Library Systems Report 2019

全体の感想

野間口:

今回Marshall BreedingのLibrary Systems Report 2019を読書会として学術基盤整備研究グループ有志数名で読み進めました。一人で読むより複数人で読むことによりたくさんの発見がありました。印象に残った部分を書きますと、図書館システム産業はイノベーションよりユーティリティに対する親和性が高いこと、図書館システムにおける学術図書館と公共図書館・学校図書館のイノベーションは別のコースであること、学校図書館システムはFolletという企業が大企業であること、学術図書館はEx LibrisとOCLCが特定のテクノロジーを活用し、従来の印刷中心のILS製品から電子リソースへの根本的なシフトに対応した複雑なマルチフォーマットコレクションを管理するために設計されたLSPへの10年にわたる移行サイクルを促進したこと、それに対してオープンソースに非常に詳しい機関がFOLIO LSPを導入予定であること、今後も戦略的買収は続くこと、投資会社は投資を4年から7年の期間で開始だけでなく、エグジットにも取り組んでいること、国際的にはAxiellやbaratzなど興味深い企業がいくつかあることなどが印象に残りました。

田辺:

  • 図書館システムのクラウド化・SaaS化は、すでに図書館の規模と関係なくなっていることを改めて実感した。

  • 図書館システムは市場が限られている以上、図書館システム専業では経営が難しくなることは容易に想像できるし、実際に企業買収などの合従連衡が起きているが、その中でも教材のダウンロード販売の連携が印象に残った(Follet)。国内で図書館システムベンダーの枠を超えた連携が起こるとしたら、どのような事例になるのだろうか。

  • レポートの事例が北米圏に偏るのはやむを得ないが、日本の事情(カーリル、早慶など)もアピールすると、Marshallさんだけでなくこのレポートの読者にもそれが知られることになって、図書館業界での日本の存在感が上がるかもしれない。

  • アジア圏での同様のレポートを誰か書いていないだろうか(特に中国)。

  • システム移行は一般的に面倒なものなので、システム業者を乗り換えるにはかなりの動機が必要だが、それでいてなおAlmaなどの大手サービスやオープンソース・ソフトウェアへの移行をしたくなるような動機はどのようなところにあるのか。特定の機能やサービス(電子リソース対応など)なのか、システムの維持・運用の費用なのか?

  • NACSIS-CATのどの部分がどの程度、国内ベンダーにとっての防護壁(海外ベンダーにとっての参入障壁)になっているのだろうか?

楫:

約5ヶ月かけて20ページほどの英文レポート「Library System Report 2019」をみんなで読んだ。とはいえ、私は英文が読めないので、機械翻訳にかけただけだ。それでも大意を読み取ることはでき、主に田辺さんが訳される本文を聞きつつ、紹介されるサービスをWebサイトで探しながら、毎回興味深く読み進めることができた。

近年の傾向としては、従来の印刷物をあつかう総合図書館システムILS(Integrated Library System)から、様々なコレクションを包括して管理、利用するためのLSP(Library Services Platform)への移行が進んでいるようである。公共図書館や学校図書館ではいまだILSが主力のようだが、学術図書館ではILSとLSPが拮抗してきた。特に勢いがあるのが、ExLibrisのAlmaやOCLCのWorldShareだ。2018年にAlmaは100件以上、WorldShareは53件の新規契約があった。

Kohaなどオープンソースソフトウェアに基づいた図書館システムや、コンテンツのパッケージ販売にも力を入れているProQuestのサービス、ディスカバリーサービスをモジュール化して販売を始めたEBSCOなど、興味深い報告も多かった。

印象に残っているのは、学術的な文献をカバーするディスカバリーサービスがいろいろと提供されていて、図書館の契約も増えているが、実際には研究者はGoogle Scholarや各分野の専門データベースを頼りにしているとの記述だ。数十年前は学術的な文献は印刷物であれデータベースであれ図書館を通じて提供していると思っていたが、現在は図書館を経ない情報の重要度が増しているのだと改めて実感した。

加川:

内容については他の方が記録されるであろうから、加川からはオンライン読書会という企画そのものについて、感想を残す。

今回初めて同じ記事をグループで読み解くという企画に参加した。英文からの翻訳は今や一瞬である程度の品質で行えるが、専門用語やアメリカの教育制度等の予備知識がある程度ないと理解しにくい部分もある記事であったので、1人では誤解したり、的確に読み込むことができなかったりしたが、他のメンバーの知識や解説により、より正確な情報を入手することができた。

日本の我々の業界では、どうしても欧米の後追いとなってしまう事が多い。図書館システムの共同調達や、欧米で開発されたプログラムを元にシステムが構築されることもあるゆえ、今回のような活動は地味ではあるが、今行うべきものだと感じる。

アメリカでは、大きな動きの中で、小さい機関や地域向けのニッチな活動も生きているようだ。日本でもそれぞれの機関の規模や目的に応じたサービスの共同運用を考えるべき時代かと考える。そのためにはより多くの海外の情報を読むこむ必要がある。現在コロナ禍で対面での活動が難しいが、このような活動も選択肢の一つとして、他のグループでも行われることを期待する。