論文投稿の記録と感想

Yi Zhang, Yoshihiro Takaki, Yukari Yoshida-Takashima, Satoshi Hiraoka, Kanako Kurosawa, Takuro Nunoura, Ken Takai.

A sequential one-pot approach for rapid and convenient characterization of putative restriction-modification systems.

mSystems

微生物が持つ任意の制限酵素やDNAメチル化酵素の遺伝子配列をもとに、無細胞系によるタンパク質発現と蛍光ベースでの酵素活性検出を一気に簡便に他試料並行にできる技術を作った、という技術開発の研究になります。既存の電気泳動ベースの手法のように酵素の配列特異性をゼロイチを示すのではなく、その得意性の程度をin vitroで任意のコンディションで定量的に示すことができる手法ということで、エピゲノム分野の側面としてはかなり革新的かなと個人的に思っています

自分は実験や解析自体には直接関与していないのですが、特に制限酵素やDNAメチル化関係のアドバイスや論文編集、査読対応などで貢献しました。筆頭著者はJAMSTECの張翼さん(X-star)です。自分では考えもつかない手法を考案し、実際に実験して非常なきれいなデータを出してこられ、初めて結果を見た時は大変びっくりしました 。

Satoshi Hiraoka, Tomomi Sumida, Miho Hirai, Atsushi Toyoda, Shinsuke Kawagucci, Taichi Yokokawa, Takuro Nunoura. 

Diverse DNA modification in marine prokaryotic and viral communities. 

Nucleic Acids Research. gkab1292. (2021)

投稿歴:Science Advances (Editor kick) -> Nature Microbiology (Editor kick、コメントあり) -> Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (Editor kick) -> Nucleic Acids Research (Review 2回でAccept、Reviewer3)

3年前に出したNature Communicationsで提案したメタエピゲノム解析を使った、第2段の論文です。最初のサンプリング計画からデータ解析、実験、最後の論文化まで一貫して自分の責任で進められたはじめての研究で、同時に単独コレスポになったはじめての論文になりました。JAMSTECにいるということもあり、海洋細菌を対象とした微生物のエピゲノムを調べました。先の研究と比べて、①シーケンスデータを10倍以上増やし、シーケンサーもPacBio以外にNanoporeやIlluminaを使ってみた、②原核生物だけではなくウイルスも解析してみた、③酵素精製やポイントミューテーションを入れた酵素の実験もしてみた、④進化解析をしてみた、などの点で新しいことに色々チャレンジしてみた論文です。また水処理システムや航海スケジュールなどのタイミングが上手く繋がり、1サンプル90-300Lの超大量採水という、海洋の研究としては異次元のスケールでのサンプリングができシーケンスに必要なサンプルが確保できたことは非常に幸運でした。

内容としては明らかに既存研究よりも革新的ですし、仕事のポジション的にも急いで業績を出さなくても良かったということもあったので、論文投稿では通ればいいなくらいの気持ちで色々なトップのジャーナルから出してみたのですが、やはり微生物エピゲノムは分野的にマイナーですし具体的なインパクトのある結論を提示できていないということもあり、なかなか査読まで進まず悶々とした結果になりました。とはいえ、Nucleic Acids Researchはいつかは出してみたいと思っていた雑誌ですし、IFもこの年は16と非常に高くなった時でしたので、個人的には大変満足しています。

研究途中ではコロナやら弊所のセキュリティインシデントやら(後者の方が圧倒的にダメージが大きかった)もあり、また論文に対する良く分からないコメントへの対応やらプレスリリースする際の手続きの大変さやら備品購入の際に一々必要になる複雑で煩雑な事務手続きやら、研究以外での苦労も大変色々あったような気もしています。

論文投稿費は£2400 (日本円で36万円くらい)でした、円安が進んだ時期でした。

Satoshi Hiraoka, Miho Hirai, Yohei Matsui, Akiko Makabe, Hiroaki Minegishi, Miwako Tsuda, Juliarni, Eugenio Rastelli, Roberto Danovaro, Cinzia Corinaldesi, Tomo Kitahashi, Eiji Tasumi, Manabu Nishizawa, Ken Takai, Hidetaka Nomaki, Takuro Nunoura. 

Microbial community and geochemical analyses of trans-trench sediments for understanding the roles of hadal environments. 

