音楽の科学研究会

第31回 研究会

おひさしぶりの研究会、オンライン開催です! 景気づけに多くの方に発表していただくことにしました。盛りだくさんの内容ですが、音楽の科学研究の広がりを感じていただけることでしょう。また、総合討議の時間には全講演に対する質疑と、音楽科学全体の行く末について意見交換できればと考えています。当日、画面越しにお目にかかるのを楽しみにしております。(世話役・協力者:大澤智恵、正田 、橘亮輔)

日時

2021年10月17日(日) 13:00~18:00

  • オンライン開催(ZOOMを使います)

  • 参加費無料

  • 終了後、オンラインで懇話会を行います。どなたでも参加できます。

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  終了しました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。

プログラム

(1) 音楽を聴くことの7つの心理的機能と個人差

池上 真平(昭和女子大学)・佐藤 典子(武蔵野音楽大学)・羽藤 律(ゆたかカレッジ)・生駒 忍 (川村学園女子大学)・宮澤 史穂(高齢・障害・求職者雇用支援機構)・小西 潤子(沖縄県立芸術大学)・星野 悦子(上野学園大学)


(2) 二者でのドラム演奏課題における生理的・行動的シンクロニー

森原 佳歩(神戸大学大学院国際文化学研究科)・正田 悠(立命館大学スポーツ健康科学部)


(3) ピアノ四手連弾における演奏者間の生理的シンクロニー:事例研究

正田 悠(立命館大学スポーツ健康科学部)


(4) 人工音階から作られたメロディの記憶:音楽訓練経験者と未経験者との比較

石本 太一・山口 基樹・菅原 慧・松永 理恵(神奈川大学人間科学部)


(5) 小鳥の歌学習から音楽演奏能力を考える

橘 亮輔(東京大学進化認知科学研究センター)


(6) ITの助けを借りて音楽を創作・演奏する

北原 鉄朗(日本大学 文理学部 情報科学科)


(7) 幼若期ラットに対する和音曝露が生育後の嗜好性に及ぼす影響

白松(磯口)知世高橋宏知(東京大学大学院 情報理工学系研究科


(8) 音楽(BGM)の感情価は映像の記憶に影響するのか

梁 葉飛・牧野 裕光・木村 詩帆・松永 理恵(神奈川大学人間科学部)


(9) 少年院の支援教育課程Ⅲにおける音楽ナラティヴ・アプローチの導入と臨床的変化の検討

松本 佳久子(武庫川女子大学 音楽学部 応用音楽学科


(10) ⾳楽を視覚と触覚で感じられる球体型デバイス SOUND HUG の技術と実例紹介

長谷芳樹・鈴木一平・遠藤彰・黒田藍子(ピクシーダストテクノロジーズ株式会社)


(11) 「調性」は実在するのか?:知覚実験と計算論的モデリングに基づく探索

森本 智志(慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート)


総合討議:全体質疑と音楽科学研究の展望

オンライン 懇話会(参加自由)

スケジュール

※ [L]は講演20分+質疑入替10分、[S]は講演10分+質疑入替5分の予定です。

12:45 開場・準備時間
13:00 開会の挨拶、趣旨説明、注意事項(大澤・橘)

13:10 [L] 音楽を聴くことの7つの心理的機能と個人差 | 池上 真平
13:40 [L] 二者でのドラム演奏課題における生理的・行動的シンクロニー
森原 佳歩
14:10 [S] ピアノ四手連弾における演奏者間の生理的シンクロニー:事例研究
正田 悠
14:25 
[S] 人工音階から作られたメロディの記憶:音楽訓練経験者と未経験者との比較石本 太一

14:40 休憩(10分)

14:50 [L] 小鳥の歌学習から音楽演奏能力を考える橘 亮輔
15:20 [L] ITの助けを借りて音楽を創作・演奏する
北原 鉄朗
15:50 
[S] 幼若期ラットに対する和音曝露が生育後の嗜好性に及ぼす影響白松(磯口)知世
16:05 
[S] 音楽(BGM)の感情価は映像の記憶に影響するのか梁 葉飛

16:20 休憩(10分)

16:30 [S] 少年院の支援教育課程Ⅲにおける音楽ナラティヴ・アプローチの導入と臨床的変化の検討松本 佳久子
16:45 
[L] ⾳楽を視覚と触覚で感じられる球体型デバイス SOUND HUG の技術と実例紹介長谷 芳樹
17:15 
[S] 「調性」は実在するのか?:知覚実験と計算論的モデリングに基づく探索森本 智志

17:30 総合討議(正田・橘) 
17:50 閉会の挨拶(大澤・正田)
18:30? オンライン懇話会

講演概要

(1) 音楽を聴くことの7つの心理的機能と個人差 | 池上 真平

これまで多くの文献によって,音楽を聴くことの数多くの機能が提案されてきた。近年,そうした知見を整理して,実証的なアプローチによって音楽を聴くことの主要な機能を見出そうとする試みが行われている。本発表では,「なぜ人々が音楽を聴くのか」について,発表者らが行った調査研究を中心に紹介し,音楽を聴くことの心理的機能とその個人差について考察する。


(2) 二者でのドラム演奏課題における生理的・行動的シンクロニー森原 佳歩

複数人で同一の課題に取り組むと、その人々の身体運動や生理指標が類似する現象が知られている。本研究では、二者間で単純なリズムパターンのやりとりをする「ドラム演奏課題」におけるシンクロニーを取り上げた。「場面要因」として対面条件・視覚なし条件・別室条件を、「関係性要因」として友人と初対面を設定し、これらの要因が二者間のシンクロニー(生理面および行動面)の程度に及ぼす影響について調べた。その結果、場面設定は二者間のシンクロニーの程度と関連が深いことが示され、相手との関係性の違いにより異なる場面設定においてシンクロニーの程度が高まることも示された。


