Commentary

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メタエピゲノム解析・微生物エピゲノム解析

メチル基修飾(DNAメチル化)に代表されるDNA化学修飾は、遺伝子発現の調節など重要な役割を持つと考えられており、細菌や古細菌において研究が進められています。しかしながら、DNA修飾(エピゲノム)に関する研究の多くは極少数の培養株に基づくものが大半であり、環境中の細菌やウイルスが持つエピゲノムは検証されていませんでした。私達は以前の研究で、環境細菌叢が持つDNA化学修飾を解析する手法として、「メタエピゲノム」という解析手法を提唱してきました(Hiraoka et al, Nature Communications, 2019)。本研究ではこの手法を用いて、太平洋から採取した海洋水を対象に、以前の研究よりも遥かに多くのゲノムシーケンシングデータを取得し、海洋細菌や古細菌、ウイルスが持つDNA化学修飾の多様性を大規模に明らかにしました。さらに、詳細なゲノム解析や酵素実験からエピゲノムが微生物の生態や進化に大きな影響を与えている可能性を示しました。

  ゲノム中塩基のメチル基修飾(DNAメチル化)はエピジェネティクスの代表的な1例であり、ヒトを始めとする真核生物では遺伝子疾患やがんの分野で研究が進められています。一方で、細菌や古細菌においてもこの現象は知られていましたが、実験的な難しさのため環境細菌叢のDNAメチル化の普遍性や多様性は今まで検証されきませんでした。本研究ではPacBioシーケンサーとメタゲノム解析を組み合わせ、未培養系統細菌のDNAメチル化を観測する新規手法を構築しました。その結果、過去の培養ベースの研究からは想像もつかないほど多様なDNAメチル化モチーフの存在が判明し、複数の新規メチル化酵素の同定しました。

環境微生物叢解析・メタゲノム解析

  地球上の海には、大陸プレートの潜り込みによって作られる「海溝」と呼ばれる巨大な溝がいくつも分布しています。このような海溝の内部は超深海(深度6,000-11,000m)と呼ばれており、海溝周辺(4,000-6,000m)とは大きく異なる生態系が構築されています。ところが、サンプリングの難しさもあり、海溝域の微生物の分布や、特殊な生態系が構築される理由については、あまりよく分かっていません。本研究では、2011-2015年にかけてJAMSTECにより採取された、日本海溝や伊豆・小笠原海溝、マリアナ海溝海域の堆積物サンプルを対象に、16S rRNA配列に基づく細菌群集構造の比較解析を大規模に行いました。 

  空から降ってくる雨の中には様々な種類の細菌が潜んでおり、降雨は大気を通じた細菌の移動と拡散に一役買っていると考えられてきましたが、実験的な制約もあり、あまり研究が進んでいませんでした。本研究では、1年に渡る雨の回収と微生物のDNA解析を通じて、雨の中にはどのような種類の細菌がいるのか、そしてそのような雨の中の細菌は一体どこから飛んできているのかを解析しました。 

  2011年3月11日に東北地方を中心とする太平洋域で発生した津波は、沿岸域の土壌環境を大きく変えました。本研究では、東北で津波を被った土壌に住んでいる微生物のゲノム解析を通じて、微生物がどのように津波によって変化したのか、に関して調査しました。