研究職志望者のためのロードマップ

(高松ゼミ編)

はじめに

  • このページは大学や研究機関の研究職(大学教員など)を目指す人向けです。

  • 大学院をめざす立命館大学総合心理学部の学生、研究職を目指す立命館大学大学院人間科学研究科の学生を想定しています。

  • フルタイム学生を想定しています。

  • 高松ゼミに来る学生を想定しています。

  • 2022/3/1更新


注意

  • これが唯一のロードマップではありません。

  • 学部生の場合はこのロードマップをうのみにせず、指導教員にも大学院での過ごし方などを聞いてください。

  • また、大学院生の場合でとくに優秀な学生の場合は自分への期待が大きく、(他人から見れば)小さなつまづきで自分は研究者に向いていないと思いつめることがありますが、このロードマップの通りにいかなくても就職できますし、そもそも優れた研究者はたくさんいます。自分の指導教員や先輩の話をよく聞いて極端な考え方をしないように。

  • 自分は優秀じゃないからがんばらないとと思っている学生も同様です。



研究を「続けるために」大切なこと

  • お金の切れ目が研究の切れ目になるので、資金獲得には力を注ぐ。

  • 資金獲得のためにも、大学院在学中からそれぞれの段階で求められる研究業績を出す。

  • できるだけ早く就職するほうが色々と気楽なので、早期の就職を目指す。

  • 人生いろいろ、うまく行かなくても気にしない。



業界用語

  • ここでいう資金獲得とは、奨学金免除、生活費に充ててよい研究費(主に学振)、研究のみに使われる研究費(各団体)も含みます。生活、研究にプラスになりますし、それ自体が職歴や業績として評価されます。

  • 研究業績には色々な種類と評価の違いがあります。学問領域によって何をどう評価するかに多少の違いはありますが、大学院生の時期であれば、どの領域でもコンスタントに学会報告(国外/国内)を行うこと、査読付き学術論文(国外/国内)を数本書くこと、それらを博士論文としてまとめて博士号を取得することが最低限の目標になってきます。


学部の過ごし方(by高松)

  • 卒論を一生懸命進めるとよいと思います。

  • 大学院の院試の勉強をすると思いますので、その機会をうまくつかって、対象学問を体系的に理解しなおしましょう。

  • 好きなことをたくさん勉強してください。

  • また、勉強会・読書会などを開催して、あるいはゼミで精読をする機会があればとてもよいです。古典(日本語や翻訳)、数式、外国語の文献など、なんでもよいので、1文1文を精読するような読書経験(1日1ページも進まない)をしておくとよいと思います。


修士課程の過ごし方(標準2年)

  • 修士課程では、修士論文の執筆がいちばんの目標となります。

  • その過程で、学会発表(領域によりますがまずは国内)を行い、査読付き学術論文よりも自由度が高く審査が比較的優しいといわれる媒体(たとえば、紀要、報告書に、書評、報告書論文、研究ノートなど)に研究を発表します。

  • これらの研究発表は修士課程で初めて経験することになりますので発表準備には大きな苦労を伴います。また、一定の水準に達しないと、指導教員はあなたの研究発表を許可しないこともあります。この場合、研究業績は増えませんが、基礎的な力をつけるための大切な時間です。謙虚な姿勢で指導教員の話をよく聞き、勉強と研究を進めてください。

  • 直近では学振(修士課程2年の5月に申請)での評価対象となりますので、M1での研究業績はないよりは絶対にあるほうがよいです。

  • 民間就活がM1の後半から始まりますので、M1の夏休みぐらいまでが博士課程を目指す上でもっとも重要な時期のひとつです。

  • アルバイトとして、TA(教育補助)またはRA(研究補助)を行うという手段もあります。学内で作業でき、自身の研究能力向上につながるというメリットがあります(履歴書に書くこともできます)。ただし、TA/RAの作業にのめり込みすぎて自身の研究がおろそかになってはいけません。決められた時間の中で作業しましょう。


  • 高松ゼミでの方針:修論が最優先です。ですが、学会発表1つ(M1~M2)、研究ノートなどの投稿1つ(M1。結果的に掲載されなくてもよい。プロセス経験を重視します。)、学振申請(M2)(採用されなくてもよい、プロセス経験を重視します。)をするように指導します。また、TAを1つ以上しましょう(経歴・経験になるので。時間もとられるので、あまり多くなりすぎないように。)。


奨学金免除や授業料免除

  • 修士課程では、研究資金を獲得するための機会はほとんど開かれていません。奨学金とアルバイトで生活・研究をする人が多いです。

  • 日本学生支援機構大学院奨学金の第一種奨学金については、成績優秀者は返還を免除される制度があります(詳しくは立命館大学学生オフィスへ)。



学振(日本学術振興会特別研究員)

  • 月20万円を3年(DC1、D1~D3)ないし2年(DC2、D2~D3またはD3~D4)支給され、さらに(研究にのみ使う)研究費も最高年150万円支給されます。

