研究内容
気候変動(地球温暖化)において、温室効果気体が果たす役割は大きいですが、その働きを緩和もしくは助長しうる大気に浮遊する微粒子である「エアロゾル」に関する研究を行っています。また、エアロゾルは地球化学的にも重要な役割を持っています。
以下の二つを研究活動の大きな柱として掲げています。
自然起源から人為起源まで発生源が多様なエアロゾルの動態解明
keywords; 炭素性エアロゾル全般(有機エアロゾル、ブラックカーボン、バイオエアロゾル)、海洋性大気(船舶観測)、元素組成(硫黄、鉄など地球化学的に重要な元素)
次世代の新しい地球表層観測手法の研究開発と運用
keywords; 観測装置の研究開発、Unmanned Aerial Vehicle (UAV)、小型センサの応用、ハイパースペクトルカメラ、大気エアロゾル由来の海水懸濁粒子の分析
船舶を活用した海洋性大気境界層におけるエアロゾルの動態に関する研究
JAMSTECが保有する研究船における大気観測を通し、海洋性大気境界層 (MBL) 内のエアロゾルの動態解明に向けた取り組みを行っています。
主な成果と概要
Miyakawa, T., F. Taketani, Y. Tobo, K. Matsumoto, M. Yoshizue, M. Takigawa, and Y. Kanaya (2023), Measurements of Aerosol Particle Size Distributions and INPs Over the Southern Ocean in the Late Austral Summer of 2017 on board the R/V Mirai: Importance of the marine boundary layer structure, Earth and Space Science, 10, e2022EA002736, https://doi.org/10.1029/2022EA002736.
>海洋地球研究船「みらい」において実施した研究航海 MR16-09 (leg3) 期間中に南大洋上で観測された大気エアロゾルの動態を雲粒生成の観点で解析しました。粒子サイズ分布の観測結果からは、MBLでは典型的な2峰分布が観測されたこと、その形状(各モードのピーク濃度とモード間の極小粒径の変動)がMBLの物理構造(表層の混合層高度ないしは雲底高度)の影響を強く受けることを示した。また、粒子直径~300nmを境に、これより大きい粒子に関しては主に波しぶき由来し、雲凝結核粒子の主体となるより小さい粒子は波しぶきだけでなく、MBL上層における新粒子生成も重要役割を果たしていることをSea Spray Source Function (SSSF)を用いて定量的に示した。南大洋における氷核活性粒子の濃度は推定される雲凝結核粒子の濃度の約100万分の1と極低濃度であることが分かり、気候モデル計算において南大洋における水雲割合が系統的に過小評価される(氷雲を多く作りすぎる)傾向の要因の一つとして近年いくつかの報告例がありましたが、本研究からもそれを支持する結果が得られました。
エアロゾル中微量元素の動態把握に関する研究
エアロゾル中の微量元素の生物地球化学的の動態解明に向けた取り組みを行っています。
主な成果と概要
Miyakawa, T., A. Ito, C. Zhu, A. Shimizu, E. Matsumoto, Y. Mizuno, and Y. Kanaya (2023), Trace elements in PM2.5 aerosols in East Asian outflow in the spring of 2018: Emission, transport, and source apportionment, Atmos. Chem. Phys., 23, 14609–14626, https://doi.org/10.5194/acp-23-14609-2023.
