現在、カーボンナノチューブは化学気相成長(CVD)という方法で合成されることが一般的です。鉄やニッケルなどのナノサイズの微粒子を高温環境において、そこにエタノールなどの炭素を含む分子のガスを供給すると、炭素が微粒子に溶解または吸着して、やがて析出してきた炭素がカーボンナノチューブが形成されます。いったん筒が伸び始めると同じプロセスの繰り返しですので、その後は連続的に成長が続きます。なんと直径数nmしかないCNTが1メートル近く伸びた例も報告されています。
カーボンナノチューブをデバイス応用、特に論理回路などの高性能なトランジスタなどに用いるにあたり、たくさん並んでいるCNTの構造を一つに揃えたいというのが昔からの夢であります。少なくとも金属型・半導体型を作り分けたいですし、バンドギャップを揃えるならば直径分布も狭くしたいですし、究極的にはカイラリティも完全に制御したいと誰もが考えます。しかし、CNTの合成は800℃などの高温で行われるため、微粒子の構造も安定しませんし、熱による揺らぎが大きく、構造をきっちり制御するのは大変難しいものです。それでも近年では高温でも固体であるようなタングステンベースの化合物を触媒微粒子に用い、熱力学的安定性や速度論的なアプローチを駆使して特定のカイラリティを高い割合で合成できるという手法が報告されてきています。しかし、実際にどのようなCNTが形成されやすく、またどのような速度で成長していくのかを研究した例は、環境型電子顕微鏡などを用いた特殊な環境のものに限られていたのです。我々が実際にデバイスで使いたいような、基板上を配向成長する長いCNTについて、その成長過程を時間を追って1本ずつ詳細に調べた例は聞いたことがありません。つまり、CNTの構造を制御して応用しようという研究と、成長機構を調べる研究は全く違う条件で行われており、大きな乖離があったのです。