著書紹介

単著

出版社: 講談社

発売日: 2023年5月

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ゲーム理論の〈裏口入門〉 ボードゲームで学ぶ戦略的思考法

 ゲームのプレイ体験を軸に初学者にゲーム理論の「雰囲気」を掴んでもらうことを狙った入門書です。

 ゲーム理論は、複数の主体(個人・企業・国家など)がそれぞれ自分の利益を最大化しようとするときに何が起きるかを分析する、今日の社会科学の中核をなす基礎理論で、筆者が専門とするミクロ経済学では特に多用されています。  

 大学の授業でゲーム理論を教えていると、高度な数学などの前提知識が必要ないにもかかわらず、最初の理解につまずく学生が多い印象です。これはいったい何故でしょうか? ゲーム理論を理解するためにはゲームの全体を俯瞰する客観的な分析者の視点と、ゲームの参加者として自分の利益を最大化しようとするプレイヤーの視点の両方が必要です。両方の視点が必要なのに、座学や書籍を読んでの独習では客観的な分析者の視点しか得られないことが理解の妨げとなっていると感じています。授業や教科書などでは、学習者の視点はずっと分析者のままであり、プレイヤーの気持ちをイメージすることができません。教科書で説明されるモデルはいわばボードゲームの説明書ですが、説明書を読んだだけでプレイヤーが何をすべきかを想像するのがボードゲーム初心者には難しいのと同じように、教科書を読んでゲーム理論のモデルを理解するのは難しいのです。 

 ボードゲーム愛好家の多くが賛同してくれると思いますが、説明書を読んでもよくわからないゲームを理解するためには、試しにプレイしてみるのがベストです。ゲーム理論の教科書で出てくるモデルだって、プレイヤーとして1回体験してみれば初学者でも色々なことがわかります。授業でも、題材として扱う「ゲーム」を実際にプレイさせることは「経済学実験」としてしばしば行われます。独習向けの書籍として、代わりに読者がプレイしたことのありそうなゲームを題材にして、ゲーム理論の色々なコンセプトの「雰囲気」を掴んでもらうのが、本書の目標です。 

 さすがにゲーム理論の教科書で登場するありとあらゆるコンセプトをボードゲームを使って導入するわけにはいきませんが、普通の教科書では身に着けられない感覚を楽しく補う副読本としてはけっこう筋が良いのではないかと思っています。

出版社: 三菱経済研究所

発売日: 2023年3月

J-STAGE

ワクチン配布のロジスティクスとマーケットデザイン

 三菱経済研究所の兼務研究員の業務として執筆した本です。

 コロナ禍で、私は東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)・東京大学エコノミックコンサルティング株式会社(UTEcon)の合同チームの一員として、マーケットデザインの観点から日本のコロナワクチンの配布の改善に取り組んできました。

 考察した内容の一部は、自治体へ直接フィードバックされ、一部は進行中の学術論文の礎となり、一部は政策提言として公開されましたが、これらの内容を整理し、全体を俯瞰できるようにまとめたものが本書となります。

 コロナ禍でのワクチン配布は、想像以上に速いワクチン開発のためか準備期間も短く、いくつか反省点も見当たるものとなりましたが、この反省を活かして災害時の物資の効率的な配分を追究していけば、次なるパンデミックへの対策ができ、災害に強い社会を作ることができます。本書がそれに少しでも貢献できれば幸いです。

※ 2024年3月にJ-STAGEで本文が無償公開されました

寄稿

出版社: KADOKAWA

発売日: 2023年8

編集: 東京大学広報室

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素朴な疑問VS東大 「なぜ?」から始まる学術入門

 淡青」は、東京大学広報室が年2回発行している広報誌ですが、2022年秋・2023年春(vol. 45, 46)は「素朴な疑問 vs 東大」がテーマで、東京大学の教員が研究成果から得た知見をもとに、素朴な疑問に回答するというインタビュー形式の特集が組まれました。この特集が非常に好評だったため、書籍化されたものが本書(らしい)です。

