開発経済学とは、「国家が経済的に発展する様々なプロセスを分析し、低所得国の発展戦略を明らかにすることを目標とする研究分野」である。したがって必然的に、マクロ経済学・ミクロ経済学を基本として国際金融論・国際貿易論・農業経済学・ゲームの理論・リスクと情報の議論・産業組織論・都市経済学等あらゆる分野の成果を踏まえる必要が出てくる。
さらに現実の政策的要請から、フィールド調査やそのデータを用いたミクロ計量的な分析が幅広く行われてきた分野でもあり、計量経済学や、最近では実験経済学・行動経済学の知識が不可欠となっている。
したがって「経済発展のための処方箋を提供する」という急務の要請にも関わらず、開発経済学の学習は非常に困難であり、多大な努力を必要とする。
このゼミでは、教科書と専門論文を読みこなし、計量経済学・数値計算の手法を学びつつ、議論を重ねることにより、この実践的な分野に足を踏み入れるきっかけを作りたい。
①開発経済学の黄金期:1950・60年代
第二次世界大戦後の復興と旧植民地諸国の政治的独立という背景のもと、アメリカ合衆国を中心として生み出された膨大な開発援助をいかに配分するかという理論的根拠として開発経済学の進展が要請される。この時代には政府による積極的な工業化政策を主張する固有の開発経済学が途上国経済を分析する経済理論として受け入れられ、輸入代替工業化による積極的な経済政策を提案した。
②開発経済学の衰退~新古典派の反革命~:1970・80年代
市場・需要の制約要因や価格調整メカニズムの「構造的」硬直性をモデルによって定式化することに失敗し、また輸入代替工業化政策が実証的に否定されたことから開発経済学は衰退する。開発経済学とは対照的に、市場の価格調整メカニズムによって社会を望ましい形にするという考え方の新古典派が影響力を持つようになった。
③開発経済学の復権~新しい開発経済学による反反革命~:1990年代
1990年代になると、途上国でも市場は機能するという新古典派の信念に対する批判がでるようになった。そして政府と市場の役割があらたな観点のもとで再評価されはじめ、制度あるいは組織の果たす役割に大きな焦点があてられるようになってきた。また発展途上国に特有の市場の未発達性に関する理論的・実証的分析が進んだり、世界各国の経済状況を把握するためのさまざまなデータが収集・整理されたりしたことで開発経済学が発展した。さらに1990年代になると低開発国の貧困削減問題に大きな関心が集まるようになり、開発経済学の役割が再認識されるようになった。