カゴメ弗化物のドメインを考慮した

単結晶構造解析

近年カゴメ格子反強磁性体において、量子スピン液体や磁場誘起相転移などの新奇な磁性の発現を目指した物質探索が盛んに行われている。一方で、現実のカゴメ磁性体においては、歪みや格子欠陥が存在することがしばしばあり、そのことが本質的な基底状態を決定する相互作用の理解を難しくしている。さらに、理想的なカゴメ弗化物(3回対称あり)から、歪みが生じる際に(3回対称なし)、ドメインが必然的に入るため、高精度な構造決定は難しくなる。カゴメ格子反強磁性体の物性の理解を深めるためには、歪みを抑えた完全な結晶を探索するだけでなく、結晶中の歪みの精密な評価と物性との関連を整理する必要がある。

歪みの大きさの異なる多様な物質が得られており、系統的な研究が可能なカゴメ弗化物A2BM3F12(A, B: アルカリ金属, M: 3d遷移金属)に着目し、歪みと磁性の関係を明らかにすることを目的に構造物性研究を進めた。構造解析の結果、アルカリ金属A, Bの組み合わせと空間群、つまり結晶中の歪みを左右する対称性に系統性を見出した。特に、A=Cs、B=Kの3種類の化合物(M=Ti, V, Cr)が構造相転移を示し、これらの化合物の低温の磁気ネットワークがそれぞれ異なることが明らかになった。本系では現状では対称性を低下させる歪みが入るものの、その歪みの入り方に応じて多様な磁気ネットワークが実現することが見出された。一方で、歪みの有無によらず多くの物質で磁場誘起の1/3プラトーが観測されており、カゴメ化合物、結晶歪みとの関連に興味がもたれる。

<解析方法>

菅原博士による論文"Direct Visualization of Orbital Flipping in Volborthite by Charge Density Analysis Using Detwinned Data"

第34回PFシンポジウムページ

<関連論文>

R. Shirakami, S. Kobayashi et al., “Two magnetization plateaus in the kagome fluoride Cs2LiTi3F12Phys. Rev. B 100, 174401 (2019).

M. Goto, S. Kobayashi et al., "In-plane spin canting and 1/3-magnetization-plateaulike behavior in S = 3/2 Cr3+ kagome lattice antiferromagnets Cs2KCr3F12 and Cs2NaCr3F12" Phys. Rev. B 97, 224421 (2018).

M. Goto, S. Kobayashi et al., "Ising-like anisotropy stabilized 1/3 and 2/3 magnetization plateaus in the V3+ kagome lattice antiferromagnets" Phys. Rev. B 95, 134436 (2017).