研究には大きく分けて基礎研究と応用研究があります。両者はどちらが優れていて、もう一方が劣っているなどの関係にはありません。私たちは応用研究としての立ち位置で、自分たちの価値を示すために活動をしています。もう少し具体的に表現すると、学術研究で実際の農業の現場での問題を整理したり、応用に直結するような情報を明らかにすることで、課題解決のための筋道を示すことが私たちの役目です。そのために現場でのニーズを把握し、それを出口とした研究を逆算的に設計するアプローチを取っています。また、栽培方法の開発ではなく、品種改良による課題の解決を大きなキーワードとして取り組んでいます。しかし、私たち自身で品種を作ることは基本的にありません。なぜなら現代の野菜品種は種苗会社により主に育種されているからです。そのため、私たちは常に複数の種苗会社と繋がりを持ちながら、自分たちができること、挑戦すべき課題を見極め、現場に役に立つために必須の情報を提供する術を探りながら活動しています。
私たちの研究には園芸学、育種学、植物病理学が関係します。どれか一つではなく、3つが重複する領域で活動していることが私たちのオリジナリティーであり、強みだと思います。一つの分野の常識は、隣の分野での常識だとは限りません。異なる複数の分野に属しながら、視野を広く持って活動することで新たなニッチに気づき、独創的な研究をする可能性を常に探っています。また、学問の世界に国境はありません、価値観を共感できる国内外の研究者とも繋がりながら、グローバルな課題の解決を目指しています。
まずは学術論文として私たちが発見した事を世界に伝える事だと考えています。そのためには、情報を伝えたいオーディエンスがいる雑誌で研究成果を論文として発表することが大切です。また、私たちの取り組んでいる科学の土台は西洋科学です。彼らの作った科学のルール、常識を正しく理解して、その中で自分たちの新しさを的確に示していく必要があります。良い論文を発表すると、必ず情報を使ってくれる人が現れます。それにより、最終的に現場に役に立つことができると思っています。また、論文には野球で例えると満塁ホームランもあれば、バント出塁まで様々なレベルがあります。大切なことは作品である論文を出し続けることだと思っています。それにより、良い流れができ、思わぬ可能性を引き寄せます。これを続けていれば、自然と現場の役に立てると考えて日々挑戦をしています。
大学での研究と教育はコインの裏表のように切っても切れない関係です。良い研究をしていれば、高い教育効果があると考えています。研究を前に進める過程には、沢山のトラブルがあり、それを解決する必要があります。また、有限の時間の範囲で研究を形にまとめていく必要があります。そもそも、答えのわからない事に取り組んで、それを明らかにしようというのが研究です。このような目的のために一所懸命に取り組むと、自分で考え、道を開いていく力が自然と身に付く事になります。その意味で、大学で良い研究をすることは、良い教育を実現する一つの方法だと考えています。
素直で、一つの事にしっかり向き合える人は研究が向いていると思います。勉強で良い点数を取れる人が必ず研究への適性も高いとは限りません。もちろん一所懸命勉強に取り組み、これまで良い結果を修めてきた人はその点に自信を持って下さい。一方、それがこれまで無かった人でも、研究は真剣に取り組むと応えてくれる活動だと思います。私自身はどちらかというと後者のタイプでした。素直で、好奇心が強く、一つの事を丁寧に取り組みたい人、そんな人はきっと研究が向いており、取り組むとハマると思います。チームOB・OGの学生さんを見ていると短期間で驚くほどの成長をします。次はこの文章を読んでくれている君かもしれません。私たちの研究の価値観に共感してくれる仲間の参加を待っています。
研究室を選ぶ時には事前に必ず研究室訪問をして下さい。イメージと実際は大きく違うことが頻繁にあります。研究テーマに興味が持てるかは当然ですが、研究室や各教員の指導方針と相性が良さそうかは非常に重要だと思います。研究テーマについても概要は当ホームページにも掲載していますが、研究は日々動いているため常に状況は変化しています。自分の目で見て、しっかりと考えてから選ぶことが大切です。いくつかの研究室を見学して「自分と相性が良さそうか」、「学生による学会発表はしているか」、「研究成果が学術論文として出ているか」、「科研費などの研究費に採択されているか」などをバランス良く分析し、大学での貴重な学びの期間を過ごすに値する研究室か考えて下さい。
・研究対象の野菜を食べることが好きか、嫌いか?:研究室を選ぶ基準としては関係ないと思います。実際に私自身は食べることが苦手な野菜についても楽しく研究しています(食べることが大好きな野菜も研究しています)。むしろ、研究の目指す目標に共感できることが一番大切だと思います。
