医療の実践に欠くことのできない「医師と患者の円滑なコミュニケーション能力」の涵養のために、医学・歯学教育において模擬患者が導入されたのは決して古いことではなく、1975年に来日したH. S. Barrows氏の講演、ならびに同氏による翌年の実際の模擬患者を同伴した模擬患者教育に関するセミナーに始まったと聞いています。しかし当時は、市民の側の医学・歯学教育への参加に対する意識が現在ほど成熟していなかったことから、模擬患者の組織的養成は難しく、模擬患者参加型の医療教育は広がらなかったようです。その後、1992年の第24回医学教育学会におけるP. L. Stillman氏による特別講演に基づき、川崎医科大学総合診療部において模擬患者参加のOSCE(共用試験)が開始され、1996年からは基本的臨床技能教育ワークショップが毎年開催されるようになり、模擬患者参加型の教育が急速に拡大し始めました。そして2002年からは、「臨床実習開始前の共用試験」準備のためのトライアル(4回施行)が、全国で行われ、ついに2006年12月には正式実施となり、共用試験において模擬患者は無くてはならない重要な存在となりました。
模擬患者は、共用試験において、「患者としてのリアリティー」と「試験として評価基準を均一にするための標準化」の両立が求められることになります。「個性的・個別的である患者の状況を標準化する」という極めて難しい課題に、仙台SP研究会の皆様は常に正面から取り組まれているのです。その不断の努力のお陰をもって初めて、共用試験歯学系OSCEにおいて、学生の公正で価値ある評価が可能になっているという事実を私共は忘れません。そこから感じることは、仙台SP研究会の皆様の医療教育に対する高い見識と矜持、そして深い献身であります。
今後、AI等の導入により医療が大きく変革しようとする中、「患者は生身の人である」という厳然たる事実は変わらず、医師と患者の対話はこれまでと同様に、いやこれまで以上に重要になってくるものと思います。仙台SP研究会の皆様の東北大学の医療教育への多大なるご貢献に心から感謝申し上げますとともに、今後の変わらぬ医療教育へのご理解とご支援をお願い致します。仙台SP研究会の皆様の益々のご発展をお祈りいたします。
2020年11月
東北大学歯学部共用試験OSCEで、SP係主任を担当している東北大学大学院歯学研究科 病態マネジメント歯学講座の佐藤しづ子です。
歯科におきましても、歯科医師が患者様と直接お話しをして患者様のお困りごとや歯科治療に対するご要望を聴取する「医療面接」は、歯科医師に欠かせない基本技能です。歯科では、患者様の罹患されている全身疾患によって、歯科治療内容に特別の配慮が必要になる場合が数多くあります。例えば、心臓病や脳疾患の治療で抗凝固剤を服用されておられる患者様へは、抜歯や観血的歯科処置などにおいて特別な配慮が必要となります。
近年、急速な超高齢化社会への移行によって全身疾患を有する高齢患者様が増加しています。そのため歯学教育で取得する「医療面接」は、益々重要な臨床技能となっています。東北大学歯学部では4年生、5年生で医療面接のトレーニングが行われ、臨床実習(患者様に接して歯科医療を学びます)は5年生の晩秋からスタートします。歯学部においても臨床実習を行う前に、公益社団法人 医療系大学間共用試験実施評価機構が開催する共用試験OSCEを受験し十分な技量の習得を証明しなければなりません。このOSCE試験では、模擬患者が複数学生の質問に対して同一のブレのない回答をして頂くことが必要となります。
仙台SP研究会の皆様は、この重要な課題に大変熱心に取り組んで下さっておられ、毎年の東北大学共用試験歯学系OSCEでは、評価機構の先生方から高い評価と称賛をいただいております。さらに、SP研究会の学生へのご対応は慈愛に満ちておられ、皆様のお声のトーンが試験中の学生の緊張をも和らげて下さり感謝の念に尽きません。仙台SP研究会の皆様に心から深く御礼申し上げますとともに、今後も歯学部学生のために変わらぬご協力をお願い申し上げます。仙台SP研究会の益々のご発展をお祈りいたします。
2020年11月