■コンバートEV
(電気自動車とは?)
私たちがこれから作成しようとする車は、ガソリン爆発の力学的エネルギーを直接利用した車に対して、アンペールの法則を利用した電気エネルギーを利用する車であることから、電気自動車(EV:Electric Vehicle)と呼ばれています。このEVは、これまでのガソリンエンジン車と違い、かなり簡単に作ることができます。ただし、実際に公道を走るとなると、EV作成の手段は限られてきます。その中で最もお薦めが、コンバートEVです。
(コンバートEVって、何?)
コンバートEVとは、従来のガソリンエンジン部を電気モータに置き換えた自動車を指します。これまで公道を走っていた車両をベースとしていますので、車検を通すことが比較的簡単なのです。今回は、このコンバートEVの簡単な作り方を説明していきます。
●コンバートEVの完成図
まず、実際に作成したコンバートEVを見てみましょう。図1が改造前の車両。図2が電気自動車化した車両です。見ての通り、外観はほとんど変化がありません。これがコンバートEVの良いところで、気に入った車体の外観を損なうことなく、排ガス・レスの理想の自動車を獲得することができるのです。これまで、燃費が悪い、音がうるさい、等の理由で、購入に二の足を踏んでいた憧れの車があったとします。今回のコンバートEVの企画を読んで作業すれば、毎晩、家庭用コンセントに差しておくだけで、静かでガソリン・レスで、あの憧れの車で毎日通勤ができるかも知れません。
今回は、そんな夢のような自動車を簡単に作成する方法について、分かりやすく説明していきます。
図1 EVベース車両外観
図2 コンバートEV外観
■材料(準備するもの)
コンバートEV簡単クッキングのスタートは、「材料」です。この材料を揃えて組み合わせれば、もう、夢の電気自動車は完成します。おおよその作業時間は2週間です。下記がコンバートEV作成のため、準備する材料です。
・ 改造ベース車両
・ モータ
・ コントローラ(インバータ or チョッパ)
・ コンダクタ
・ DC-DCコンバータ(バッテリ電圧 [112V]→鉛蓄電池電圧[12V])
・ 電気ヒータ
・ バキュームポンプ+バキュームタンク
・ 配線
・ アクセルスロットル
・ 充電器
・ バッテリ
これらの部品を図3の様に配線し、直流モータのシャフト部を自動車の駆動部に接続すれば、車はとりあえず動きます。とりあえずコンバートEVを動かすだけなら、ヒータのラインとDC-DCコンバータ+バキュームポンプのラインは不要です。コントローラの説明書に従って配線し、駆動部だけをしっかり固定していれば、最低限の電気自動車として機能します。(ただ、ブレーキブースターが作動していないので、ブレーキの効きが極端に悪くなります。気をつけましょう!)
図3 コンバートEV電気系配線図
●コンバートEVで公道を走るためのポイント
さて、自宅の庭や敷地等の私有地内の走行であればこれで楽しめば良いのですが、作成したコンバートEVで公道を走りたい場合は下記のポイントをしっかり押さえる必要があります。
(1)モータと駆動部との接続強度は充分か
(2)各部配線の感電、防水はしっかりしているか
(3)公道を走るのにパワーは充分か
(4)ブレーキ倍力装置は確保されているか
(5)フロントガラス曇り止めは差動するか
(6)重量は改造前と比べて過度に重くなっていないか
この6つのポイントが、作成したコンバートEVと陸運局への提出書類上に具現化されていれば、車検を通して公道を走らせることができます。今回の企画は、ただ電気自動車を作って走らせるだけで無く、車検を通すための実際の作業のポイントにも触れながら、話を進めていきます。
●実際に用意した具体的な部品とその説明
では、今回のコンバートEV企画のために、実際に準備した各「材料」を見ていきましょう。車両以外の部品は、基本的にコンバートEV部品を専門で扱っているホームページから直接まとめて取り寄せることも可能です。参考文献に数社挙げていますので、参考にされて頂ければと思います。
・ 改造ベース車両
車両は「スズキ・エブリィ(EBD-DA64V)」です。写真は前節をご覧下さい。今回の選定のポイントは、軽いこと、FR(フロントエンジン・リア駆動)であること、プロペラシャフトがフランジタイプであること、です。
・ モータ
今回は直流モータを用意しました。(図4参照)Advanced DC Motor(1)という名称で、L91-4003というモデルになります。この直流モータは72V〜120Vの直流電圧で動作し、定常馬力は13HP(電気系の人に馴染みがある記載とすると約9.7kW)です。最大で43HP(32kW)で400Aの電流を流すことができます。大きさは直径6.7インチで、長さは15.21インチです。従来の車の駆動源であるエンジンに比べて、EVの駆動源である電気モータは、この寸法の通り非常に小さいです。