・講義科目(野菜園芸学)の内容を研究するのか?:講義では野菜園芸学の基本的な知識を身に着けてもらうことを目標としています。研究内容と繋がりがないわけではないですが、基本的には別であると考えて下さい。でも、講義を一所懸命に取り組めた人は、研究もしっかり取り組み、結果を出して成長していく傾向にあると思います。
・野菜に関する研究なら何でもできるのか?:残念ながら、何でもできるわけではありません。教員にも得意分野がありますので、その分野の研究になるかと思います。主に品種改良に繋がるような研究を進めています。どのような研究ができるのかは、研究のページ(Click!!)を見てもらうのと、必ず研究室訪問をして確認して下さい。
・野菜の栽培はできますか?:自分の解析する野菜は自分で育ててもらいます。しかし、食べるためではなく、研究目的で栽培します(もちろん解析後に食べてもらって大丈夫です)。屋外で栽培する人もいますし、屋内で栽培する人もいます。一般的な意味で野菜栽培が上手になるノウハウを教えるわけではありません。農業をしているのではなく、農学をしています。
・遺伝子が関わる研究ができますか?:できます。現代の品種改良には遺伝子解析は必須になっています。基本的には研究しながら再度学び直してもらえば良いですが、講義で基礎知識があると、最初から研究に対する理解が深まり、楽しいと思います。遺伝子のことは3年生講義の『園芸植物と遺伝子』で色々とお話します。
・いつ研究テーマを決めますか?:例年、3回生の後期(9~11月頃)に卒論研究テーマを決めています。それまでは、野菜・果樹の両方の実験を体験してもらい、基礎的な実験技術を学びながら、どのような研究テーマに取り組みたいかイメージをしておいてもらいます。その上で、教員2名から提案する研究テーマの中から自分のテーマを決めてもらいます。
・執筆や発表の基礎力は必要ですか?:国語や英語の基礎力は非常に大切だと思います。この両者は研究をする際に一番生きてくると思います。国語は書く、話すなど全てに必要です。英語は情報収集のために必要になります(専門英語や専門演習で学びます)。執筆や発表については社会に出てからも生かせるスキルだと思うので、しっかり学びをサポートします。
・研究が始まると忙しいですか?:生物が対象なので研究テーマによりピークとなる時期は異なりますが、本気で研究に取り組んでもらいますので、忙しいと思います。忙しい中で時間を上手く使うことは社会に出ても求められます。良い仕事は、努力の質と量に比例します。一年以上の時間をかけて努力し、そこから見える景色、それまでの経過を振り返り、何かを計画して成し遂げていくことの大切さを学んで欲しいと思っています。
研究を通じて学ぶことは社会に出ても役に立つと本気で信じています。研究を計画し、実行し、文章(論文)にまとめたり、人前でプレゼンする(学会)などの能力は社会に出てからも十分に応用できます。また、常に論理的に考え、ポジティブにやるべき努力をできる人は自分で道を開き、人生を充実させていけると考えています。研究を通じて、そのような人材を育成することを目標にしています。
何かに取り組む際に大切なことは目標とアプローチを具体的に設定し、きっちりと努力することです。目標とアプローチの設定にはコツがあります、これについてはしっかりとサポートします。意識して頑張って欲しいことは以下の3点です。
・主体的に努力する(自分で考え、実行すると潜在能力が引き出されます)
・全力で挑戦する(徹底してやってみることが大切です。失敗することは問題ではありません)
・コミュニケーション力を身につける(人と協調して進めていくことで、思わぬチャンスに巡り合います)
4回生で研究に取り組み、もう少し深く取り組んでみたいと思う諸君は是非積極的に大学院に進学して下さい。例年、8~10名の学部生の中で1~4名程度が大学院に進学しています。海外の大学からの留学生もいます。大学院生には年に二回開催される園芸学会、一度開催される日本植物病理学会、数年に一度開催される国際学会なので発表することを目標にしてもらっています。具体的な目標に向かって頑張ることで、計画力・実行力・自信をつけてもらいたいと考えています。
簡単なサポートをすることはありますが、基本的に就職活動は学生自らに取り組んでもらいます。過去に以下のような就職先に着いた学生がいます。
農研機構(研究職)、国家公務員(農林水産省)、地方公務員(農業専門職)(奈良、兵庫、愛知、富山県など)、公務員(農業)(京都市)、タキイ種苗、カネコ種苗、大和農園、アグロ カネショウ、スプレッド、西本Wismettac、JA全農、江崎グリコ、ARISE analyticsなど