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細胞運動に伴う突出部位のアクチンダイナミクス

細胞運動(cell migration)とは...

一般には,細胞の前方における突出,基質との接着・剥離,および細胞後方における退縮を繰り返すことにより運動すると言われています.

細胞の運動様式に応じたアクチンタンパクの挙動(千葉大卒業研究:三浦拓也)

2011年度卒研学生,三浦くんの,アクチンダイナミクスを観察したい,解析したい,からはじまったテーマです.

本研究では,最終的には,細胞運動の突出過程に着目し,アクチンフィラメントが束化したストレスファイバの構造変化,すなわちアクチンダイナミクスと運動の関係を明らかにすることを目指しました.

実験では,株化細胞3T3 Swiss albino(マウス由来線維芽細胞様)に蛍光タンパク(GFP-actin)を遺伝子導入し,フィブロネクチンを塗布したガラス基板に播種し,サンプルを作製しました.共焦点顕微鏡を用い,ストレスファイバが発達している細胞底面近傍を,1分間隔で約2.5時間撮影し,x-y-t画像を得ました.

突出過程において最も活発なアクチンダイナミクスが観察された例を,右図に示します.これは,動画のスナップショットを50(min.)ごとに示した図です.図において,線状に白く見られる部分が,ストレスファイバを表していると考えられます. 右図から,今回撮影した細胞運動では,細胞の先端側(向って左側)で大きなlamellipodia(葉状仮足)を形成し,それが図の左側に向かって移動していく様子がわかります.このとき,lamellipodiaにおいて運動に伴いアクチンストレスファイバが動的に緻密なメッシュワークを構築している様子が見てとれます.そこで,ストレスファイバが構築される様子の定量評価を試みました.

ストレスファイバの解析方法を左図(a)に,抽出例を(b)に示します.ここでは,ストレスファイバの始点および終点をマニュアルに決定し,その両端の座標値を取得しました.そして,ストレスファイバを直線と仮定し,抽出したストレスファイバと細胞底面の重心速度ベクトルがなす角度を求めました.

ストレスファイバの解析結果を下図に示します.(a)はストレスファイバの抽出本数(黒実線),およびストレスファイバが重心速度ベクトルとなす角度の積み上げヒストグラムであり,細胞前方部に存在するストレスファイバを暖色系(赤・橙・黄)で,後方部を寒色系(シアン・緑・黄緑)で表しています.また,(b)は細胞底面の重心移動速度の時間変化です.ストレスファイバの抽出本数に着目すると,撮影開始直後(t = 0 (min.))からt = 100 (min.)にかけて本数が増加する傾向が見られました.このとき,細胞の重心移動速度も同時に増加しました.しかし,その後ストレスファイバの本数は一定となり,同時に重心移動速度は大きく減少することがわかりました.

ストレスファイバが動的に再構築を繰り返す一方で,右図の赤丸で示されるように,蛍光輝度の高い不動点もみられました.そこで,この不動点に着目し,その位置と細胞運動の関係を調べました.

蛍光輝度の高い不動点を追跡した結果を下図に示します.時刻t=22(min.)において細胞のエッジ近傍に見られる輝度の高い点(緑丸)は不動点であり,細胞運動に伴い相対的に細胞内部へと移動し,また一部は消失しました(t=52(min.)).このとき,細胞のエッジ近傍には,新たに輝度の高い点(黄丸)が現れることがわかりました,この点も同様に不動点であり,細胞運動に伴い相対的に細胞内部に位置を変え,また一部は消失しました.さらに,橙丸,赤丸と,細胞のエッジ近傍に同様の点が現れることが繰り返されました.この輝度の高い不動点は,アクチンストレスファイバ上,特にアクチンのメッシュワーク構造の交点に多く存在しており,ここに接着斑が形成されているものと予想されました.

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