>2018年春季に長崎県福江島において、堀場製作所製PX-375を用いてPM2.5エアロゾル中の微量元素濃度の高時間分解能観測を実施した。同時計測された黒色炭素(BC)・一酸化炭素(CO)濃度、後方流跡線解析、JAMSTECで開発されたGCMの一つであるIMPACT (Ito and Miyakawa et al., 2023) のシミュレーション結果とその比較検証を組み合わせて、①主に人間活動に起因する鉛、銅の東アジアにおけるBCやCOに対する排出比と下流域への輸送過程における消失、②鉄とマンガンの人為起源比率、③IMPACTモデルの湿性沈着過程の過小評価傾向と元素ごとの人為起源排出の過小/過大評価傾向などを見出した。多元素を高時間分解能で同時に計測した結果を詳細に解析したことで、少なくとも東アジア域では初めてとなる微量元素の挙動の詳細理解につながる知見を得た。
Ito, A., and T. Miyakawa (2023), Aerosol iron from metal production as a secondary source of bioaccessible iron, Environ. Sci. Technol., https://doi.org/10.1021/acs.est.2c06472. (press release from JAMSTEC)
>2018年春季に長崎県福江島において、PM2.5エアロゾル中の鉄濃度の高時間分解能観測 (Miyakawa et al., 2023) と、全球で取得されてきた鉄の水溶性割合をモデル計算の拘束条件にして、これまで見過ごされてきた鉄の人為起源発生源である金属精錬過程の寄与を調べた。北半球では製錬過程に対して低い鉄排出係数、南半球では高い鉄排出係数を考慮した数値モデルが、観測データを最もよく再現した。北半球では大気汚染対策としてエアロゾル排出量がすでに規制されている一方、南半球の一部の製錬所では排出抑制が限定的であることと整合的であった。
未解明の微粒子 「エアロゾル」 ―大気モニタリングからその実態とメカニズム解明に挑む
>堀場製作所様にエアロゾル元素組成の高時間分解能計測と数値モデルとの連携に関する研究成果(Ito and Miyakawa, 2023; Miyakawa et al., 2023)について、取材していただきました。
光学的な手法を用いた高感度なブラックカーボン粒子のキャラクタリゼーション
レーザー誘起白熱法(LII)などの手法を用いて、単一粒子レベルの炭素性エアロゾルのキャラクタリゼーションに取り組んでいます。理論的な検討や室内実験における評価だけでなく、陸域・海洋上(研究船を利用)といった広範な範囲の実大気や海水中にまで拡張した観測研究を行っています。
主な成果と概要
Miyakawa, T., P. Mordovskoi, and Y. Kanaya (2020), Evaluation of black carbon mass concentrations measured using a miniaturized aethalometer in comparison with continuous soot monitoring system (COSMOS) and single-particle soot photometer (SP2), Aerosol. Sci. Technol., 54:7, 811-825, doi: 10.1080/02786826.2020.1724870.
>手のひらサイズの超小型BC計測器であるAethLabs社のマイクロアセロメータAE51をLII法に基づく単一すす粒子計測装置(SP2)を用いて評価した。不確定性の要因である光吸収量計測の非線形性と干渉物質(光散乱性成分)の影響を定量化し、これらの補正法を初めて提案しました。この装置は大変軽量なため、個人暴露計測や、Unmanned Aerial Vehicle (UAV)や係留気球などにおける運用が期待できます。
Miyakawa, T., N. Oshima, F. Taketani, Y. Komazaki, A. Yoshino, A. Takami, Y. Kondo, and Y. Kanaya (2017), Alteration of the size distributions and mixing states of black carbon through transport in the boundary layer in East Asia, Atmos. Chem. Phys., 17, 5851-5864, doi:10.5194/acp-17-5821-2017.
>日本の工業地帯と離島での大気観測から東アジア域における大気境界層内の輸送過程を通した含BC粒子の微物理量の変化を、東アジア春季特有の移動性の低気圧・高気圧の東進のサイクルと関連付けて解析しました。降水を伴う雲過程が大気からの除去(濃度変化)だけでなく、粒子のサイズ分布や混合状態といった微物理パラメータに影響を与えていることを示しました。大気境界層から自由対流圏に上昇する気塊との対比などを含め、東アジア域における境界層内の含BC粒子の濃度・微物理の変動要因を理解する上で重要な結果となりました。
Miyakawa, T., Y. Kanaya, Y. Komazaki, F. Taketani, X. Pan、M. Irwin, and J. Symonds (2016), Intercomparison between a single particle soot photometer and evolved gas analysis in an industrial area in Japan Implications for the consistency of soot aerosol mass concentration measurements, Atmos. Environ., 127, 14-21
>ブラックカーボンを含む単一のエアロゾル粒子を計測可能なLII法に基づく単一すす粒子分析装置 (SP2)と、従来より、もっとも汎用的に利用されてきた熱光学分析法の相互比較実験を行いました。それぞれの不確定性を明らかにしつつ、それぞれの手法が測定するブラックカーボン、元素状炭素、黒色炭素の整合性を確認しました。元素状炭素定量のための分析プロトコルの不確定性が相互比較結果に大きく影響するが、これまで取得されてきた歴史的に古いデータと現在の最先端装置で得られるデータが比較可能であることがわかりました。今後、世界各地のデータを統合し、モデルとの比較を行う上で有益な結果が得られました。
Miyakawa, T., N. Takeda, K. Koizumi, M. Tabaru, Y. Ozawa, N. Hirayama, and N. Takegawa (2014), A New Laser Induced Incandescence - Mass Spectrometric Analyzer (LII-MS) for online Measurement of Aerosol Composition Classified by Black Carbon Mixing State, Aerosol Sci. Technol., 48:8, 853-863., doi:10.1080/02786826.2014.937477.
