ゼミナールでは、①家計や企業が直面するリスクをめぐるさまざまな問題(リスクマネジメント手段の利用者の視点)や、②リスクを専門的に扱う金融機関(保険会社等)が直面する問題(リスクマネジメント手段の提供者の視点)について、社会科学の観点から、企業の財務・市場等データ等を用いた仮説検証型のグループ研究を行います。
最近のグループ研究のテーマは,①家計や企業のリスクマネジメント(例:個人の保険・年金の加入行動分析,企業の保険・デリバティブ戦略)と,②機関投資家とコーポレートガバナンス・ESG(例:保険会社の環境・社会・ガバナンス型投資戦略)に関する実証分析に大別されます。
これらの研究テーマを「調理」するために,ディシプリン(調理方法)として,主に,ファイナンスの理論をゼミナールの共通の「言葉」として学習します(注:数理ファイナンス・金融工学ではありません)。
図書館や書店などで「リスクマネジメント」と題する書物を手に取ってみると,法律的・制度的な側面を強調するものもあれば,数理的な観点から技術的な問題を掘り下げるもの,あるいは,実務家の経験談をまとめたものなど,実にさまざまです。良く言えば「学際的」,悪く言えば「何でもあり」な研究分野ともいえます。
これに対し,本ゼミナールでは,「なぜ,個人や企業はリスクマネジメントを行おうとするのか?」という,いわば,リスクマネジメントの「Why?」 の問題について,ミクロ経済学やファイナンス理論をベースとして社会科学の観点から学術的に研究します。いわば,個人(家計)や企業のリスクマネジメントに関する意思決定の問題を理論的・実証的に探求することが,ゼミナールの重要な研究テーマの一つです。
リスクマネジメントには,損失の発生可能性や予想される損失額を低減することを目的とするリスクコントロールと,損失発生を想定した資金調達に関する意思決定を扱うリスクファイナンスがあります。
本ゼミナールでは,このうち,主に,リスクファイナンスの問題を中心に研究を行います。
リスクファイナンスには,リスクの保有と移転といった基本的な意思決定問題があります。
さらに,リスク移転には,保険市場や保険制度等を活用する伝統的な手段に加え,近年では,金融・資本市場を活用した新たなリスク移転の手段に注目が注がれています。
こうしたリスクファイナンスに関する個人(家計)や企業の意思決定問題を実証的に研究します。
大震災,集中的なゲリラ豪雨,巨大な台風やハリケーンなど,世界的に巨大な自然災害が多発しています。このような巨大災害のことをCAT(Catastrophe)といいますが,家計や企業はこうしたリスクに対してどのように対処すべきでしょうか。
本ゼミナールでは,こうしたCATリスクをめぐるリスクファイナンス(リスクマネジメントの資金面に着目する考え方)についても研究しています。
最近では,2019年度の3年生が,日本の製造業の工場の所在地の分布を調べ,東日本大震災直前に東北3県に主要工場を持つ企業群とそうでない企業群とで,大震災後の借入コストに有意な差異があったのかどうかを統計的手法を用いて研究しました。この研究「東日本大震災前後の負債コストと地震リスクファイナンス ― 主要工場の被災地域内外の分布に注目して ―」は高く評価され,外部の学術誌『損害保険研究』(第82巻第2号)に掲載されました。
日本企業のグローバル化が加速するなか,外国人投資家をはじめとする株式市場参加者の企業に対する視線はますます厳しくなりつつあります。こうしたなか,近年,コーポレートガバナンス(企業統治)に関する制度改変が相次いでいます。
戦後長らく続いた伝統的なシステム(例:株式持ち合いや安定株主,メインバンク・システム)に代わる新たなガバナンスの枠組みは,保険会社に代表される国内の機関投資家の投資行動やコーポレートガバナンスのあり方に,どのような影響を与えるのでしょうか。
コーポレートガバナンス改革と機関投資家の役割について研究することも,ゼミナールの重要な研究テーマの一つです。
また,近年,企業の気候変動リスク等への対応を長期投資の重要な指標に据える動き-ESG(環境・社会・ガバナンス)投資-も加速しています。保険会社や年金基金をはじめとする機関投資家の動向も注目されています。ESG投資の問題もゼミナールの重要な研究テーマの一つです。
最近では,2018年度の3年生が,コーポレートガバナンス前後の生命保険会社のパフォーマンスに関して実証分析を行いました。この研究「近年のコーポレートガバナンス改革と機関投資家としての保険会社 」は高く評価され,外部の学術誌『生命保険論集』(第210号)に掲載されました。