学術情報流通における「書誌多様性」の形成に向けて

著者: キャスリーン シアラー、レスリー チャン、イリーナ クチマ、ピエール ムニエ

訳者: 河合 将志、南山 泰之、林 正治、藤原 一毅、尾城 孝一

https://doi.org/10.20736/00001276

全体の感想

野間口:

 学術情報流通における「書誌多様性」の形成に向けて ?行動の呼びかけ?を読書会の題材として皆で読みました。読む前は書誌という言葉から想定される目録の話もあると思っていましたが、まったくそうではなく、学術情報流通や出版、研究評価など別の論点からの多岐に渡る話でした。ベンダーロックインを防ぐための各種宣言など国際的な動向は興味深かったです。「ジュシュー宣言」、「学術評価に関する宣言(DORA)」などはゆっくり確認しておきたいと思います。


 「計量書誌学的な指標」だけでなく、「地域や分野の多様性を尊重した専門家の判断と質的な評価方法を含む様々なアプローチが求められている」という部分について肯定はできますが、多くの研究者が支持しているのもまた事実で、地域ごと、分野ごとに着実に進めていかなければならないと感じました。

 

 こちらの読書会後、最近出版された東アジアの人文・社会科学における研究評価 : 制度とその変化 佐藤幸人編 -- アジア経済研究所, 2020.3 -- (アジ研選書 / アジア経済研究所 [編] ; no. 55). <BB29950192> なども読むべきかな…と思いました。



田辺:

「書誌多様性」という訳のせいで「目録の話か」と勘違いされていないだろうか、という感想をどうしても持ってしまいます。オープンサイエンスに関心のある方は、この文書で紹介されている「ジョシュー宣言」や「研究評価に関する宣言」、「学術情報流通における多言語主義に関するヘルシンキイニシアティブ」を、オープンサイエンスの背景にある文書としてぜひチェックしておいてほしいと思います。


 また、現在の研究評価の問題点についても触れられていますが、インパクトファクターが研究の評価において誤用されるのは、インパクトファクターがそれだけ評価する側・評価される側にとって使いやすい、都合のよい、魅力的なものだからなんだろうな、と思います。この文書のいう「書誌多様性」、つまり多様な学術情報の流通を実現させるには、まずこのインパクトファクターの魅力がどこからもたらされるかを関係者が認識する必要があるのではないかと思います。



楫:

オープンアクセスリポジトリ連合(COAR)のシアラー氏ほか共著の「学術情報流通における「書誌多様性」の形成に向けて:行動の呼びかけ」を数回に分けて読んだ。ひとりが朗読し、章ごとに意見交換をおこなった。読み上げているあいだは案外内容が頭に入ってこないと思った。


タイトルの書誌多様性は、多種多様な作品が提供されている状態を示し、サービスやプラットフォーム、資金調達方法、評価指標の多様性についても言及されている。現在の学術情報流通における英語の優位性は、他の言語圏における研究を軽視することにつながると警告している。また、商業出版社の統合により上位5社(Elsevier, Wiley, Springer, Tayler, ACS or SAGE)が市場の約半分を占めているそうだ。最後結論として、ここままサービスや評価が統一されていくと、多様性を再びシステムに組み入れることは困難になるとして、今こそ行動を呼びかけている。


本学で学生に提供するのは主に日本語のローカルな研究だ。多様性を支持したい。同時に、管理の煩雑さからプラットフォームがひとつになればいいのにと考えてしまう身としては、多様性というのは意識しないとすぐ失われてしまうものだと実感している。ローカルを大切にしながらグローバルにも対応できる、複数のツールやシステムにつながる仕組みがもっと進んで欲しいと思う。