論文解説

Effect of Cu intercalation and pressure on excitonic interaction in 1T-TiSe2

Phys. Rev. B 99, 104109 (2019).

半金属的なバンド構造を有する層状化合物1T-TiSe2は、約200 Kで超格子構造(2a × 2a × 2c)の形成を伴う相転移を引き起こす[1]。この転移は電子-格子相互作用のみで記述される単純な電荷密度波(CDW)転移では理解できず、最近では電子-正孔(励起子)相互作用の重要性が盛んに議論されている[2]。一方で、1T-TiSe2の層間にCuをインターカレーションしたり[3]、1T-TiSe2に物理的な圧力を印加することで[4]、この相転移が抑制され、どちらの場合も超伝導が出現する。この系における励起子対凝縮と超伝導状態の関係は興味深く、現在も様々な実験や理論計算が行われているが、その統一的な理解には至っていない。

1T-TiSe2におけるエキゾッチクな電子状態を理解する上で、その結晶構造の情報は不可欠である。特に、超伝導状態周辺の結晶構造の情報は渇望されているが、その実験的・解析的な難しさから、これまで報告はなかった。本研究では常圧下におけるCuxTiSe2 (x = 0 ~ 0.13)の物性及び、結晶構造を丁寧に調べることで、完全なx-T相図の解明に成功した[図(a)]。さらに、複数の単結晶試料をダイヤモンドアンビルセル内にセッティングした圧力下X線構造解析手法を確立し[図(b)]、1T-TiSe2の高圧下における結晶構造を解明した。本研究の結果より、CuxTiSe2の超伝導状態では励起子相互作用が存在しないのに対し、1T-TiSe2の圧力下における超伝導状態では励起子相互作用が重要な役割を担っていることが示唆される。

図 (a) CuxTiSe2x-T相図。励起子相(β phase)の臨界点xcと超伝導(SC)ドームの頂点に位置している。(b) 圧力下における2つの1T-TiSe2単結晶試料によって得られたX線回折データ。

(参考文献)

[1] F. J. Di Salvo et al., Phys. Rev. B 14, 4321 (1976).

[2] A. Kogar et al., Science 358, 1314 (2017). など

[3] E. Morosan et al., Nat. Phys. 2, 544 (2006).

[4] A. F. Kumartseva et al., Phys. Rev. Lett. 103, 236401 (2009).