地球上において、植物とその花粉を媒介する送粉者との関係は、生態系の基盤を支える生物間相互作用の一つです。また、私たち人間は農作物に対する送粉サービスというかたちで、送粉者から恩恵を受けています。しかし現在、生息環境の悪化や外来種との競争、病原体の侵入などによる世界各地での送粉者の減少と、それにともなう送粉サービスの劣化が危惧されています。
このような現状において、送粉者と送粉サービスに関わる最新情報の交換や共同研究のアイディアを模索する場として、また社会における関心を高めるための情報発信母体として、日本送粉サービス研究会(Pollination Services Society of Japan)は設立されました。送粉サービスに関する研究は応用的側面が強いと考えられがちですが、そのプロセスである送粉者の採餌行動や送粉効果、植物の繁殖生態といった基礎的側面を正しく理解することは、送粉サービスの維持・向上や送粉者の保全を実施する上でも必要不可欠です。よって本研究会は、農作物の送粉サービスの維持・向上、送粉者の保全だけでなく、あらゆる植物と送粉者の相互作用の解明にかかわる基礎的研究の推進も目標に掲げ、そのための活動を展開していきます。
本研究会の活動にご参加いただく学生や研究者の方々には、機関・分野の枠を越えた調査・研究の場として、保全の現場に携わっていらっしゃるNPOの方々や送粉者に関心を持たれている市民の方々には、情報収集や研究者への提案の場として、利用していただけることを目標としています。
・市民科学の実践(「マルハナバチ国勢調査」など)
・送粉者フレンドリーな農法ガイドブックの作成
・送粉者や送粉サービスについての社会的認知度を高めるための活動
・送粉者群集の種多様性やアバンダンスの全国的傾向の調査(土地利用の変遷にともなう種多様性の変化の検証など)
・在来送粉者の基礎生態に関する研究と情報集約(送粉者の分布・生活史情報と農作物の情報と相互にリンクさせたデータベースの構築、博物館標本のデータベース化など)
・在来送粉者による農作物の送粉サービスの評価
・飼育送粉者の持続的利用および利用効率の向上に関わる研究と提言
・稀少送粉者の保全やそれに関する提言
・地域の自然資本の評価(他の生態系サービスの研究者や特定の地域で活動しているNPOとの連携)