The ISME Journal. 14:740–756. (2020) 

投稿歴:ISME (Review 2回でAccept、Reviewer2名)

JAMSTECで論文にされずに積まれてホコリを被っていた16S rRNAアンプリコン配列やセルカウントや化学成分のデータをごっそり集めてきて纏めた論文です。自分もJAMSTECに異動して初めて知ったのですが、一つの航海は多くの研究者が関わり1年前から準備をして航行やサンプリングプランを練るものであり、日時や航行ルートや機器の運用は個々の研究者の都合だけで自由に設定できるような簡単なものではありません。そのため、この規模の堆積物サンプリングを大規模にシステマティックに実施することは非常に困難なため、代わりに「何かの航海のついでに適宜サンプルを取ってくる」という場当たり的なサンプリングデザインになってしまいがちです。このような良くデザインされていないサンプリングは、統計学的解析や地理的分布の解析を行う上で大きな障害になりがちで、実際にこの研究でもあまり統計学的な解析が出来ずに若干心残りです。とはいえ、ここまで堆積物コアを集めて菌叢解析した論文はこの分野では初めての成果ということもあり、深海微生物分野の一つの大きな仕事に関われたのかなと思っています。

論文投稿費は$3,630  (日本円で40万円くらい)でした

Mio Takeuchi, Haruka Ozaki, Satoshi Hiraoka, Yoichi Kamagata, Susumu Sakata, Wataru Iwasaki. 

Possible cross-feeding pathway of facultative methylotroph Methyloceanibacter caenitepidi Gela4 on methanotroph Methylocaldum marinum S8. 

PLOS ONE. 14, 3, e0213535. (2019) 

産総研の竹内さんのテーマです。自分は単離株のPacBioシーケンスデータのゲノムアセンブリを担当しました。初めにデータを扱った際は、まだ性能の良いロングリード用のゲノムアセンブラも存在せず、あまり綺麗にアセンブリができなかったのですが、数年間寝かせていた間にツール業界もかなり進歩し、アセンブリをやり直したらコンプリートゲノムにすることができました。

Satoshi Hiraoka, Yusuke Okazaki, Mizue Anda, Atsushi Toyoda, Shin-ichi Nakano, Wataru Iwasaki. 

Metaepigenomic analysis reveals the unexplored diversity of DNA methylations in an environmental prokaryotic community. 

Nature Communications. 10, 159. (2019) 

投稿歴:Nature Communications (Review 2回でAccept、Reviewer2名)

元々PacBioのロングリードで遺伝子配列の構造的順序関係を大規模に解析できればおもしろいのでは?という学振DCの申請内容の延長からスタートした研究でしたが、データ解析をする中で遺伝子よりもDNA化学修飾を見られることの方が面白いと気づき、巡り巡ってこのような論文になりました。ロングリードのメタゲノム解析というのも目新しく、PacBioを使ったDNA化学修飾の研究も論文がポツポツ出てきている、というくらいのタイミングで、この両方を組み合わせれば面白い解析が色々できそうだということを示しました。もともと琵琶湖の微生物研究をされていた共著の岡崎さんにサンプルの採取と提供をしてもらい、シーケンスを遺伝研にお願いし、それ以降を自分が担当しています。詰めの実験が終わらずに在学中に論文は間に合わず、学位取得後にJAMSTECに異動してからの投稿出版となりました。

論文投稿費は$5,616  (日本円で60万円くらい)でした

Tazro Ohta, Takeshi Kawashima, Natsuko O. Shinozaki, Akito Dobashi, Satoshi Hiraoka, Tatsuhiko Hoshino, Keiichi Kanno, Takafumi Kataoka, Shuichi Kawashima, Motomu Matsui, Wataru Nemoto, Suguru Nishijima, Natsuki Suganuma, Haruo Suzuki, Y-h. Taguchi, Yoichi Takenaka, Yosuke Tanigawa, Momoka Tsuneyoshi, Kazutoshi Yoshitake, Yukuto Sato, Riu Yamashita, Kazuharu Arakawa, Wataru Iwasaki. 

Collaborative environmental DNA sampling from petal surfaces of flowering cherry Cerasus × yedoensis 'Somei-yoshino' across the Japanese archipelago. 

Journal of Plant Research. 1-9. (2018) 

いわゆる「お花見メタゲノム」( http://www.ngs-sakura.jp/ )のプロジェクトの論文で、日本各地のボランティアの人達がサンプリングしてきた桜の花びら表面の細菌叢サンプルを解析する、というテーマです。自分は論文の中身としては具体的な貢献は無いのですが、公開データ解析企画の際に自前の解析結果を送付した縁があり、他に結果を提出した人たちと共に共著に入りました。最初の3人と最後の方以外は全員同じ貢献度と言うことで、機械的に名字のアルファベット順になったのですが、たまたま自分の名字が早めの順番ということでリストの5番目に納まりちょっと得した気分です。

Satoshi Hiraoka, Masaya Miyahara, Kazushi Fujii, Asako Machiyama, Wataru Iwasaki. 