>ブラックカーボンの有無で選別して、エアロゾルの組成を分析する新しいエアロゾル組成計測手法の開発を行いました。ブラックカーボンの放射影響の精度向上に必須なブラックカーボン混合状態を解像する最先端のモデルを検証するための画期的なツールとなることが期待されます。この研究は、東京大学先端科学技術研究センター竹川研究室在籍時にJST先端計測プロジェクトの一環で行ったもので、現在は首都大学東京竹川研究室で実大気観測に運用されています。
炭素性エアロゾルのキャラクタリゼーション
実時間観測や試料採取+事後分析から得られる大気組成データと、衛星・気象データを組合せた統合的なデータ解析により、様々な起源を持つ炭素成分に着目したエアロゾルの動態解明に関する研究を進めています。観測対象は陸域・海洋上(研究船を利用)であり、多様な大気環境下での理解を目指しています。
主な成果と概要
Miyakawa, T., Y. Komazaki, C. Zhu, F. Taketani, X. Pan, Z. Wang, and Y. Kanaya (2019), Characterization of carbonaceous aerosols in Asian outflow in the spring of 2015; importance of non-fossil fuel sources, Atmos. Environ., 214, 116858, https://doi.org/10.1016/j.atmosenv.2019.116858.
>2015年春季に、長崎県福江島において観測された炭素性エアロゾルの発生・生成源を、放射性炭素同位体比や分子マーカーなどの分析から研究しました。一酸化炭素(燃焼過程の良い指標)の濃度上昇と炭素性エアロゾルの化石由来の割合増加に良い相関性が見られ、人為起源由来の気塊とバックグランド大気の混合により、炭素性エアロゾルの非化石由来割合が変動していることが示唆されました。ブラックカーボンの約9割が化石燃料に起因する一方で、有機エアロゾルは、バイオマス燃焼由来ではない非化石由来、特に自然起源の割合が時には半分以上を占めることが分かりました。有機エアロゾルの水溶性割合と非化石割合に正相関があり、発生・生成源が有機エアロゾルの間接効果に影響を及ぼすことを示した。東アジア域における炭素性エアロゾルの気候影響をより正確に評価するために、特に有機エアロゾルの自然起源に関してさらなる研究の必要性が示唆されました。(プレスリリース)
Miyakawa, T., Y. Kanaya, Y. Komazaki, T. Miyoshi, H. Nara, A. Takami. N. Moteki, M. Koike, Y. Kondo (2016), Emission Regulations altered the concentrations, origin, and formation processes of carbonaceous aerosols in Tokyo Metropolitan Area, Aerosol Air Qual. Res., 16: 1603-1614.
>東京首都圏において、2014年夏季にエアロゾル質量分析計を用いた組成分析を行い、また、サンプリングした炭素性エアロゾルの放射性炭素同位体比を計測しました。過去10年で東京首都圏はディーゼル車からの粒子状物質の排出規制や固定発生源からの揮発性有機物質 (VOCs)の排出規制を経験しており、規制による大気質の変化を、炭素性エアロゾルの起源(化石 vs 植物)や、二次生成有機エアロゾルの生成過程といった観点で解析しました。2002年から2014年にかけて、排出規制による化石燃料起源のVOCsが減少した結果、植物起源のVOCsから二次的に生成される有機エアロゾル(BSOA)が相対的に増加している傾向が明らかになりました。詳細な排出インベントリの調査と領域化学輸送モデルの再現性など、今後の課題が示されました。
Miyakawa, T., Y. Kanaya, F. Taketani, M. Tabaru, N. Sugimoto, Y. Ozawa, and N. Takegawa (2015), Ground-based measurement of fluorescent aerosol particles in Tokyo in the spring of 2013: Potential Impacts of non-biological materials on autofluorescence measurements of airborne particles, J. Geophys. Res., 120, doi:10.1002/2014JD022189
>単一のエアロゾル粒子中の有機物からLIF法で得られる自家蛍光を検出する装置を開発し、大陸からの気塊の輸送が卓越する春季に大気観測を実施しました。ライダーやエアロゾルの化学成分分析の結果などから、黄砂飛来時に自家蛍光を発する有機物の濃度が上昇していたことが明らかとなりました。また、その蛍光性成分は微生物などに由来する生体関連物質である可能性が高いことがわかり、バイオエアロゾルの越境輸送の重要性が示唆されました。また、LIF法で同様に検出されていまう夾雑物質に関する議論も行い、装置の有効性・限界に関する知見が得られました。
