地球惑星科学において、二次イオン質量分析法(SIMS)を用いた微小領域の年代分析は、太陽系史・地球史・生命史を解読する強力なアプローチである。SIMSは一次イオンによりスパッターされた二次イオンを質量分離する原理であるが、スパッターされた原子がイオン化する効率はわずか1%以下である。そこで、寺田健太郎教授(大阪大学理学研究科)らと、 集束イオンビームによって、試料表面の原子・分子を叩き出し、そこに高強度フェムト秒レーザーを照射することで『ポストイオン化』する手法を開発した。SIMS の検出感度を飛躍的に向上させ、天然鉱物試料の1um 以下の領域から、100ppm 濃度のウランを検出することに成功した。
(大阪大学理学研究科との共同研究)レーザー剥離現象は原理解明が進んでいない興味深い物理化学現象であり、レーザー加工・接合と同様に産業応用が期待されている。神村共住教授(大阪工業大学工学部)らと共同で、 高強度レーザーによってシリコン基板からフォトレジスト膜が剥離する過程を時間分解分光計測、高速イメージングで観察し、そのメカニズムを明らかにした。
(大阪工業大学工学部との共同研究)アルツハイマー病等の疾病原因はアミロイド繊維と呼ばれるタンパク質の異常凝集が原因と考えられているが、その初期過程である核発生メカニズムについて明らかになっていない。強光子場によってタンパク溶液中にキャビテーションバブルを発生させ、バブルの収縮・崩壊に伴う超高圧環境を生成し、アミロイド繊維の核発生促進に関する研究を進めている。
(大阪大学蛋白質研究所との共同研究)タンパク質は幅広い時間スケールの構造変化を有しているが、その中でもマイクロ~ミリ秒オーダーの構造変化が、タンパク質機能と直結した重要な変化であることが知られている。蛍光をプローブとした構造変化追跡は高感度な手法として広く利用されてるが、マイクロ秒の時間分解能を実現するには、マイクロ秒の間に放出される蛍光光子数が極めて少ないため、何回も何回も繰り返し測定してデータを積算する必要がある。私たちは、蛍光光子が検出器に到達した時刻を時系列順にすべて記録する手法を用いることで、繰り返し測定が難しい試料に対して、構造変化に伴うわずかな蛍光強度変化を捉えることができるシステムを開発した。100usあたり蛍光光子数65個に対して、たった1個が変化しても意味ある現象として検出できることを実証した。