  • 立命館大学では学振採用者・書類選考合格者は学費相当の奨学金(研究奨励奨学金S)の給付対象となります。

  • DC1は修士2年の5月に応募します。申請書は今後の研究計画とこれまでの研究業績が評価の対象となります。もし学部生のときの研究業績があればそれも評価の対象となります。


博士課程の過ごし方(目標3年)

  • 博士課程に入ると、どんどん学会発表をし、査読付き学術論文を書きます。これは博士論文の内容を充実させるためにも、博士号取得の審査のためにも必要な過程です。領域にもよりますが、研究ノート、紀要、書籍の一部(1章分など)など、査読付き学術論文以外の研究発表もしていきます。個別の研究発表に加え、複数の研究を博士論文にまとめ、博論審査に合格する必要があります。

  • 学振に採用されなくても、博士課程では各種団体の研究資金に積極的に申請して研究環境を整えてください。また奨学金を受ける場合には、給付や免除となるように申請をしてください。

  • 教員もしくは関係する研究者から共著のお誘いがある場合もあるでしょう。共著がどの程度研究業績として評価されるかは領域に依存しますが、業績を積み上げることができ、共著の過程で論文執筆のノウハウを学ぶことができる点は有益かと思います。ただし、共著の仕事をしすぎて自分のメインの仕事(博士論文)に影響が出るのは問題があります。共著の利益・負担はケースバイケースなので、受け入れる際には十分検討しましょう(依頼者以外の教員に相談するのが良いでしょう)。

  • 奨学金は3年、学振も2~3年で打ち切られますので、経済的余裕がある3年間で博論を書き終えることを強く推奨します。長く時間をかけるのが当たり前という領域もあるかもしれませんが、3年を過ぎてオーバードクターになると生活費を稼ぎながら博論を書くことになります。暇なし・金なし・元気なしになると研究がストップし、オーバードクターの期間が延びていきます。この悪循環を抜け出すのはとても大変なことですので、時間とお金と元気のある3年間に博論を書くこと(少なくともD3の夏休みには草稿を出すこと)を推奨します。

  • 現在は博士号を持っていないと、任期付きであっても常勤職に就けません(というつもりで)。

  • 非常勤講師は教歴になりますので、お話があれば博士課程から始めるのもよいでしょう。ただし、非常勤の授業準備に時間をかけすぎて自身の研究がおろそかになってはいけません。事前に指導教員とよく相談して、引き受けるかどうかを検討しましょう。



任期付き常勤職(助教、学振ポスドク、専門研究員@立命館など。高めの目標で1年)

  • 博士号を取得した後は、任期付きの常勤職を探すことになります。ここで、学務と教育の経験を積み(履歴書に書ける状態にしておき)、できれば1つ目の仕事で1年目からたくさん公募に応募して、任期なしの常勤職への就職を決めたいところです。ここをスムーズに抜けていくためには大学院生の時にたくさんの研究業績を作っておく必要があります。十分ない場合には、仕事と両立して研究業績を出していきます。1つ目の仕事で就職が決まらない場合は、2つ目の任期付き常勤職を探し、研究と就職活動を続けます。

  • 任期付き常勤職、任期なし常勤職とも、公募情報はJrec-inというサイトで確認できます。


非常勤暮らし

  • 常勤職の仕事を得られない場合は、非常勤講師などの仕事で生活費を稼ぐことになります。博士号を取得していても公募に落ちれば同様です。非常勤講師というのは、各大学で1コマ程度の授業を受け持つものです。教育職歴にはなりますが、授業準備も移動時間もかかりますので、1日に多くても3コマ程度、1週間に多くても7コマ程度しかできないでしょう(授業の内容によりますが、初年度で週7コマをこなすのは難しいです。また、それだけの話が来るかは分かりません)。

  • 非常勤講師の仕事を入れすぎると研究時間は圧迫され、研究業績が増えないまま時間だけが経っていくこともあります。


任期のない常勤職、テニュア(就職)

  • 任期がないポストで、大学院生が目標とするところです。

  • ここを確保できないことには長期的に研究を続けることは難しい。

  • 審査では、博士号取得、キャリア(修士からの研究年数や年齢)に応じた研究業績、職歴(任期付きの常勤職)、教育歴などが評価対象となります。人柄も大切です。

  • 採用されるかどうかは、競合する研究者との比較です。

  • さまざまなキャリアの人が応募してきますが、最低限、自分と同程度のキャリア(修士からの研究年数や年齢)のなかでは上位にいる必要があります。もちろん、採用されるためには応募してきた人のなかで一番になる必要があります。

補足

  • 今回は国内キャリアだけを示していますが、博士課程以降は、海外での研究(ポスドクなど)も視野に入れるとよいと思います。

  • ライフイベント(出産・育児や介護など)のある方は、休業や休学等って履歴書に書くとよい思います。研究キャリアは研究期間に対する業績をみられることが多いので、公式な制度を使って休業期間を示すほうが研究が遅れているわけではないことが説明しやすくなります。ただ、制度を利用していなくても履歴書に書くとよいと思いますし、たとえばM2で修了できるのにわざわざM3をする必要もないですし、ケースバイケースではあります。