Unmanned Aerial Vehicle (UAV)を用いた研究
大気組成の鉛直・水平分布を取得する際に、従来は研究船、航空機、気球などのコストの高い研究プラットフォームを活用することが常であった。近年の無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle, UAV)の著しい発展で、一研究者レベルでも低コストかつ繰り返し利用が可能となった。現状では、法規制やUAVの性能(ペイロードの限界、バッテリー)の問題はあるものの、利用可能な小型なセンサーを搭載したUAVによる鉛直分布観測に取り組み始めました。
主な成果と概要
現在準備中
他にも、JAMSTECに在籍する他分野の研究者の方々と、UAVを利用したハイパースペクトルカメラによる近接リモートセンシングを軸とした地球表層の植生、海洋、大気の“色”を観測する試みも始めました。(under construction)
エアロゾル質量分析計を用いた大気観測研究(東大先端研在籍時、現東京都立大竹川暢之教授のご指導の下)
エアロゾル質量分析計の新規研究開発にも取り組んでいました。
エアロゾル計測に関する研究業界では、すでにいくつものエアロゾル質量分析計が開発・運用されていますが、定量性においてより高精度化を目指した装置開発研究を行いました。この研究はJST先端計測の一環で行ったものです。
主な成果と概要
Takegawa, N., T. Miyakawa, T. Nakamura, Y. Sameshima, M. Takei, Y. Kondo, N. Hirayama (2012), Evaluation of a New Particle Trap in a Lase Desorption Mass Spectrometer for On-line Measurement of Aerosol Composition, Aerosol Sci. Technol., 46:4, 428-443.
>特殊な構造をもつ粒子捕集器を開発し、エアロゾル質量分析計という組成分析装置に組み込み、測定原理の検証を行った研究です。どのような粒子の性質でもほぼ100%という高い捕集効率が確認され、エアロゾル質量分析計が従来抱えていた不確定性を大きく改善する画期的な結果が得られました。この研究では主に実験全般を担当しました。
Miyakawa, T., R. Matsuzawa, M. Katayama, and N. Takegawa (2013), Reconsidering adhesion and bounce of submicron particles upon high-velocity impact, Aerosol Sci. Technol., 47:5, 472-481., doi:10.1080/02786826.2013.763895.
>粒子捕集器の基礎設計時に重要と考えられた自由分子領域における粒子の高速衝突現象に伴う運動エネルギーの損失を、AUTODYNと呼ばれる衝撃解析ソフトウェアを用いて数値解析を行うとともに、これまでの理論研究との比較を通して再考しました。自由分子領域に関わらず、粒子衝突に基づくエアロゾル粒子捕集においては、弾性変形よりも塑性変形が重要であり、粒子の相(液体or固体)といった単純なパラメータでは跳ね返り現象は決まらず、粒子の物理的な物性値(降伏応力)や結晶の異方性(結晶構造を持つ粒子の場合)が支配因子として重要であることを初めて示しました。
Ozawa, Y., N. Takeda, T. Miyakawa, M. Takei, N. Hirayama, and N. Takegawa (2016), Evaluation of a Particle Trap Laser Desorption Mass Spectrometer (PT-LDMS) for the Quantification of Sulfate Aerosols, Aerosol Sci. Technol., 50, 2, 173-186.
>新規開発したエアロゾル質量分析計の硫酸塩の分析定量性向上に関する実験を行い、エアロゾルの組成分析にとって珍しく、かつ今まで難しいと考えられてきた不確定性の評価を行った研究です。この研究では、装置のハード・ソフトウェアの構築や研究初期段階での実験に貢献しました。
他の関連成果は以下の通りです。
武田、小泉、田原、宮川、竹谷 (2013)、PM2.5発生源特定を可能にするエアロゾル複合分析技術の開発、第27回独創性を拓く先端技術大賞 特別賞、リンク
小澤、武田、宮川、平山、竹川 (2014)、粒子トラップ-レーザー脱離質量分析計による硫酸塩エアロゾルの定量、第20回大気化学学討論会 学生優秀発表賞、リンク
関連特許
粒子線成形装置 WO2014087746 A1
粒子分析方法及び粒子分析装置 WO2014141994A1
*学生時代は、エアロダイン社のエアロゾル質量分析計を用いて、東アジアのメガシティーにおける大規模な大気観測キャンペーンに参加し、無機・有機エアロゾルの生成消失過程に関する研究を行っていました。(詳しくは業績リストの2000年代の論文を参照。)
現在進行中の外部資金による研究課題
科研費
受託
民間助成金