名誉会員

奥田節夫 (Setsuo Okuda)

奥田節夫氏(1926年生まれ)は,大阪大学で物理学を学んだ後,京都大学防災研究所に永年勤務し,同研究所の退官をもって京都大学名誉教授となった.氏は,地形学,自然災害科学,水圏環境科学など多岐にわたって研究し,とりわけこれら分野間の境界領域における研究促進のために尽力した.氏は,本連合創立に先立って組織された実験地形研究会のメンバーを励ますとともに,連合の発足にあたっては創立世話人会代表として先導的役割を果たした.設立と同時に初代会長(1979〜1981年,当時は委員長と称していた)となり,第2代会長(委員長,1981〜1983年)も務めた.2期連続の同一人会長は本連合の歴史でも例外である.連合は,当初より例外的であることを承知の上で,創立間もない組織を事務局体制や財政基盤も含めて確実にするため,このようなことを氏に頼むこととなった.

氏は思弁的自然哲学と異なって,物理学が観測事実の上に成り立つことに注目し,観測,計測による実証を基礎とする地形変化の研究を進め,プロセス地形学の発展に大きく貢献した.氏を中心とする土石流観測グループによる土石流の実態解明は,この分野において世界をリードするところとなった.このような研究と国内外の研究が呼応することとなり,1980年には国際地理学連合(IGU)のコミッション「地形学における野外実験」が京都,上高地,東京で開催され,氏は実行委員長の大任を担った.ちなみに,コミッションの事務局長は今回名誉会員の一人として推挙されたProf.01av Slaymakerであった.その成果は「地形」第2巻第1号特集「地形学における野外実験」としてまとめられている.1990年に中国の蘭州で開催されたコミッション「地形学における測定,理論,応用」(COMTAC)には日本代表として参加した。成果は“Loess−Geomorphological Hazard and Processes”(CATENA,1991)としてまとめられているが,氏はその編集と刊行にあたった.

氏は陸水学の分野でも数多くの業績を残している.奥田節夫氏に名誉会員の称号を献呈することは日本地形学連合の誇りとするところである,

文責:徳永英二

地形 26: 351-352

2005年5月14日推戴

水山高幸 (Takayuki Mizuyama)

水山高幸氏(1923年生まれ)は,東京文理科大学(筑波大学の前身)で地理学を学んだ.その後,京都教育大学(就任時は前身である京都師範学校)に勤務し,退官をもって同大学名誉教授となった.永年に渡ってプロセス地形学を研究する中で,自然地理学と災害科学の接点を追求し野外実験地形学の分野を開拓した.

氏は本連合創立の世話人として連合の発足に大きく貢献した.連合創立直後の1980 年度には,文部省科学研究費によるプロジェクト「地形変化の数量的予知に関する研究集会」の代表者の役を担った.このプロジェクトの活動により多分野の地形研究者の交流が一段と活発となった.プロジェクトの成果は「地形」第2巻第1号特集「地形変化の数量的予知」としてまとめられているが,この特集号は,まさに「日本地形学連合創立の辞」を具現するものであり,連合発展のための大切な一里塚となった.氏はこの特集号の編集でも中心的な役割を果たした.その後,連合の第3代会長(1983-1985年,当時は委員長と称していた)となり奥田初代・第2代会長とともに連合の基盤強化のために指導的役割を果たした.

氏の研究領域は,自然地理学の枠内に限られることなく,応用地理学・地誌学・人文地理学・地理教育など多方面に渡っており,研究成果は,「地形の説明的記載(大明堂) 」,「地形小論(地人書房) 」,「人文地理学(創元社)」などを含む多くの著書・論文等にまとめられている.

水山高幸氏に名誉会員の称号を献呈することは日本地形学連合の誇りとするところである.

文責:徳永英二

地形 26: 352

2005年5月14日推戴

竹下敬司 (Keiji Takeshita)

2005年5月14日推戴

Harley J. Walker

Professor Harley J. Walker. Boyd Professor Emeritus, Louisiana State University, is a specialist in coastal geomorphology. He is one of the most famous geomorphologists in the world and is nicknamed Jess, because he is not only a very friendly colleague but also the first Honorary Fellow of the International Association of Geomorphologists (IAG). The creation of the IAG in 1989 was due to the exceptional collaboration between him and Denys Brunsden. Jess organized Newsletters from No. 1 to No. 6, Questionnaires, the Directory of Geomorphologists, and the Histories of Geomorphology published at the Conference in Frankfurt.

Professor Walker has contributed to the development of the Japanese Geomorphological Union (JGU) continuously from its establishment up to today as follows:

He joined us in the party held at the TERADAYA. a historically very famous inn located at Fushimi, Kyoto, on October 6, 1979, when the Japanese Geomorphological Union (JGU) was established, and he immediately offered his congratulations to the establishment of the ]GU. He should be proud of his honor of becoming the first foreign member of the ]GU's 63 foreign members, which make up about 10 % of ]GU's regular members today. Mainly Professor Walker, using all chances and submitting an introductory letter to many journals, has promoted the establishment of the ]GU in its early stage around the world of geomorphologists.