(3) ピアノ四手連弾における演奏者間の生理的シンクロニー:事例研究正田 悠

M. Ravel作曲『スペイン狂詩曲』より『祭り』を四手連弾で演奏した際の両ピアニストの心電図を記録した。心電図波形からRR間隔を算出し,両ピアニスト間の生理的シンクロニーの程度をWavelet Coherenceにより定量化した。その結果,リハーサルと本番とでは生理的シンクロニーのパターンに明らかな違いが認められた。リハーサル時では曲全体を通して両者のシンクロニーはきわめて高かったが,本番では曲の一部分でのみ両者の生理的シンクロニーが高まることが示された。


(4) 人工音階から作られたメロディの記憶:音楽訓練経験者と未経験者との比較 | 石本 太一

聞き手は,誕生直後から,属する文化に固有の音楽に長期間さらされることで,自文化の調性スキーマを獲得する。さらに,自文化の調性スキーマを獲得した大人の聞き手が馴染みのない別の文化の音楽にさらされると,その異文化の調性スキーマも新たに獲得する。では,それはどのような獲得過程にあるのであろうか。本発表では,この問題を解明する取り組みの第一歩として,音楽訓練経験の程度が異なる現代日本の大人2群(未経験者群,経験者群)を対象に,ファとソの有無が異なる4種の人工音階それぞれから作られたメロディの記憶のしやすさを調べた実験の結果を報告する。


(5) 小鳥の歌学習から音楽演奏能力を考える 橘 亮輔

さえずる小鳥(鳴禽類)は親から学んだ歌を聴覚的に記憶しておき、その後数カ月にわたって練習することで自身の歌発声を獲得する。この歌学習はヒトの発声学習や音楽演奏習得と共通点が多い。これまでの鳴禽類研究の知見を紹介しつつ、音楽演奏能力の生物基盤について検討する。


(6) ITの助けを借りて音楽を創作・演奏する | 北原 鉄朗

音楽創作や演奏は、音楽の楽しみ方として鑑賞とは異なる魅力があるが、専門知識や十分な身体機能が必要になり、誰もが楽しめるものではない。我々は、ITの手助けによって様々な人が音楽創作や演奏を楽しめる世の中の実現を目指している。本発表では、発表者らの研究成果を中心に、そのような試みの現状について述べる。


(7) 幼若期ラットに対する和音曝露が生育後の嗜好性に及ぼす影響 | 白松(磯口)知世

齧歯類では,生後特定の時期に曝露した音楽を好むことが報告されているが,こうした嗜好性の変化が,音楽に特異的なものか,それとも協和音といった要素に対しても起きるかは明らかではない.本発表では,幼若期のラットに協和音や不協和音を聴かせて飼育すると,成長後にこれらの和音へのカテゴリ依存の嗜好性が生じるかを,能動的な聴取行動から調べた結果を紹介する.


(8) 音楽(BGM)の感情価は映像の記憶に影響するのか | 梁 葉飛

映像とともに流れるBGMの感情的印象が違ってくると、同じ映像であっても、その映像に対する記憶に差が生じるのであろうか。本発表では、映像は同じにしたまま、BGMをhappyな曲、sadな曲、fearな曲そして統制のno soundに変えたとき、映像の再生成績に違いが生じるのかを検討した実験について報告する。


(9) 少年院の支援教育課程Ⅲにおける音楽ナラティヴ・アプローチの導入と臨床的変化の検討松本 佳久子

コミュニケーションや集団適応などに課題のある少年院の在院者グループへの治療的指導の一環として全5回の音楽療法(アンサンブルと語り)を導入した。その過程における、音楽を媒介とした2つの語り;「大切な音楽(第3回)」と「大切にしたい音楽(第5回)」について着目し、計量テキスト分析による内容分析を行い、グループの語りにおける臨床変化について探索的に検討した。このことについて報告する。


(10) ⾳楽を視覚と触覚で感じられる球体型デバイス SOUND HUG の技術と実例紹介長谷 芳樹

抱きかかえることで⾳楽を感じられるデバイスSOUND HUGは、コンサート等の演奏音をリアルタイムに光と音に変換することにより、聴覚障がい者の音楽体験を含め、音楽の聴き方を多様化することを目指して開発、改良がおこなわれてきた。本発表では、このシステムの技術的要素や、オーケストラの総奏や各楽器によるソロ演奏、ピアノ、オルガンなど、これまでの多種のコンサートでの事例により明らかになってきたこのデバイスの適性について述べる。加えて、それらのコンサートなどで得られた利用者や演奏者、主催者の見解を紹介する。


(11) 「調性」は実在するのか?:知覚実験と計算論的モデリングに基づく探索 | 森本 智志

音楽は極めて複雑な構造を持つ音刺激であり、音楽によって生じる高次な知覚現象を科学的に分析する上で、しばしば物理的な変数だけでなく知覚上の変数を扱うことがある。特に調性は経験的な音楽理論として体系化され、歴史的にも重要な音楽的概念であるため、広く物理的変数と同等に用いられてきた。しかし主観的に設定された知覚上の変数の仮定は、科学的な分析において矛盾を抱えていると言える。本発表では知覚実験を説明できる計算モデルの数理的妥当性から、調性に対応する知覚上の変数の存在を示唆し、その性質について議論する。