2019年12月 日本経済新聞 掲載記事 付録

  • 2019年12月27日の日本経済新聞朝刊、「経済教室」コーナーに掲載された記事、「暗号資産の安定性(下): 構造面の不安、払拭できず」のWeb付録です。

  • この記事を執筆するにあたり、私の共著者である松島斉先生、橋本欣典氏、奥村恭平氏から、非常に有益なコメントをいただきました。担当いただいた日本経済新聞の経済解説部の編集者の方にも、非常に的確な添削をしていただきました。この場を借りてお礼申し上げます。

  • 記事中で紹介されている、難易度アルゴリズムの調整に関する研究 (Noda, Okumura, and Hashimoto 2019) は、"An Economic Analysis of Difficulty Adjustment Algorithms in Proof-of-Work Blockchain Systems" というワーキングペーパーとして公開されています。

    • 上記の論文中では言及していますが、変動費用が高い設備を使用しているマイナーらが、不安定な難易度調整アルゴリズムを好む理由は、マイニングのための機材はコール・オプション的な収益構造を持つためです。マイナーは利益が出るときにだけ機材を稼働させ、そうでないときは機材を止めることができます。常に稼働させたほうが良いような、変動費用が低い機材を使用しているマイナーにとっては、このオプションとしての価値はあまり意味を持ちませんが、変動費用が高い機材を使用しているマイナーにとっては、難易度が不安定で、利潤のボラティリティが高くなるような状況のほうが高い利益を得られます。

  • 記事中では字数制限のために言及しませんでしたが、開発コミュニティがイニシアチブを取ることで、分裂の危機を回避しつつ仕様更新を行っている例も観測されます。例えばイーサリアムなどはこの性格が強いようです。これも権威主義的な解決策の一種です。

  • スマートコントラクトの悪用を防ぐには、利用を可能な主体を制限したり、利用できるスマートコントラクトのフォーマットを制限したりする形でも達成可能です。集権型・コンソーシアム型の台帳に紐づく暗号資産は、このような形でスマートコントラクトの利用可能性を大幅に制限せざるを得ないでしょうし、そうするべきだと思います。(そうしない場合、台帳の管理者は反社会的な活動に加担しているとみなされる可能性があります。理屈の上から言えば、自由参加型の暗号資産でも同様の咎めを受ける可能性はあるわけですが、記事中にも既述したように、集権型・コンソーシアム型と比べて、記帳者が分散していて責任の所在が曖昧なので、こちらを法律的に処罰するのはより難しそうです。)

  • 私自身は、自由であるかどうかよりも帰結が良いかどうかのほうが気になるので、あまり自由参加型の方式に固執するメリットを感じていません。記帳活動が自由参加可能であっても、例えばビットコインでは現状、大手マイナーや取引所などの大きなプレイヤーがかなり幅を利かせている印象があり、コンソーシアム型等と比較して民主主義的かどうかは微妙だとも感じます。

  • しかし、暗号資産の開発に携わっているエンジニアの多くは、自由至上主義的な思想がモチベーションとなっている様子があり、「効率性のために民主主義をあきらめてもかまわない」とはまったく思っていないようです。