The ]GU should express its sincere thanks to Professor Walker, who had made every effort and great cooperation to make the 5th ICG successful from the beginning of the preparation to the closing.

In addition he had kindly accepted many Japanese geomorphologists at the Department of Geography and Anthropology, Louisiana State University, as guest researchers including Professors Eiju Yatsu and Takayuki Mizuyama who together played an important role in the establishment of the ]GU.

Thus the great development of the ]GU is in his debt.

The JGU is honored to award Professor Harley J. Walker an Honorary Member.

On May 14,2005,the 25th anniversary of the establishment of the ]GU,at Fukuoka.

Writter: Takasuke Suzuki

TJGU 26:353-354

2005年5月14日推戴

Stanley A. Schumm

2005年5月14日推戴

石再添 (Shih Thai- Tien)

2005年5月14日推戴

Olav Slaymaker

2005年5月14日推戴

藤木忠美 (Tadaharu Fujiki)

2009年10月3日推戴

塚本良則 (Yoshinori Tsukamoto)

2009年10月3日推戴

Ian S. Evans

2009年10月3日推戴

Thomas Dunne

2009年10月3日推戴

藤田 崇 (Takashi Fujita)

藤田先生は,1958年に大阪市立大学理工学部地学科を卒業後,原子燃料公社(現日本原子力研究開発機構)に入社,1971年9月に大阪市立大学から理学博士の学位を取得されました.1973年には大阪工業大学工学部助手として着任され,その後講師・助教授を経て,1975年に教授に昇進されました.2001年3月には大阪工業大学を退職され,名誉教授となられています.藤田先生は地形学連合に発足当時から参画されております.従来の専門分野にこだわることなく,広く地形に関心を寄せる者が研究討論を行う場として設立された地形学連合において,創立当初の「地形」に掲載された論文「地すべり変動による地形変化」(1981)で示されるように、「地すべり研究」に軸足を置きながら,地すべり発生の地形・地質的要因について,あるいは変動の結果形成される地すべり地形についての研究を進められ,その研究成果の普及に尽くしてこられました.

藤田先生は1983年から1997年までの長きにわたり委員として地形学連合の活動を支え,そのうち1987年から1989年にかけては,会長として地形学連合の発展に貢献いただきました.さらに,会長退任後の2年間も渉外主幹を勤められ,会長時代に引き続き「10周年記念行事」の準備・開催に組織委員長として尽力いただきました.

委員を退任された後も,斜面地形の形成や斜面変動について取りまとめた「斜面地質学: その研究動向と今後の展望」(応用地質学会)や,地すべりと地形・地質との関係を論じた「地すべりと地質学」(古今書院)を編著されるなど,地すべりと地形に関する研究の普及活動を継続されています.これらの書籍は,大学・研究機関の研究者,地すべり技術者,行政担当者などの幅広い職種の関係者にとって必読の書となっており,「地すべり」と「地形」研究を結びつけ体系化されたものとして,現在も後の世代に継承されています.

以上のように,長年にわたる斜面災害の研究や当会の活動を通して地形学の発展に多大な貢献をされた藤田崇先生を名誉会員として推薦いたします.

文責:石丸 聡

2016年10月8日推戴

大八木規夫 (Norio Oyagi)

大八木規夫先生は,1958年に広島大学理学部地学科を卒業後,広島大学院理学研究科地質学鉱物学専攻に進学され,博士論文として「四国中央部佐々連鉱山地域の三波川結晶片岩の構造解析」をまとめられ1964年3月に広島大学より理学博士の学位を授与されました.1964年4月には,科学技術庁国立防災科学技術センター(現防災科学技術研究所)に入所され,地表変動防災研究室長,研究部長を歴任されました.防災科学技術研究所を定年退職された後は,財団法人深田地質研究所理事に就任され,現在も深田地質研究所特別研究員として研究活動を続けられています.1983年度から1992年度にかけて日本地形学連合委員を務められ,そのうち1989年度から1990年度にかけて会長を務められました.

大八木先生は,防災科学技術センターと防災科学技術研究所において,斜面変動に関する基礎的な研究と,突発的に発生する斜面災害に関する応用的な研究の双方を進めてこられました.そのテーマは,花崗岩の風化研究や硫黄島の火山研究,北松型地すべり,地附山地すべりの研究を始め大変幅広く,地質学的,地形学的方法を駆使され,様々な斜面変動の実態やメカニズムを明らかにされてきました.昭和59年長野県西部地震での御嶽火山の斜面災害では,その研究成果を「御嶽火山1984年大崩壊とそれに伴う土砂移動の全体像」として1987年に「地形」誌に公表されています.

斜面災害研究において,現在では必須の基礎資料となっている「1:50,000地すべり地形分布図」は大八木先生が企画し始められたものです.1981年の刊行開始から2014年の全国整備完了まで,刊行の中心的メンバーとして活躍されました.現在ではインターネットでも公開されているこの地図は,研究者,実務者,行政担当者のみならず,一般の方にも閲覧され,自然災害の軽減のための有用な資料となっています.