図4 使用した直流モータ
・ コントローラ
直流モータとバッテリの間で直流モータに流入させる電流を制御するコントローラとして、カーチス社(米国)の1221C-7401 Controller(1)を採用します。(下写真左)このコントローラはバッテリから1時間定格で150A、最大で400Aをはき出させることができます。
・ DC-DCコンバータ(バッテリ電圧 [112V]→鉛蓄電池電圧[12V])
この部品は、112Vとなった直流バッテリから、従来の12Vの鉛蓄電池へ電力供給を行うためのものです。(下写真中)今回のコンバートEVは従来使用されていた鉛蓄電池の12V系電源ラインは残し、基本的な電装系はこちらで供給を行います。
(ガソリンエンジン車でのバッテリ上がり対策)
ガソリン車では、エンジンが回転する力をベルトを介して利用することで発電機を回し、その電力を鉛蓄電池に供給することで、“バッテリ上がり”を防いでいました。(図5参照)ですが、コンバートEVではエンジンがありません。従って、鉛蓄電池への電力供給ラインが無くなってしまうのです。放っておくと、すぐにバッテリ上がりを発生します。
図5 ガソリン車でのバッテリへの電力供給模式図
(コンバートEVでは鉛蓄電池を補助するラインが必要!)
コンバートEVではこのバッテリ上がりを防ぐために、大容量バッテリ(112V主電源)から鉛蓄電池(12V系補助電源)に電力を供給するDC-DCコンバータが必要となる訳です。今回はやはり米国のElectric Conversions社製TDC-72V-12V/24V(2)というモデルを採用します。その名の通り、72Vを12Vへ変換する装置であり、出力は400Wです。
・ コンタクタ
このコンタクタは2種類あり、今回写真に出しているものは、コンバートEVの前進、後進を切り替えます。(図6右)コントローラと同じくカーチス社製でモデル名はSW202です。120V上限の直流電圧下で使用可能で、常時250Aの通電を許容してくれます。
図6 各部品外観
・ 電気ヒータ
(車検申請時の隠れた落とし穴!電気ヒータ)
実は、この部品が車検を通すために重要な役割をします。雨の日にフロントガラスが急に曇ってしまっては、大変危ないですね。車検では、フロントガラスの曇り止めがきちんと動作するかどうかをチェックされます。従来のガソリン車では、エンジン内の配管を通じて出てきた温水をヒータコアに流し、温風をフロントガラスに吹き出すことで、曇り止めの機能を果たしています。(下図参照)
(コンバートEVでの曇り止め対策!)
コンバートEVではエンジンがありません!従って、コンバートEVでは大容量バッテリから直接電力を取り出して、電気的にヒータコアで熱を発生しているのです。(下図参照)今回は、電気的に発熱させるヒータコアとして、Solid-State Heater Core 36-108 VDC/1500 W(1)を用意します。その名の通り、36Vから108Vの電圧条件下で動作し、最大電流は13A、定格1500Wです。
図7 ヒータコア外観
図8 従来のヒータコアの機構
図9 コンバートEVにおけるヒータコアの機構
・ バキュームポンプ+バキュームタンク
ブレーキブースター(制動倍力装置)に組み込まれていたブレーキマスターバックはエンジンの負圧(エンジンがエアを吸い込む力)を利用して作動していました。しかし、やはりコンバートEVにはそれを助けるエンジンは既にありません。従って、12V系の補助バッテリで動作するバキュームポンプをブレーキブースターに組み込むことにします。12Vの鉛蓄電池は、色々と電力を供給しなければならず大変になりますが、でも大丈夫。前述のDC-DCコンバータにより、大容量バッテリから常に電力を補充してもらっています。これでバッテリ上がりの心配もありません。
(実際に用意したバキュームポンプ)
今回用意したものは、Gast社製バキュームポンプ,12VDCシリーズ(1)のものです。やはり12Vの鉛蓄電池の補助電源系が直接使用可能で、最大回転数は1800rpmです。このバキュームポンプで重要な性能は圧力であり、24 inches Hgです。これはパスカル表記すると81.27kPaであり、車検時には、この性能を計測して示しておく必要があります。
図10 バキュームポンプと配管のセット
・ 配線
配線は大電流を流せるものでなくてはなりません。今回はWelding Cable 2/0を用意しました。(下写真)このケーブルは耐圧600V、許容電流は450Aと大容量向けの製品です。また、圧着端子も電流容量が大きいものが必要ですので、Magna Straight Welding Cable Lug, 20×516 Holeを採用します。この圧着端子も800Aの許容電流性能を誇ります。
(絶縁も大事!キチンと対策!)