 野田は、特に「GX入門」をテーマとした vol.46 でインタビューを受け、UTMDの受託研究として実施したペットボトルオークションの再設計問題について、さわりの部分を解説しています。野田のインタビュー部分のWeb版はこちらから閲覧できます。また、UTMDで執筆したレポートの全文はこちらで公開されています。

 自分が担当した部分を除くと、執筆された方はほぼ他分野で面識がない方々ばかりなので、大部分は執筆者として勧めるというより、読者として楽しんだというニュアンスが強いのですが、科学研究の成果のアウトリーチとしては非常に価値が高い特集だと思います。

出版社: 朝日新聞出版

発売日: 2023年4

編著: ホーン川嶋瑤子

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イノベーション&社会変革の新実装 未来を創造するスタンフォードのマインドセット

 スタンフォード大学の卒業生が集まり、自分のスタンフォードでの学びと、それが現在のキャリアにどう生きているかを解説した本です。留学時代に日本人会などでお世話になった、ホーン川嶋瑤子さんにお声がけいただき、寄稿しました。

 野田は「学術知を結集し現実の社会問題を解決、マーケットデザインの実用に向けて」と題し、スタンフォードで得たどのような学び・経験が、現在の活動方針(実社会で役に立つ制度設計をやる)につながったかについて書きました。最近はやや、経済学者が社会実装に取り組むことが珍しくなくなってきた感じがありますが、少なくとも私が留学していた頃はそういうことを志向する学生はかなり珍しく、この流れは2015年~2020年あたりに急激に興ってきたものだと思います。なぜ社会実装をやりたいと思ったのか? はよく聞かれる質問ですが、私の寄稿記事はその質問への詳細な回答です。

出版社: 日経BP

発売日: 20227

: 日本経済研究センター

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使える!経済学 データ駆動社会で始まった大変革

 日本経済研究センターにご依頼いただき、スマートコントラクトの本質と、その登場が社会に与えるインパクトについて講演を行った内容を、日本経済研究センターに原稿に書き起こしていただき、それを私が修正する形で寄稿した本です。本文の内容については、こちらの論文の内容を一般向けにかみ砕いたものとなります。

 スマートコントラクトとは、コンピュータ・プログラムとして書かれた「契約」のことで、近年は特に(仮想通貨を管理する)ブロックチェーン上に設置するものを指すことが多いです。「自販機の拡張」「契約の執行を自動化できて便利」と説明されることが多いですが、真の価値は執行の強制力にあります。仮想通貨を管理する台帳の上に直接プログラムを書き込むと、プログラムは直接に台帳を書き換えられるので、「契約を履行しない」という逸脱が取れなくなるのです。従来は裁判所に頼って強制していた契約・メカニズムが、スマートコントラクトを使うと裁判所が介在せずとも成立するようになります。

 ポジティブに捉えると、これはスマートコントラクトがとても便利だということです。本物の裁判には費用も時間もかかる。「契約違反者がいれば訴えればいい」は正しいものの、現実世界ではなかなかそうもいきません。しかし、被害者が訴訟を躊躇するようなら、裁判は契約違反を防ぐための脅威にはなってくれません。このため、訴訟に頼らない強制力は、まっとうな目的の契約の遂行を助け、世の中をよくする可能性があります。

 一方で、本論文の含意は、スマートコントラクトの利用可能性が社会にとってとても危険なものであることも示唆しています。従来、裁判所は契約の中身をチェックし、違法な契約に対しては執行を助けてはきませんでした。これにより、犯罪グループが強制力のある契約を結ぶのを防止してきたわけです。論文で提案している手法を用いれば、契約の中身にかかわらず、裁判所に頼らずに、契約に強制力を持たせることができます。しかも、契約の中身についてのプライバシーは保ったまま。談合等の違法な取引に使われる可能性はおおいにあり、これを防ぐための規制はこれから重要な論点になると考えています。

 自分の部分の原稿がよくできていると述べてもあまり情報量がないと思いますが、本書については、他の寄稿者がみな一流の経済学者ばかりであり、どの章を読んでも深い学びがあると感じます。強くオススメする一冊です。