2019年11月2日号 週刊東洋経済 掲載記事 付録

週刊東洋経済2019年11月2日号に掲載された、「内定辞退率の提供、就活のジレンマを改善か」の参考文献リストです。(元の記事のオンライン版へのリンク

  • 担当いただいた編集者の方には非常に的確な原稿の添削をしていただき、非常に勉強になりました。この場を借りてお礼申し上げます。


  • この記事は、既に執筆された特定の学術論文がベースとなっているわけではありません。記事中で記したような効果は働くと予想していますが、内生的な情報収集(information acquisition)をきちんと扱ったマッチングの研究は、理論のレベルでもまだまだ十分になされていないというのが、研究の現況に対する私見です。
    • 新卒採用市場における予測技術の提供の問題とは直接に関係しませんが、私自身も内生的な情報収集の機会が存在するモデルにおける、効率的なマッチング・メカニズムに関する学術論文を執筆しています("Strategic Experimentation with Random Serial Dictatorship." 論文はこちらから読めます)。
    • (同業者向け) 情報収集の問題は技術的にマッチング・モデルとは相性が悪く、理論的な分析がやりにくいな、というのが率直な感想でした。情報収集を扱うには確率的な結果を取り入れなければならず、そのためにはcardinal utilityをモデルの中で扱わなければならないが、金銭の移転を使わないマッチング・メカニズムではcardinal utilityを上手く最大化するのが難しい、というのが、難しさの大まかな構造です。


  • 「プラットフォームを介することで志望度の申告の信頼度を増せるのは、フィールド実験でも実証されている。」


  • 「経済学者の新卒採用市場にも、既に同様のシステム [プラットフォームを介することで、より真実性の高い志望度を申告させるシステム] が導入された。」
    • 経済学界で世界最大のジョブマーケットは、毎年、年明けにアメリカで行われる学会(AEA annual meeting)の一部として開催されます。
    • AEA annual meeting での就活プロセスの模様は、数多くの経済学者が体験談として記しています。(一例: 私の船井情報科学振興財団に対する博士号取得報告書
    • この AEA annual meeting では、プラットフォームを介し、2つの学部に「あなたの学部に対して特に高い志望度を持っている」ということを伝える "job market signaling" というシステムが2006年より導入されています。
    • 参考リンク: https://www.aeaweb.org/joe/signal/
    • シグナルの効果についてはまだ実証分析は進められている最中ですが、例えば下記の論文で検証されています。
    • Coles, Peter, et al. "The job market for new economists: A market design perspective." Journal of Economic Perspectives 24.4 (2010): 187-206.