車検時には配線接続部の絶縁をチェックされます。むき出しの配線では車検を受けることができませんので、接続部を保護する絶縁キャップも必要です。今回は絶縁キャップとして600Vの絶縁耐圧のMagna Heat Shrink, 1/2, 1.5 Longを用意しました。これらの配線、圧着端子、絶縁キャップを組み合わせた写真を下に示します。
(絶縁が車検審査のキモ!もう一歩踏み込んだ対策!)
しかし!これだけ絶縁対策を行っても車検に通りません。配線は二重の被覆されていることが求められますので、配線チューブを用意して、全ての配線に被せていきます。エコカー用ゲルコートチューブ(3)を準備して、適切な長さに切断して、配線に合わせ込んでいきます。(図12)このチューブは高温、高耐圧の性能を保持し、EVやハイブリッドカー用に新たに開発された商品です。
図11 ケーブル、圧着端子、絶縁キャップ
図12 ゲルコートチューブを配線に被覆
・ アクセルスロットル
運転手の意思を自動車に入力するインターフェースは3つしかありません。バンドル操作、ブレーキ、そして速度を調整するためのアクセルです。コンバートEVでは、アクセル指令は前述のコントローラに電圧信号へ変換されることで入力されます。その装置としてアクセルスロットルを用意します。(図13参照)
(これが実際のアクセルスロットルの原理と実際!)
写真を見ると、アクセルの踏み込みによる開度に応じてアクセルワイヤが引っ張られます。この張力により、アクセルスロットルが写真では右に引っ張られます。この動きに応じた電圧信号を、下側の配線ラインから出力し、この信号をコントローラが受ける、という仕組みです。今回は分かりやすくするために、既にコンバートEVに設置された状態で説明しています。このアクセルスロットルもカーチス社製PB-6 Potbox(1)シリーズを用いています。
図13 アクセルスロットル設置図
・ 充電器
家庭用コンセントからバッテリへ電力を供給する充電装置のことです。ダイオードブリッジなんかで結構簡単に自作もできるのですが、今回は最新技術を盛り込んだハイテクな充電装置の技術最前線のお話について後述致します。お楽しみに!写真は今回使用した超小型バッテリ充電器(5), (6)(株式会社PAT&島根大学)です。
図14 超小型バッテリ充電器
・ バッテリ
最後に最も重要な部品が残っていました。大容量バッテリです。実を言うと、最も重要な部品にも関わらず、バッテリについては車検でそこまで言われません。きちんとしたパワーを出力可能であれば、どんなバッテリでもOKな様子です。お薦めは、近隣のホームセンターでも気軽に購入可能な自動車用鉛蓄電池なのですが、今回はあえて、今(色々な意味で)話題のリチウムイオンバッテリでのコンバートEV化に挑戦してみます。
(リチウムイオンバッテリはどこで購入?)
日本ではなかなかリチウムイオンバッテリの購入は難しいので、今回は中国から輸入してみます。平成24年度現在、中国のWinston Battery社からリチウムイオンバッテリの購入が可能です。この会社が出しているWB-LYP60AHA(4)というモデルのモジュールを32個購入しました。図16の写真が、中国から送付されてきて、箱を開けたところです。点線部がバッテリのモジュール1個を示しています。
(コンバートEV用に必要なバッテリ性能は?)
性能としてはモジュール1つあたりの電圧は3.5V、容量は60Ahの性能を誇ります。今回は、コンバートEVとしての性能を確保するために、この各モジュールをズラッと直列に並べて112Vの大容量バッテリを構成しているのです。このリチウムイオンバッテリの取り扱いは、命に関わります。コンバートEVの作り方のところで、取り扱いのポイントを書いていきますので、充分に注意して作成下さい。
図16 リチウムイオンバッテリ
■参考・引用*文献■
(1) 株式会社コスモウェーブ,:“http://www.cosmo-wave.com”
(2) Electric Conversions,:“http://www.elconchargers.com”
(3) 株式会社ニッセイエコ,:http://www.nisseieco.co.jp
(4) Winston Battery Limited,:“http://en.winston-battery.com”
(5) 株式会社PAT,:“http://power-assist-tech.com”
(6) 島根大学パワエレ研究室,:http://www.pe.shimane-u.ac.jp
(7) 株式会社CAPCO,:http://www.capco.jp
(8) 株式会社アクティブ,:“http://technicalgarage.on.omisenomikata.jp”