大八木先生は,地すべりの形態的特徴としての地形と,その内部構造である地質構造との関連性について議論する地すべり構造論という分野を切り開かれました.これは,地質学の素養を持たれている大八木先生が,数多くの斜面災害について,空中写真を用いてその形態を丁寧に観察され,現場を丹念に調べ,研究をすすめられたからこそ確立できたものといえ,そのお考えは,「地すべり構造論」(1976年),「斜面災害と地質学―地すべり構造論の展開―」(1996年)や「地すべり構造」(2004年)にまとめられています.そして,地すべり学会における「地すべりに関する地形地質用語委員会」の委員長として「地すべり:地形地質的認識と用語」をまとめられ,地すべりの地形地質学的特徴についての整理をなされました.さらに,豊富なご経験を「地すべり地形の判読法」としてまとめられ,2007年に刊行されました.

日本では,数多くの斜面災害が発生するため,学問的な体系化が進む前に,様々な斜面対策技術が発達し,実務が行われていました.そうしたなかで,大八木先生は地形学的,地質学的手法を融合させた視点で地すべり研究を進められ,地すべり地形・地質研究における学術的な体系化をすすめられました.さらに,全国的な地すべり地形分布図の整備や,用語の整理,写真判読といった基本技術についての書籍化など,長らくの研鑽の中で培われた知識・経験の伝承に積極的に取り組まれ,斜面変動研究の発展に大きく貢献されてこられました.大八木先生の成果は学術的な貢献だけでなく斜面変動による被害の軽減という社会的な意義も大変大きいものでした.

以上のことから大八木規夫先生を日本地形学連合の名誉会員に推薦いたします。

文責:目代邦康

2016年10月8日推戴

鈴木隆介 (Takasuke Suzuki)

鈴木隆介先生は,1964年に東京教育大学大学院理学研究科博士課程を修了され,1966年4月に中央大学理工学部地学教室の講師に着任されました.1968年に助教授,1973年に教授を経て,2007年に同大学理工学部を定年退職されるまで,同大学にて土木工学等の学生達に,地形工学,地質工学,地学,地学実験などの講義をされつつ,地形学の重要性を唱えられてきました.また,1993–1997年に理工学部長,1995–2003年に選任評議員,1996–1999年に理事,2003–2007年に大学院理工学研究科防災危機管理工学副専攻教授,2004–2005年に副学長,産学官連携・知的財産戦略本部長を歴任されるなど,要職を歴任されました.

研究面では,博士論文にて「飯縄火山の地形学的研究 : 特に古い火山体の沈下機構について」をご執筆されるなど,初期には火山地形学を精力的にご研究され,後に岩石や岩盤の風化・侵食に関する研究を中心に地形学全般にわたる研究を進められました.秩父盆地における河成段丘崖の斜面発達や各地に分布する段丘の構成岩盤の風化速度,荒崎海岸や宮崎県青島における波状波蝕棚の風化侵食過程,蛇紋岩の風化速度などの研究を進められ,その業績は数えるに余りあります.また,総説論文としては「ロックコントロールの研究小史」,”Geomorphology in Japan”,「地形学から工学への提言」などをまとめられ,地形学公式についても広く提唱されました.

鈴木先生は誰彼となく,学びたいと思う者を拒まず,迎え入れてくださいました.私自身も鈴木先生の研究室で毎月1回開催されていた「第2土曜会」での勉強会に参加するようになり,地形学の道を目指す転機となりました.鈴木先生に若い頃に影響を受けて今がある,という研究者は少なくありません.「測量」誌にまとめられた地形図読図についての連載は,地形学者以外からも高く評価され,1977年に読者賞を受賞されています.その後,これを4巻組の本としてまとめられた「建設技術者のための地形図読図入門」は,地形学研究者のみならず,応用地質学や土木工学の研究者・技術者達にも広く読まれています.

学会活動においては,1979年の地形学連合の創立に尽力され,1980–2001年の20年間を超える長い期間,委員を務められました.うち,編集主幹を1980–1989年,企画主幹を1989–1991年,渉外主幹を1991–1993年,会長を1993–1995年に務められています.2001年に中央大学で行われた第5回国際地形学会議では,組織委員会委員長を務められ,大会成功に大きく貢献されました.

鈴木先生は国際的な場でも大変ご活躍されています.1989年にフランクフルトで結成された国際地形学会IAG: International Association of GeomorphologistsではPublication officer (1989–1993年),Elected member (1993–1997年),Co-opted member (1997–2001年) 等の重責を果たされました.そして2009年,メルボルンで開催された第7回国際地形学会の折には,長年の先生の地形学への学問的貢献および国際地形学会への貢献が広く認められ,国際地形学会名誉会員(Fellow) の称号が授与されました.以上のように鈴木先生は,今日にいたるまで,日本のみならず世界の地形学全般の牽引車的存在であり,地形学史に残る重要な研究者のお一人であります.

以上のことから,鈴木隆介先生を日本地形学連合の名誉会員に推薦いたします.

文責:小口千明

2016年10月8日推戴