Research

細胞運動をシステムとして捉える研究

計測・解析手法の精度向上に伴い,昨今は何かと一分子計測・解析がはやりのように感じます.非筋細胞の細胞運動メカニズム解明に関しても然り.細胞内アクチンネットワークのダイナミクスが明らかになりつつあり,それに関連する各分子のふるまいに注目が集まります.

確かに,分子ネットワーク解析や遺伝子ネットワーク解析は,細胞内現象を明らかにする重要な手法であることには間違いありません.しかし,それはミクロなスケールの話.ミクロな分子とは1000倍もスケールの異なるマクロな細胞全般の現象を考える場合,ミクロなスケールのみから論じることに,私自身は大きな違和感を覚えます.木を見て森を見ず,なのではないかと.

現在の研究のターゲットは,「細胞運動のメカニズム解明およびその医工学応用」です.細胞内のアクチンネットワークを考慮に入れることはもちろん,それだけではなく細胞運動全体を考えるうえで必要となるであろう要素を考慮に入れ,細胞運動の特徴をとらえる観察実験を行うとともに,一システムとしてそれらを組み込んだ細胞運動を記述するモデルの構築・解析を行い,実験と数値解析の両面からそのメカニズム解明を試みたいと考えています.また,基礎研究にとどまらず,いかに医工学に応用していくか,が今後の大きな課題です.

(右図:細胞運動の様子.細胞は,進行方向にlamellipodia(葉状仮足)を伸ばしている.Lamellipodiaではアクチンネットワークが盛んに再構築を繰り返し,lamellipodiaの伸展,さらには細胞の運動における駆動源の一つとなっていると予想される.細胞:Swiss 3T3; 観察手法:微分干渉像のタイムラプス観察; 顕微鏡:Nikon ECLIPSE Ti-E,パーフェクトフォーカス使用)


2016〜2018年度,科研費「細胞形状の時空間制御に伴う細胞骨格・小器官のダイナミクスと細胞遊走機序の解明」に取り組みました.

2012〜2013年度,科研費「アクチンダイナミクスに基づく非筋細胞運動の突出形成メカニズム解明」に取り組みました.


2011年度より千葉大のテニュアトラック准教授として,以下のプログラムにおいて「細胞運動のメカニズム解明及びその医工学応用に関する研究」に取り組んでいます.

国立大学法人千葉大学 優れた若手研究型教員の人材育成システム


2007年度よりさきがけ研究者として,以下の領域において「細胞運動解析のためのマルチレイヤーモデル構築」に取り組みました.

(独)科学技術振興機構 「生命現象の革新モデルと展開」領域

関連テーマ

      • 2015年度千葉大

        • 修士論文(湯地,指導教官 武居昌宏教授):マイクロ流路内交流電圧印加電極近傍における細胞挙動の解析−ヒストン量による細胞挙動の違い−(千葉大武居教授Gとの共同研究)

        • 卒業研究(中田):シワ形状基質における線維芽細胞の運動応答(東工大田中准教授との共同研究)

        • 卒業研究(吉田):線維芽細胞の運動に伴う形状変化の三次元解析

      • 2014年度千葉大

        • 修士論文(小倉):生体環境を模した硬さを有するゲル基質上における細胞遊走パターンの違いに関する研究(九大木戸秋教授,久保木助教との共同研究)

        • 修士論文(西村):マイクロ構造内における線維芽細胞のアクチン細胞骨格およびミオシン分布(理研三好博士との共同研究,主に理研にて実験)

        • 卒業研究(宮沢):マイクロパターン形成手法による細胞核―中心体の配向解析(一部NIMS中西淳博士との共同研究,共同研究部分についてNIMSにて実験)

        • 卒業研究(渡辺):線維肉腫細胞の遊走と焦点接着斑の関係

        • 卒業研究(下津曲):細胞分裂に伴う形状極性の形成および変化

      • 2013年度千葉大

        • 修士論文(粟生):マイクロパターン形成手法による細胞遊走における中心体再配向の動的挙動の解析(NIMS中西淳博士との共同研究,主にNIMSにて実験)

        • 修士論文(三浦):細胞遊走に伴うストレスファイバおよび焦点接着斑のダイナミクス

        • 卒業研究(狩野):粒子画像流速計測法を用いた集団細胞運動の解析

      • 2012年度千葉大

        • 卒業研究(西村):マイクロ構造を使って観察した線維芽細胞の突起形成の違い(理研三好博士との共同研究,主に理研にて実験)

      • 2011年度千葉大(一緒に実験・解析を行った坪田研テーマを含む)

        • 修士論文(渡邊):細胞の力学状態に与える焦点接着斑の影響 のうち焦点接着斑のダイナミクスに関する実験部分(修士2年時)

        • 卒業研究(三浦):細胞の運動様式に応じたアクチンタンパクの挙動

        • 卒業研究(池田):マウス由来繊維芽細胞の変形様式に応じた細胞形状パラメータの変化

      • 2010年度東工大修士論文(Knecht):Image analysis tool for the characterization of cell motility in confocal microscopy images (共焦点顕微鏡画像による細胞運動の定量化)

      • 2010年度東工大修士論文(中島):画像処理による細胞運動の解析

      • 2009年度東工大修士論文(崔):ケージド培養基板へのマイクロパターン形成手法の確立

      • 2007年度よりずっと格闘中(菅原):アクチンダイナミクスに関する数値解析モデル構築

内耳に存在する外有毛細胞の機械特性計測・モデル解析

聴覚全般のメカニズムについては,東北大学 和田研究室のページをご参照ください

Auditory mechanics

内耳コルチ器に存在する外有毛細胞は,音が入力すると,膜タンパク質prestinの構造変化に伴い自ら伸縮し,基底板に対して力を発生することにより,入力音を増幅する役割を担っていると考えられています.この外有毛細胞は,他の細胞には見られない特異的な構造を有します。すなわち,細胞膜に高密度に存在する膜タンパク質,アクチン・スペクトリンといったタンパク質に裏打ちされた格子状の細胞骨格,などなど.いずれも,内耳において外有毛細胞が果たす増幅の役割に欠くことができない,重要な構造上の特徴です.

そこで,外有毛細胞の粘弾性特性や原子間力顕微鏡を用いた局所的弾性特性を計測し,他の細胞には見られない硬い側壁の機械特性を明らかにしました.また,シェル(薄膜)理論を応用し,細胞のシミュレーションモデルを構築し,細胞側壁の機械特性をモデルに反映させるとともに,膜タンパク質prestinの構造変化を統計力学の概念を利用してモデルに組み込むことにより,外有毛細胞が発生し得る力の推測を行いました

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