船舶を活用した海洋性大気境界層におけるエアロゾルの動態に関する研究
JAMSTECの研究船における大気観測を通し、海洋性大気境界層 (MBL) 内のエアロゾルの動態解明に向けた取り組みを行っています。近年は波しぶき過程や、大気海洋相互作用(主に熱のやりとり)を通したMBLの構造の変動など、MBL内のエアロゾル濃度や雲に強く影響する因子にも興味を持っています。
主な成果と概要
Miyakawa, T., T. Kinase, M. Kurisu, K. Taniguchi, M. Katsumata, H. Takashima, F. Taketani, and Y. Kanaya (2025), Natural and continental influence on aerosol distributions over the Northwestern Pacific Ocean in the late winter and early spring of 2021, accepted to Prog. Earth Planet. Sci.
>海洋地球研究船「みらい」において実施した研究航海 MR21-01 期間中に西部北太平洋上で観測された微小エアロゾルのオーバービュー論文。微小エアロゾル化学組成(微量金属含む)・微物理特性(粒径分布・混合状態)を起源別に分けて、関連するプロセスを解析しました。亜寒帯域では汚染物質による化学変質の影響を受けていない海塩エアロゾルの発生プロセスについて、亜熱帯海域では東南アジアや中国南部から超長距離輸送について解析し、冬季東アジアモンスーンにおける広範な緯度範囲(26-47°N)における微小エアロゾルの分布・動態をとりまとめました。また、雲凝結核粒子の粒子数変動の観点では、観測期間を通して、陸域人為起源(直接放出+二次生成)が主たる支配因子であり、波しぶきは限定的な役割であり、夏季の北海道沖における海洋大気観測の結果(共著論文Koike et al. (PEPS, 2025))とも整合的でした。
Koike, M., Y. Kawai, K. Adachi, H. Aiki, Y. Kanaya. H. Kawai, K. Kita, F. Kondo, T. Koshiro, H. Matsui, T. Miyakawa, A. Miyamoto, T. Miyasaka, Y. Miyazaki, M. Mochida, T. Mori, N. Moteki, T. Murayama, H. Nakamura, S. Ohata, E. Oka, S. Okajima, Y. Tobo, S. Sekizawa, and A. Yoshida (2025), Integrated aircraft and research vessel observational studies of aerosols and clouds in summer over the western North Pacific, Prog. Earth Planet. Sci., 12, 50, https://doi.org/10.1186/s40645-025-00719-1
>東北海洋生態系調査研究船「新青丸」と航空機 (DAS社King Air)によるエアロゾルと雲の同時観測プロジェクトのオーバービュー論文です。2022年夏季の北海道沖で実施した新青丸KS-22-10航海における大気エアロゾル観測のロジ全般と海塩エアロゾル計測、事後の船舶・航空機データ統合・モデル比較の解析を担当しました。 航空機・船舶観測の結果から、夏季の北海道沖では、雲凝結核の主要な起源は人為起源であること、波しぶき起源は大気下層で最大ででも23%に留まるという結果でした。モデルもエアロゾルの粒径別個数濃度の観測を良好に再現していることが分かり、そのデータ解析から波しぶきエアロゾルの雲生成を通した放射収支への影響は全体の9%程度であることが示されました。比較的陸域に近い領域の結果なので、さらに外洋(特に北太平洋)での推定も今後重要になります。
Miyakawa, T., F. Taketani, Y. Tobo, K. Matsumoto, M. Yoshizue, M. Takigawa, and Y. Kanaya (2023), Measurements of Aerosol Particle Size Distributions and INPs Over the Southern Ocean in the Late Austral Summer of 2017 on board the R/V Mirai: Importance of the marine boundary layer structure, Earth and Space Science, 10, e2022EA002736, https://doi.org/10.1029/2022EA002736.
>海洋地球研究船「みらい」において実施した研究航海 MR16-09 (leg3) 期間中に南大洋上で観測された大気エアロゾルの動態を雲粒生成の観点で解析しました。粒子サイズ分布の観測結果からは、MBLでは典型的な2峰分布が観測されたこと、その形状(各モードのピーク濃度とモード間の極小粒径の変動)がMBLの物理構造(表層の混合層高度ないしは雲底高度)の影響を強く受けることを示した。粒子直径~300nmを境に、これより大きい粒子に関しては主に波しぶきに由来し、雲凝結核粒子の主体となるより小さい粒子は波しぶきだけでなく、MBL上層における新粒子生成も重要役割を果たしていることを既存のSea Spray Source Function (SSSF) (OSSA-SSSF, Ovadnevaite et al., ACP, 2014)を用いて定量的に示した。南大洋における氷核活性粒子の濃度は推定される雲凝結核粒子の濃度の約100万分の1と極低濃度であることが分かり、気候モデル計算において南大洋における水雲割合が系統的に過小評価される(氷雲を多く作りすぎる)傾向の要因の一つとして近年いくつかの報告例がありましたが、本研究からもそれを支持する結果が得られました。