まざるを得ないという状況が頻出しています。。私も自身が取得したオミクスデータの解析を通じてその重要性やハードルを感じていました。

そこで生物工学分野にフォーカスした解析サポート環境の整備や交流の場の形成、バイオインフォマティクスがわかるウェット系(バイオ系)研究者の育成、研究活動の支援どを目的として、日本生物工学会の研究部会設置制度(リンク)を利用し、バイオインフォマティクス相談部会(リンク)を2017年度に設立しました。部会はバイオインフォマティクスに精通したウェット系研究者有志により運営し、シンポジウム開催、ハンズオンセミナー開催のほか、メーリングリスト、オンライン相談窓口右図)の運営を行っています。これまでに、部会活動をきっかけとした共同研究への発展や共著論文の出版、書籍の編集・執筆協力などの実績があります(リンク, 文献[4-1], [4-2], [4-3])。

当該分野の発展には学会内外の研究者の交流が重要となります。そこで当部会は学会員/非会員員に関わらず広く門戸を開いております。当部会の活動にご興味を持たれた方は、是非お越しいただけますと幸いです。

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5. 研究自動化の普及と発展のための活動

実験自動化の実装や運用のためには、複数の分野、たとえば生物学、機械工学、ソフトウェア工学といった学際領域における知識や経験が必要となります(右図)。また、分野人口自体が小さいことから実装や運用のためのノウハウを共有する機会に乏しく、さらに、そのような現場レベルの情報が学会発表など通常の成果発信の場で語られることはほとんどありません。私もそうした孤軍奮闘の状況を経験してきました(文献[5-1])。そこで、自動化をしている・したい・興味のあるユーザーや開発者の情報交換のためのコミュニティとして、Laboratory Automation研究会(リンク)を有志により運営しています。具体的には、毎月1回の勉強会と年1回のカンファレンスを開催しています。

Laboratory Automationは実験の自動化だけでなく、解析の自動化や研究生活の自動化なども含んでいますWebページには過去の講演演題一覧を掲載しており、当会が幅広い分野をフォローしていることがお分かりいただけるかと思います。異分野間の連携のためには、立場が異なる様々な人との交流の場が重要な役割を果たすことを、私は上述のバイオインフォマティクス相談部会の運営を通じて痛感しています。当会の活動にご興味を持たれた方はぜひお越しください。

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