Seasonal analysis of microbial communities in precipitation in the Greater Tokyo Area, Japan. 

Frontiers in Microbiology. 8, 1506. (2017) 

投稿歴:mBio(Editor kick) -> Frontiers in Microbiology (Review 2回でAccept、Reviewer2+1)

もともとは同期・後輩をテーマでサンプリングや実験などが進められていましたが、卒業して就職したことから自分が研究を引き、情報解析の纏めと論文化を担当しました。雨の中の微生物を調べる=大気中を浮遊している微生物の様態にアプローチする、という大変素朴なアイデアなのですが、案外研究例も多くなく少しキャッチーなテーマの研究です。最初にmBioに投稿したところ、「サンプリングサイトが少ないのであまり大した解析ではない」といったようなコメントと共にEditor Kickとなってしまいました。サンプリングサイトの数が少ないのは全くもってそのとおりなのですが、他の先行研究でも同じようにサンプリングポイントは限られている&他の研究とは異なり長期間のサンプリングをしているので季節性変動や定性的な傾向が見れている、というところが今回の研究の売りポイントになります。Frontiers in Microbiologyに出し直したところ、ポジティブなコメントではあったのですが、レビュアーの一人が途中で音信不通になってしまった(おそらく9月=欧米の年度をまたいでしまったため、異動があってメールアドレスが変わってしまったのでは無いかと思っている)ため、急遽3人目のレビュアーが追加され、結果として査読に時間がかかってしまいました。誰の目から見ても大事そうなテーマを過酷な研究競争の中でゴリゴリ進めることも大事ですが、こういう身近なサンプルを素朴なアイデアで研究して自然を少しづつ明らかにしていく仕事も、案外大事なことなのかなという風に思っています。

論文投稿費は$2490  (日本円で30万円くらい)でした

Satoshi Hiraoka, Ching-chia Yang, Wataru Iwasaki. 

Metagenomics and bioinformatics in microbial ecology: Current status and beyond. 

Microbes and Environments, 31, 3, 204-212. (2016) 

投稿歴:Microbes and Environments (Review 3回でAccept、Reviewer4)

Invitedのミニレビュー論文。「メタゲノムのバイオインフォマティクス解析について」とかなり漠然としたお題だったこともあり、また一般的なメタゲノム解析の概要や細かな手法・ソフトウェアなどについては既にいろいろなレビュー論文が出ていたこともあり、他のレビューでは普通書かないような当時自分が興味を持っていた展望(メタゲノム配列中からの遺伝子水平伝播や逆位欠失などのゲノム構造変化の検出や、PacBioやNanoporeによるロングリードを使ったメタゲノム解析など)に関してかなり好き勝手にかいています。最初に図を作らずに文章だけの論文を投稿したら、大方のReviewerから何か図を作れ、と言われてしまいました。Review論文ということもあり、査読コメントではみんなバラバラの方向のことを言ってくるので、Editorのハンドリングが大変そうな印象でした。出版された後に固有名詞のスペルミスを見つけてしまい大変残念なお気持ちになりました。

Satoshi Hiraoka, Asako Machiyama, Minoru Ijichi, Kentaro Inoue, Kenshiro Oshima, Masahira Hattori, Susumu Yoshizawa, Kazuhiro Kogure, Wataru Iwasaki. 

Genomic and metagenomic analysis of microbes in a soil environment affected by the 2011 Great East Japan Earthquake Tsunami. 

BMC Genomics. 17, 53. (2016)

投稿歴:Plos One (Review1回目でReject、Reviewer2名) -> BMG Genomics (Review 1回でAccept、Reviewer2名)

人生最初の論文。既にシーケンスデータが出た後から携わることになった研究テーマだったため、サンプリングデザインに関わることができず、ストーリー作りが苦しかった研究です。反面、土壌化学分析やPacBioゲノム解析、培養実験など、元々の16S rRNA遺伝子や単離株ゲノムのデータを超えてわりと自由な方向に発展できた研究でもあり、わりと展開できた研究になったかなと思っています。Plos Oneに投稿したところ、レビュアー二人から「メタゲノム解析と単離株のゲノム解析を分けて別の論文とせよ」と言われてしまい、それは色々と苦しいぞ…ということで、基本そのままでBMG Genomicsに出し直し。こちらではポジティブなコメントを貰え、すんなりAccept。

論文投稿費は$2,397.60  (日本円で273,060円)でした。最初に来たInvoice通りに支払いした後に、事務手続きのミスということで200ドルほどの追加請求が来てしまい、いろいろ手続きが大変でした。