15:30〜16:20
天然林と人工林のモザイク景観におけるハナバチの採餌とカスミザクラの繁殖
永光 輝義 (森林総合研究所)
景観の改変によって送粉サービスは変化する。なぜなら、景観構造によって送粉系の構造や機能が変わるからだ。送粉系の構造は、訪花、送粉、採餌の相互作用を動植物間のリンクに捨象して解析されてきた。しかし、送粉と採餌の相互作用による送粉系の機能を理解するには、系を代表する動植物が授受する相互作用の利益を測る必要がある。そこで、広葉樹林の面積と形状で表される景観構造が、コツノツツハナバチ(マメコバチ)の採餌と営巣、ハナバチの数量、およびハナバチ媒のカスミザクラの結実と交配に与える影響を調べた。これまで景観の改変は、森林から農地への変化を扱うことが多かったが、ここでは天然林から人工林への変化を取り上げる。すなわち、林業による景観の改変が送粉機能に与える影響に着目した。
その結果、送粉機能の景観構造依存性が示された。つまり、広葉樹林の面積が広いと、マメコバチの貯食量が増え、ハナバチの数量が増え、カスミザクラの胚の発育と交配の多様化が促進された。カスミザクラの花粉散布距離は広葉樹林が広い地域で長く、針葉樹人工林によって花粉散布頻度は低下した。逆に、広葉樹林の面積が狭い方がマルハナバチの数量は増えた。一方、送粉機能には広葉樹林の特性も影響した。つまり、樹種構成がハナバチの数量に影響し、開花木密度がカスミザクラの交配に影響した。また、カスミザクラの結実は母樹の資源に依存し、自家不和合性により近親交配が回避されていた。このように、景観構造でない要因の重要性や、広葉樹林面積の減少に対する送粉機能の頑健性も明らかになった。
16:20〜16:30 休憩
16:30〜17:20
管理送粉者(ポリネーター)の有効利用 -我々は送粉者のポテンシャルを引き出せているか-
光畑雅宏 (アリスタライフサイエンス株式会社)
農作物生産のために人間が意図的に圃場に導入する送粉者は「管理送粉者(ポリネーター)」と呼ばれることがある。現在、我が国で利用されている代表的な管理送粉者には、セイヨウミツバチ(Apis mellifera)と2種のマルハナバチ(Bombus terrestris & B. ignitus)があげられる。年間に利用されるセイヨウミツバチは約4万群、マルハナバチは7万群を超える。主に利用されている果菜類を例にすると、イチゴでは栽培面積の80%が、トマトでは60~70%が管理送粉者のサービスを受けていると推定される。これは、世界的にみても管理送粉者の利用大国であることを示している。一方で、その利用技術については、十分に発展しているとは言い難い。実際の利用現場では、本来は半年以上継続して利用できるはずのミツバチのコロニーが、2、3か月程度で送粉サービスを終えてしまうことも多い。また、マルハナバチにおいてもコロニー平均利用期間が欧米のそれよりも約1ヶ月も短い。これらのことは、コロニーの設置されている周辺環境が適切でない、コロニーを維持できる=蜂児を育て続けられる資源が不足しているなど、管理送粉者が十分にそのポテンシャルを発揮できない環境下におかれていることが推測される。特に、閉鎖的な空間で単一作物のみに訪花させる施設栽培において利用される管理送粉者の場合には、栽培する植物のみならず、施設に導入する送粉者の特性を理解し、送粉者の管理にも気を配る必要がある。それらのノウハウを利用者に提供するのは、管理送粉者を生産、販売する養蜂家などの個人事業者や我々のような企業であり、利用者への説明会の実施、圃場巡回など普及、啓蒙活動は欠かせない。しかし、利用時のトラブルは絶えず発生する。「なぜ、コロニーが短期間で終焉してしまうのか。」「なぜ、訪花活性が低いのか。」などの状況(疑問)に対して、栽培作物の特性、品種、作型、定植株数(=資源量)、施設内の環境条件など個々の圃場毎にその原因を判断する必要もあり、一辺倒のマニュアルだけでは対応できないことも多い。我々は長い年月の中で進められてきた、送粉者と植物(花)の共進化の断片を圃場内に持ち込み、利用しているに過ぎない。そのためには栽培作物である植物、管理送粉者であるハナバチ、双方の生理、生態に関する多くの基礎研究が成された上で、農業生産現場における応用技術は成立する。本セミナーでは、管理送粉者の利用現場における実際を紹介しつつ、どのような基礎研究、学術情報がその利用に生かされ、また今後どのような研究が必要であるかを検討できればと考えている。今回の講演を通じて、送粉者の有効利用につながる基礎研究のヒントになれば幸いである。
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*セミナー後には懇親会も予定しております。参加ご希望の方は、6月16日までに世話人の横井(tomoyoko_at_kankyo.envr.tsukuba.ac.jp)までご連絡ください。