おみやげの機能と目的
現代生活において、おみやげそのものが他者に利益を及ぼすことはほとんどないといえる。
食料や物品は充足し、おみやげはコミュニケーションとしての道具や、自身の懐古趣味に供されるものとなった。
おみやげのもつ機能を以下に挙げる。
職場の義理
社会人にとって、おみやげが出現する場として最も多いのが職場である。
出張はもちろん、休みの日に旅行へ行ったとか、田舎へ帰ってきた場合には 現地で入手した物品を同僚や上司に供与する。
このように、自身の私生活や出身地などのプラーベートを公表することによって、有給休暇などで旅行へ行った場合には「休んですみません」という謝罪の意味と「家族サービスであって愛人とのアバンチュールではない」という証拠として供与されることもある。
この場合、不必要に豪華なものであっては妬みや疑義を持たれるし、子ども向けでない場所の物品であっても不適当である。
しかし、職場においてのおみやげの本質は「分配」であり、職場という集団で、獲得物や快楽を独り占めせずに持ち帰って分配し、信頼感を得ようとする目的で頻繁におみやげが用いられる。
また、分配することで集団への忠誠を示すことが最も重要な目的である。
顔つなぎ あいさつ
被供与者が初対面の相手であり、ある程度の期間にわたって交流を持たなくてはならない場合にはおみやげを持参する。
たとえば婚姻相手の親族、転居先の近隣住民、外国でホームステイをする場合などである。このような場合、いわゆる「手みやげ」でもよいのだが、供与者の出身地に関連があるもののほうが自己紹介も兼ねているので、そこから会話が始まったり相手により親近感を持ってもらえる。
「手みやげ」では相手に対する礼儀としての機能しか有さない。
報告証拠
職場の飲み会に出席するといって浮気をする行為は、統計によると12.8%を占めいているとの報告があるが、おみやげが持つ特殊な機能によって、浮気の発覚を阻止する賢者が昭和の高度経済成長期に出現した。
木村泰三(1915-1998)は行為の後に繁華街のはずれにある寿司屋に立ち寄り、寿司を折りに詰めさせ、家人へのみやげとし飲み会の証拠にしたのである。
日本人が憧れる「酔っぱらいの寿司折り」は本来のおみやげの定義からは外れるが、証拠としての意味を持たせる意図が確認できればおみやげとして認められる。
時は過ぎ、現代では「〇〇へ行ってきました」などという名称の「証拠としての機能しかもたない」きわめて合理的なおみやげが発生したが、「会社の飲み会に行ってきました」という名称の寿司折りはまだ報告がなされていない。