コラム 観光食

コラム 観光食1

おみやげの定義からは外れるが、個人的な興味からいくつか紹介したい。

寺社仏閣の観光地化として最も歴史が深いと考えられる伊勢神宮での観光産業は、効率化が求められる現代社会においても学ぶところが多い。

伊勢神宮へは「一生に一度はお伊勢まいりを」というキャッチフレーズとともに多くの観光客が訪れた。

この大量の観光客に対して飲食を提供することは多大な利益をもたらすが、このために考案された飲食物には提供するのに速さが求められるものであった。

一つ目は伊勢焼きである。

古来より神道において赤は血の色を連想させ、生贄や命の象徴であり、神への供え物として優れていると考えられていた。

供え物として体色が赤い鯛が選ばれる理由は、その色と魚体の格好よさからきていると考えられるが、伊勢詣でを終えた観光客はこのご利益にあやかろうと鯛を食べたいと考えた、または鯛を出せば大きな利益が出ると商売人は考えたはずである。

生の鯛を食べさせることは衛生的に困難であるので加熱して提供する必要があるが、大量の魚を一度に焼くのは手間がかかりすぎる。

そこで考え出されたのが一旦煮て、そのあとで焼き鏝(やきごて)を使って焼き目を付ける方法、これが伊勢焼きである。

この方法なら一匹丸ごとの尾頭付きの鯛を焼きあげたようにして提供することができる。

この手法は現代において山口県の「山賊」という店でも見ることができる。

ここでは、「山賊焼き」と称して鶏の腿焼きをだしているが、事前に大量に加熱しておいて注文が入ると表面だけ温めて提供している。

伊勢ではほかにも、事前に茹でておいた太めのうどんを湯通しして醤油をかけて提供する「伊勢うどん」があるが、これは現代の立ち食いソバの手法の原点でもある。

注目すべきは汁無しという点で、麺は暖かいのだが汁がないので早く食べることができる。

これによって客の回転率を驚異的に向上させることができるし、全国から集まってくる様々な味覚に対しても、醤油をかけただけというシンプルさから、味付けに対する不満を抑え込むことができる。

また、近年、賞味期限の偽装で有名になった「赤福」は餅を餡子でくるんだものであるが、握った指の形がそのまま外観を形成するなど、いちいち丸める生産の手間をうまく省いている。

これらの手法は、品質よりも効率を求めることが儲けの原点であり、どうせ一見さん(いちげんさん)なのだからという観光地特有のルールの確立に大きく寄与している。